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喘息死の減少に向けて方策を考える

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我が国での喘息死亡者数は年間約6,000 人に達している。
若年者の喘息死の問題に加え、最近では小児軽症喘息例における
喘息死亡率の増加など、新たな傾向もみられ、
喘息死の減少に向けた対策が求められている。
そこで、今回は内科医、小児科医、救急医それぞれの立場から、
喘息死の実態とその減少に向けての患者管理ならびに
適切な薬物治療の在り方などについて語っていただいた。

出席者
国立療養所盛岡病院臨床研究部長(小児科)赤坂 徹氏
大阪市・医療法人宮武内科院長 宮武 明彦氏
船橋市立医療センター救命救急センター副部長/麻酔科集中治療科科長 境田 康二氏


喘息死の動向
最近は減少傾向に陰り

赤坂 本日は「喘息死の減少に向けて方策を考える」をテーマに、内科医を代表して大阪市で医院を開業されています宮武先生と、救急医を代表して船橋市立医療センター救命救急センターでご活躍の境田先生とともにお話を進めてまいりたいと思います。喘息死は気管支喘息の最も不幸な転帰であり、その防止は喘息治療の大きな目的の1つとなっています。
 我が国の喘息死亡率(全年齢層)は、近年人口10万人対5人前後で推移し、1994年まで減少傾向でしたが、95年には5.8まで増加し、それから減少しています。年齢別では、高齢者が高い死亡率を示しています。また、ごく最近は、やや落ちつく傾向にありますが、90年代初頭から20歳代男性の死亡率増加が問題となっています。成人における喘息死の特徴は、発作とともに急激に増悪して死亡する例が多く、死亡前重症度は中等症・重症が大半を占めていることです。一方、小児では、喘息死は減少していますが、死亡前重症度では軽症が全体の約25%を占め、軽症でも死亡する場合があることが警告されています。
 境田先生の施設における喘息死の動向はいかがでしょうか。

境田 船橋市の人口は約50万人で、重症疾患患者の大半は当院に収容されます。当院では、市消防局の救急ステーションとしてドクターカーが常時待機しています。119番通報時には、管轄の救急車が出動すると同時にドクターカーも出動する態勢がとられており、住民の重症疾患患者の情報はほぼすべて当病院に集められています。最近では喘息発作に対してもドクターカーが積極的に出動しており、そのため喘息死亡者数は出動以前の20人前後から10人前後にまで減少しました。喘息死は、ほとんどの症例が在宅、自家用車内などの院外死で、院内死亡例は少ないのが現状です。

赤坂 宮武先生は喘息死の頻度について、どのような印象をお持ちですか。

宮武 実際には、統計データと日常診療における印象が多少違うように思います。私が以前勤務していた大阪府立羽曳野病院では、内科系、小児科系それぞれ約2000例の外来喘息患者さんがおりましたが、81〜89年の間で確認できた喘息死例は10例程度にすぎず、非常に少ない印象があります。しかし、喘息死例が少なからず存在することは残念ながら事実であり、解決していかなければならない問題です。

救急における喘息死の実態
喘息発作を我慢する傾向

境田 ドクターカーで救急現場に向かうと、ベッドに横たわる患者さんの周りにβ2刺激薬の空き缶が多数転がっているのをよく目にします。喘息患者さんの場合は、救急車を何度も呼ぶのは申し訳ないと思い、限界まで我慢する傾向があるのです。私たちは「救急車を呼んでもよいのですよ。救急車を呼んだら、そこから動いてはいけませんよ」と話すのですが、玄関まで歩いて行き、動いたためにばったり倒れていることもあります。この実情から、喘息は増悪すると死に至ることを一般開業医の先生にももっと知ってもらう必要があると思います。また、開業されている先生方は、来院されなくなった患者さんが喘息死に至るような転帰をたどっているようなことは、わからないと思います。そこで、私どもでは喘息講習会を開き、集積したデータを還元し、治療内容の向上にお役に立てればと考えています。

赤坂 喘息死の最近の傾向として、20歳代男性の死亡率増加が指摘されていますが、救急現場ではいかがでしょうか。

境田 若年者の喘息死例は重積発作によるものではなく、一気に発作が進み、短時間のうちに低酸素状態が進行し死に至るという印象が強くあります。喘息死に至る要因としては、患者さん側、喘息疾患自身、医療側の3つの要因が考えられます。医師のなかには喘息発作時の高濃度酸素投与は呼吸停止の原因になると誤解して、救急隊員がその指示に従って酸素投与量を減らし、喘息死の危険に曝されるという実態もあるのです。

宮武 若年者の喘息死例では、喘息を小児期に発症した患者さんと、成人発症の患者さんのどちらが多いのでしょうか。

境田 成人発症の患者さんが多い印象を受けます。小児期の発症に比べて成人発症の患者さんの場合、喘息に関する理解が不十分のために発作を我慢したり、吸入β2刺激薬に頼りすぎて、破綻をきたしていると思います。

喘息死ハイリスク群の特徴と管理
患者、医師ともに喘息治療への理解が必要

赤坂 喘息死のハイリスク患者について、宮武先生はどのようにお考えですか。

宮武 私はやはりコンプライアンスの悪い患者さんと、医師の指導に従わない患者さんが1つのハイリスク群だと思います。

境田 喘息コントロールがうまくいかないと、そのたびに医療機関を変え、結果的に一定した治療が行われていない患者さんは重症発作を繰り返しやすくハイリスク群にあると思います。

宮武 我々が、near-fatal asthma27例の背景因子を検討した結果、致死的大発作を3回以上経験した2例は患者さん側だけではなく、医療側にも問題がありました。1例は、アスピリン喘息の患者さんで、眼科手術後非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を投与されたため、大発作を起こしたケースです。ですから、アスピリン喘息に対する理解を歯科を含めた各科に周知させることが必要だと思います。

境田 確かにアスピリン喘息の場合は、アスピリンばかりでなくNSAIDのすべてがだめであるということが、医者の間でもなかなか理解されていませんね。

赤坂 境田先生のところでは病診連携が確立し、救命例は開業医の先生方にお返しするわけですが、最近の傾向として何かお気づきの点はありますか。

境田 最近、当院では重症発作で搬送されてくる喘息患者さんが減少傾向にあり、人工呼吸を必要とする患者さんも昨年から年に1例です。これは入院した喘息患者さんに、日常の喘息管理薬としての吸入ステロイド薬と、発作治療薬としての吸入β2刺激薬の役割や使い分けなどを説明しているためだと思います。また、講習会などを通じて、開業医の先生方による治療法が少しずつ変化していることによるものだと思います。

●小児では軽症発作でも死に至る

赤坂 小児では、喘息死例の死亡前重症度をみますと軽症例の割合が成人の約10%に比べて約25%と多いのですが、これについてはどのようにお考えですか。

宮武 私のところでも小児喘息の患者さんがおりますが、喘息死例は経験しておりません。ただ、小児で軽症例の喘息死が多いのは、発作時に成人に比べて体液バランスなどが崩れやすく、脱水に陥りやすいからではないでしょうか。

境田 私もそのように思います。 さらに麻酔科医の立場から申しますと、子供はガス交換や体循環に関して呼吸と心拍の回数で対応しているところがありまして、その回数が稼げなくなると短時間のうちに低酸素状態が進行します。大人の場合は、純酸素で十分に麻酔を導入し換気していれば一時的に呼吸停止になっても、4〜5分では低酸素状態になりません。ところが、子供は、換気時に少しでも呼吸が止まるとすぐに低酸素状態になります。子供の場合は軽い発作と思っていても、そこから低酸素状態に進む速さは大人の数倍速く、一気に喘息死に達する可能性があります。

●患者カードの携帯は緊急時に有用

赤坂 喘息患者さんのリスク管理にあたり、宮武先生は「アズマ・カード」を発行していますね。

宮武 当院には喘息患者さんの会があり、会員には治療内容や重症度、薬剤アレルギーの有無など、喘息治療に関する必要最低限の事項を記載した健康保険証大のカードを渡しております。外出時にはそれを携帯するように指示し、役立っています。

赤坂 私どもでも喘息の治療内容や連絡先などを記載した喘息日記を患者さんに手渡し、どこの医療機関に行く場合にも必ず持つように指示しています。

境田 救急の立場としては、そういうものがあれば、治療計画が立てやすく、非常にありがたいですね。

喘息死減少への戦略
ステロイド吸入療法で喘息死を阻止

赤坂 次に、実際に喘息死をどのように防ぐのかについて話を進めたいと思います。最近、喘息治療は大きく進歩し、さまざまな治療薬が入手可能となっています。なかでもプロピオン酸フルチカゾン(フルチカゾン)などの吸入ステロイド薬はその有用性が高く評価されています。宮武先生は、吸入ステロイド薬の導入が喘息治療あるいは喘息死にどのような変化をもたらしたとお考えですか。

宮武 先ほどnear-fatal asthmaの背景因子について触れましたが、この研究の目的の1つは、各国から気管支喘息の治療と予防のガイドラインが発表されて以降、大発作や喘息死がどう変化したのかを検討することにあります。海外で最初に治療ガイドラインが発表された89年以降とそれ以前で、吸入ステロイド薬の導入などにより喘息治療の在り方が大きく異なってきました。それまでは医療側の治療の不十分さが原因で大発作を起こす例も多かったと思います。しかし、喘息専門の医療機関や専門医の間で吸入ステロイド薬の使用が進むにつれて、重症例も減少していることは間違いないと思います。その点では、日本アレルギー学会を中心とした喘息に対するステロイド吸入療法の必要性がよく啓蒙されていると思います。そのことがもう少し一般開業医の間にも広がると、さらに日本の喘息死亡率は減ると思います。

赤坂 宮武先生はフルチカゾンの使用経験が豊富でいらっしゃると思いますが、現在、プロピオン酸ベクロメタゾン(ベクロメタゾン)とフルチカゾンの使用比率はどれくらいでしょうか。

宮武 およそ50%ずつぐらいだと思います。初診の患者さんで軽症持続型以上で吸入ステロイド薬の適応である場合には、すべてフルチカゾンから治療を開始しています。フルチカゾンはベクロメタゾンに比べて抗炎症効果が強く、ドライパウダーなので、吸入方法も容易という特徴があります。ただ、薬の切れ味がよいために、治療開始後数カ月で症状が改善すると、自己判断でその後2〜3カ月来院しない患者さんも多くいます。そのような患者さんには、「喘息は、高血圧や糖尿病と同様に、慢性の病気で一生治らないから治療を継続する必要があります」と指導しています。

赤坂 私は小児科医ですので、患者さんとご家族の反応をみながら、中等症以上の患者さんに対しては、クロモグリク酸ナトリウムの吸入などを併用した形で中等量程度を限度としたベクロメタゾンの吸入を行っています。

●喘息非専門医に求められる吸入ステロイド薬の適正使用

赤坂 吸入ステロイド薬の導入と患者教育の徹底により救急外来患者数が減少したということですが、吸入ステロイド薬の必要性についてどうお考えですか。

境田 喘息専門医の先生方は、吸入ステロイド薬の必要性を十分理解していますが、一般開業医の先生方のなかにはまだ十分でない方もいらっしゃいますので、専門医の先生方には、吸入ステロイド薬の必要性と吸入手技などについて、実演を交えながら教えていただく機会をもっと作っていただければと思います。

赤坂 宮武先生は喘息治療の病診連携についてどのようにお考えですか。

宮武 当院には、約1500人の外来喘息患者さんがおりますが、定期受診している方は半数弱だと思います。しかし、喘息管理と患者教育をしっかり行えば、大発作や喘息死に至ることはありません。つまり、喘息死を減らすうえでは、日常の喘息管理と患者教育の重要性を専門医から一般の先生方へ繰り返し啓蒙することが必要だと思います。初診で、治療歴を尋ねると吸入ステロイド薬の使用量が非常に少なく、そのために十分な有効性が得られずに、気管支拡張薬主体の治療が継続されている例が多いのです。その点をどのように改善するかが大きな問題だと思います。実際、神戸市立中央市民病院では、吸入ステロイド薬の使用量の増大に伴い、喘息入院患者数が激減したことが報告されており、喘息患者さんの重症化を防ぐためには、吸入ステロイド薬を適正に使用し、喘息のコントロールを図ることが必要と思います。

赤坂 吸入ステロイド薬によって喘息死は減少するでしょうか。

宮武 吸入ステロイド薬を少量でも使用している患者さんでは、全く使用していない方に比べて喘息死の危険性は明らかに少ないという海外の報告がありますので、気道炎症を抑える吸入ステロイド薬を使用することは必須であると思います。ただし、経口ステロイド薬長期服用例の場合には、副腎皮質機能不全がある可能性が非常に高いため、吸入ステロイド薬により症状がコントロールできたからといって、急激に経口ステロイド薬を減量することは危険です。

●病態の理解と喘息管理が重要

赤坂 最後に先生方が実際に行っていらっしゃる患者教育についてお伺いしたいと思います。

宮武 私の場合、初診時には、まず基本的な問診と診察を行い、喘息治療が必要であれば、写真や模型を用いて喘息の病態をわかりやすく解説します。その後、看護婦さんに吸入器具とピークフロー値の測り方などを最低30分以上かけて説明してもらいます。そして、1週間後に必ず来院してもらい、吸入手技を確認して不完全な場合には再度指導し、その後も不定期に抜き打ちチェックを行います。吸入指導に時間をかけることが、患者教育につながっていくと思います。

境田 私は救命できた喘息患者さんに対しては「喘息は治らないと同時に、死ぬ可能性もある疾患です。しかし、日頃からきちんとコントロールし、うまくつきあうと、死に至る心配もなく、救急車で運ばれることもありません」と話し、喘息をよく理解してもらうように努めています。また、患者さんのご家族に対しては、大発作時の呼吸補助として、呼気に合わせて用手的に胸壁を圧迫する胸郭外胸部圧迫法を教えています。これにより患者さんも次の吸気が入るようになり、救急車で安全に病院まで搬送することができます。喘息死の防止には、その家族にも喘息について理解してもらうことが必要と感じています。

赤坂 小児科では、年齢が低く、本人が理解できない場合は、患児のご両親に、環境改善や吸入療法の重要性、長期管理薬と発作治療薬の違いなどを説明し、患児本人が理解できる年齢になったら、両者に話すようにしています。しかし、特に思春期の喘息死がなかなか減少せず問題となっています。その対策としては、思春期の子供たちに喘息治療の意味や、どういう時が危険な状態かを理解してもらうために、相手に応じたきめ細かな指導を繰り返し行わなければならないと思います。
 本日は大変有意義なお話を伺うことができました。ありがとうございました。