吸入ステロイド剤のコンプライアンスと安全性
− Budesonide turbuhalerについて−


滋賀県立大学人間看護学部  藤田きみゑ
医療法人宮武内科  宮武明彦

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はじめに
 近年,気管支喘息の薬物療法は気管支拡張剤を中心とした治療から,気道粘膜の慢性炎症に対応する吸入ステロイド剤療法に移行した.この治療法の変化は喘息死の減少1)や患者QOLの向上をもたらし,喘息を外来で管理可能な慢性疾患へと変貌させた.
 現在までにわが国で発売されている吸入ステロイド剤の種類はベクロメサゾン(BDP),フルチカゾン(FP),ブデソニド(BUD) の3種であるが,それぞれのデバイスや剤型,噴射剤の種類などにより,薬剤平均粒子径や抗炎症力価などが微妙に異なるため2),この多様性により薬剤の選択肢が増え,ある程度の患者の病状や嗜好に合わせての投薬が可能となった.しかし,選択肢が増えても,患者の吸入ステロイド剤のコンプライアンスが不良であれば, 期待される臨床効果を上げることは困難である.GINA3)では,コンプライアンスを不良にする因子を大きく薬剤の因子と薬剤以外の因子に分類し,薬剤の因子の中に吸入器使用の難しさを挙げ,吸入器の取扱が簡便であるほどコンプライアンスが向上する可能性を示唆している.
 BUD turbuhalerは1980年代末より世界各国にて使用され,その安全性については広く認知されている.しかしながら,わが国においては2002年1月末に厚生省認可を受け使用が開始されたばかりであり,BUD turbuhalerの日本における吸入コンプライアンスや安全性については未だ検討が少ない.このようなことを踏まえて,BUD turbuhalerを使用している患者の吸入コンプライアンスの検討ならびに質問紙アンケートと電話調査によるBUDの安全性を検討した.

1.BUD吸入コンプライアンスの検討
 宮武内科において初診よりBUD turbuhaler(以下BUD) を処方され,初診時から約6ヶ月目の受診時までに2回以上の吸入再指導を受けた喘息患者44名(男性17名,女性27名)について吸入コンプライアンスを検討した.評価判定は吸入手技が適切か,主治医の指示通りの吸入量・吸入回数で吸入しているか否かで判定を行った.BUD吸入手技項目は,@タービュヘイラー基本使用手技ができているか,A息止めができているか,B正しい姿勢で吸入を行っているか,C残量確認ができているか,D吸入後のうがいはできているか,の5項目であり,基本使用手技とは(1)タービュヘイラーの持ち方は正しいか,(2)器具に息を吹きかけていないか,(3)水洗いをしていないか,(4)キャップを閉めて保管しているか,の4項目を表す.また,吸入回数については,主治医より指示された吸入量・吸入回数両方が完全に遵守されているか否かを判定した.この吸入手技5項目全てが実行され,かつ吸入量・回数等全てが守られている場合を「両方可」,手技5項目全てが実行されたが,吸入量もしくは回数が,あるいは量・回数ともに守られていないものを「手技のみ」,吸入量・回数は遵守されているが,手技に一つでもで不備がある場合を「回数のみ」,吸入手技と吸入回数が両方ともに守られていない場合を「両方不可」の4通りで判定を行った.その結果,性別吸入状況では,「両方可」の男性は16名(94.1%),女性は25名(92.6%)であった.「手技のみ」の男性は0名,女性1名(3.7%),「回数のみ」の男性は1名(5.9%),女性1名(3.7%),「両方不可」は男女ともなかった.



2.BUDの安全性の検討
 BDPやFP投与にて良好な抗喘息効果が認められなかった患者および新患患者に対してBUDの投与を開始した後,3ヶ月以上の定期通院治療を継続した患者165名(男性57名,女性108名)について,BUD吸入後3ヶ月目の局所の副作用発現頻度をアンケートと電話調査にて検討した.
患者165名の男女平均罹病期間は17.6±13.8年,男女平均IgE-RIST 335.8±468.1 IU/ml,Eosinophil 6.0±5.3%であった.また,喘息重症度(WHO:1995)はstep-1はなく,step-2 :117名(70.9%),step-3 :37名(22.4%),step-4 :11名(6.7%)であった.さらに,男性BUD平均吸入量は605.3±374.4mcg/day,女性BUD平均吸入量は629.6±338.0mcg/dayであり,吸入量に男女差は認めなかった.  呼吸器系,消化器系,その他に分類した複数回答によるBUD吸入後の副作用を表に示す.呼吸器系副作用で最も多く認められたものは嗄声7.2%であり,次いで痰4.8%,咽頭痛4.2%の順であり,喘息症状が悪化する者も1名認められた.また,消化器系の副作用で最も多く認められたのは,舌の痛みや口内炎症状であった.さらに,その他の症状として,副作用ではないものの,吸入した実感がなく不安であるとの感想が12.0%寄せられた.



考 察
 今回の検討結果では,BUD吸入コンプライアンスに男女差はなく,吸入手技・回数共に間違いなく実施できていた全体割合は93.2%と高率であった.この結果は,以前,われわれが検討したBDP(アルデシン,ベコタイド)の吸入コンプライアンス4)と比較して非常に良い結果を示した.また,吸入手技が間違っていたのは女性1名のみであったこと,安全性のアンケートの際に,器具の使い勝手が不便と回答した患者は165名中わずか3名(1.8%)であったことを併せて,スペーサーを用いない器具使用の簡便さが良好なコンプライアンス結果に繋がったと考えられた.喘息管理のために患者コンプライアンスを高めることは患者教育の重要な事項3)であることから,吸入ステロイド剤選択には器具の簡便性も考慮に入れる必要性が考えられる.
 一方,吸入ステロイド剤の安全性については,短期投与にて発現する副作用ならびに長期投与によって生じるものが考えられるが,今回のアンケートと電話調査により得られた結果は,吸入後3ヶ月目までに生じた比較的短期間の副作用を列挙している.吸入ステロイド剤にて比較的多く認められる症状である嗄声や痰の増加,口内炎などのBUDの副作用発現頻度はむしろ低い.この副作用発現が低い一因としては,BUDが乳糖などが添加されていない実薬のドライパウダー製剤であるためと考えられている.しかしながら,継続治療3ヶ月を越えてより,舌の痛みや咽頭痛などの口内炎症状にてBUD吸入を継続できなくなる症例が散見されたことから,局所的副作用についても長期経過観察が必要と考えられた.



 近年,高容量の吸入療法が欧米および日本で広く用いられるようになり,ステロイド薬の全身投与と同様,吸入ステロイド剤の長期投与による骨塩量に対する影響を考える必要が出てきている.Agertoftら5)は,110〜877μg(平均412μg)のBUDを3〜13年(平均9.2年)間吸入し, 成人身長に達した211例の小児の検討を行い,喘息小児がBUDの長期投与を受けても標準の成人身長に到達することを報告している.一方,閉経直後より顕著に骨粗鬆症を発症しやすい女性喘息患者に対する検討において,閉経後喘息患者は閉経後健常群と比較して骨塩量(BMD)および骨形成マーカーである血清intact osteocalcin値の有意の低下を示し,エストロゲン低下・欠乏状態の女性に対する吸入ステロイド剤投与に際しては,全身投与の場合と同様,定期的な骨塩量の観察が必要であることをわれわれは報告している6).このようなことから,今後,閉経後喘息患者の骨塩量に対するBUDの影響の検討も必要と考えている.

参考文献
1)石原享介:日本における喘息死の現状.International Review of Asthma, Vol.4, No.4, p60-66, 2002.
2)藤田きみゑ,宮武明彦:気管支喘息患者に対する吸入ステロイド治療の最新の動向.最新医学,第58巻,第2号,p93-98,2003.
3)GLOBAL INITIATIVE FOR ASTHMA. NATIONAL INSTITUTES OF HEALTH, National Heart,Lung,and Blood Institute. Revised 2002.
4)藤田きみゑ,藤田麻里,中野直子,長坂行雄,比嘉慎二,渡邊 大,田中敏郎,宮武明彦:ブデソニド・タービュヘイラー(BUD)の吸入コンプライアンスの検討.アレルギー.Vol.52, No.2・3 ,p314, 2003.
5)Lone Agertoft, Soren Pedersen, Med.Sci.:Effect of Long-term treatment with inhaled Budesonide on adult height in children with asthma.The New England Journal of Medicine, Vol.343, No.15, p1064-1069, 2000.
6)Fujita K, Kasayama S, Miyatake A. et al:Inhald corticosteroids reduce bone mineral density in early postmenopausal but not premenopausal athmatic women.J Bone Miner Res. 16(4):782-787, 2001.