喘息専門医家における
吸入ステロイド薬の使用実態

−特にシクレソニド使用経験を中心に−


開催日:2008年1月26日開催日:2008年1月26日
場所:ホテルパシフィック東京




このHPはProgress in Medicine Vol.28 No.3 2008.3(ライフサイエンス社)
に掲載されたものを再編集したものです。

 吸入ステロイド薬は,軽症持続型(ステップ2)以上(『喘息予防・管理ガイドライン2006』による)の気管支喘息治療の中心的薬剤に位置づけられています.しかし,現実には経口薬と比較して吸入手技が煩雑など,未だ臨床現場で十分に普及しているとはいえません.
 昨年6月,1日1回の吸入で効果が持続し,肺で活性化されるため口腔カンジダ症や咳嗽などの有害事象発現率が低いシクレソニドの臨床応用が可能となりました.ここでは,シクレソニド使用経験の豊富な臨床医家3名にお集まりいただき,吸入ステロイド薬全般にわたるお話を伺うとともに,シクレソニドの使用経験を踏まえた印象や今後の喘息治療の展望などにも言及していただきました.


■始めに

佐野 本日は大変ご多忙のところ,ご参集いただきありがとうございます.昨年6月に新しい吸入ステロイド薬シクレソニドが発売となりました.この薬剤は軽症から重症までの気管支喘息(喘息)の症状コントロールが可能であり,しかも1日1回と投与回数が少なく,また嗄声などの有害事象が他の吸入ステロイド薬と比較して少なく,アドヒアランスの向上が期待できる薬剤です.ここでは「喘息専門医家における吸入ステロイド薬の使用実態―特にシクレソニド使用経験を中心に―」をテーマに,喘息治療における吸入ステロイド薬(ICS)の位置づけや効果的な使用法,さらにはシクレソニドの特徴について明らかにしたいと思います.
 シクレソニドは,規模の大きな病院や大学病院ではいまだ採用間もないということもあって使用経験がまだ少ないと思われます.むしろ,喘息を専門に診療するわれわれ臨床医家の使用経験が若干勝っているであろうことから,本日はお2人の先生をお招きしました.
 まず,『喘息予防・管理ガイドライン 2006』(以下,ガイドライン)でのICSの位置づけ,あるいはその効果について,亀井先生,よろしくお願いします.

■喘息治療におけるICSの位置づけ

亀井 わが国のガイドラインでは,喘息の治療が重症度から考えられていて,軽症持続型(ステップ2)以上ではICSが第一選択薬になっています.ICSが有効であることは,死亡率をもとにした有名なカナダのデータも含めて数多くの報告があり,その有効性を疑う余地はありません.
 問題は,われわれ開業医が診察している患者さんの重症度です.軽症間欠型(ステップ1)については,ガイドラインでは週に1回未満の喘息症状,もしくは気道炎症が示唆される症例にICSを含め,徐放性テオフィリン,ロイコトリエン受容体拮抗薬など,1剤の投与を推奨しています.
 しかし,診療所ではこうしたステップ1の患者さんは少なく,軽い咳嗽の患者さんでも,受診前日,前々日には咳嗽が原因で眠れなかったような経験をされている方が多いのです.ですから,仕事や学校を休んで診療所を受診する時点で,治療の必要度は既にステップ2以上の症例が多いと理解しても良いと思います.  ガイドラインでのICSの位置づけでは,ステップ2以上で第一選択とされていますが,喘息全体に網をかける最大公約数的な治療という意味で,ICSが文字どおりキードラッグだと思います.
佐野 患者さんは苦しい思いをして来院するわけですから,重症度のいかんにかかわらずICSできちんと治療することが大事ということですね.
 宮武先生,ICSの効果的な使い方に関してはいかがでしょうか.

■ICSの効果的な使用方法

1.各種症例の経験から
宮武 いくつか症例を提示します.
 症例(1)はベクロメタゾン―CFC(BDP―CFC) 900μg/日投与中の82歳の男性ですが,ブデソニド(BUD―DPI)へ切り換えた直後にピークフロー(PEF)値が20%程度低下し,ICSを元に戻すと改善しています.
 症例(2)は75歳の男性です.BDP―CFC 1,000〜1,400μg/日の高用量を使用し,短時間作用性β2刺激薬も1日3〜6回使用しています.さらに毎日経口ベタメサゾンを0.25 mg程度服用しないとコントロールが困難な患者さんでした.BUD―DPIに切り換えたところ,翌年の同じ時期,2月のPEF値は大幅に改善しました.BUD―DPIの投与量は1,200 μg/日必要でしたが,経口ステロイド,短時間作用性β2吸入も不要になった症例です.
 症例(3)は64歳の女性です.当初フルチカゾンディスカス(FP―DPI)を800 μg/日,サルメテロール100 μg/日に加え,プレドニゾロン5mgを毎日1錠から3錠程度内服して図1に示す程度のPEF値を示していました.ベクロメタゾン―HFA(BDP―HFA)800 μg/日に変更し,PEF値の改善を認めたこともあり,患者自身の判断でプレドニゾロン,サルメテロールを中止し,BDP―HFAを600 μg/日,400 μg/日と,1カ月半ほどで次々に自分で減量を繰り返しましたが,それでも図1に示すPEF値を維持しています.この症状をみる限り,ICSを変更する場合に抗炎症力価を合わせて変更すれば症状をコントロールできるというものでもなさそうで,個々に合った吸入剤型を考慮しながら様々な使い方をせざるを得ないことがわかりました.



佐野 やはり個々人に合わせた薬剤の剤型選択を行うことが大切ということですね.それから高齢者や小児では吸入の仕方にも配慮する必要がありますね.
 いずれにしても,ICSをきちんと吸入していただくことができれば,効果が得られるということです.
 以前は,重症でPEF値が200 L/分を切るような気道リモデリングが進行したような方はICSだけではなかなかコントロールがつかず,時に点滴を要したものですが,昔のようなひどい発作を起こさずに,入院しないですむようになってきたのは,ICSの進歩のお陰でしょう.

2.吸入指導時の注意点
佐野 吸入法については,ドライパウダー製剤(DPI)も定量噴霧吸入器(MDI)を使用する場合もほぼ同じですか.
亀井 十分な吸気流速が得られ,肺機能が正常な方であればドライパウダー製剤で問題ないでしょうが,高齢者や低肺機能,気道リモデリングによる細気道病変のあるような症例では,MDIの方が良いと思います.局所の症状や乳糖過敏症があれば,シクレソニドの適応です.
 当院では調剤薬局にピークフローメーターや吸気流速を測定するインチェックを置いてもらい,測定データをフィードバックしてもらうようにしています.
佐野 では,吸入指導は調剤薬局が行ってくれるわけですか.
亀井 最初は私が指導していたのですが,患者さんの数が増えてくると手が回らなくなって,調剤薬局の薬剤師の方がチェックシートで全部チェックしてくれています.
佐野 先生はドライパウダー製剤では息止めを指導されていますか.
亀井 しています.ドライパウダー製剤でもエアゾールでも吸入指導で最も重要な点は息止めだと思います.
佐野 DPIでは必要ないとか,意外に行っていない医師が多いですね.それぞれの薬剤にはそれぞれの効果的な吸入の仕方があります.ゆっくり吸入していけるので,吸入指導はエアゾールの方が楽ですね.

■喘息専門医を受診する患者さんの実態

佐野 ところで,われわれ喘息専門医を受診,あるいは紹介されてくる患者さんはどういう方が多いのでしょうか.
宮武 当院の昨年11月,12月の初診患者数は80名でした.その中で喘息の診断がついた患者さんは38名です.内訳は病院・開業医からの紹介が7名,患者さんの友人,知人からの紹介が17名などです.ほとんどの患者さんは複数の医療機関でコントロールがつかずに来院されるケースが多いので,中等症持続型(ステップ3)以上が多いと思います.
佐野 亀井先生の所ではどうですか.
亀井 当院では喘息の診断でよほど手こずる症例以外は内科の先生から紹介される場合はあまりありません.アスピリン喘息の対処がわからず,呼吸器専門医でアレルギーも診ているという理由で紹介されることがあるくらいです.
 ただ,軽症や中等症の一部の患者さんは咳だけが持続しているため,漫然と診ている先生は,抗菌薬や鎮咳薬だけを変更して喘息の治療に移っていない場合もあります.
 ICSを処方されている例もあるのですが,最低量で,しかも治療効果の評価がなされずに治療内容がまったく変化せず,改善がみられないのに同じ処方が続けられる,「効かない」ケースもみられます.ですから,他院にかかっていたほとんどの患者さんはご自分で選んで受診されています.
 当院では,耳鼻咽喉科医からの紹介が多いのが1つの特徴です.開業してわかったのですが,患者さんは,咳でけっこう耳鼻咽喉科医を受診するのです.one airway,one diseaseといいますが,香川県では香川県耳鼻科医会,香川県内科医会呼吸器部会,香川県小児科医会で年に2回検討会を行っています.そこに出席したのがきっかけで,耳鼻咽喉科の治療で咳が改善しない患者さんを送ってくださるようになりました.  逆に喘息の患者さんで改善がみられず耳鼻咽喉科に紹介すると,実は鼻に問題があるケースもあって,緊密な地域連携が大事だと思うのです.
佐野 咳で,最初はかぜだと思って耳鼻咽喉科を受診する患者さんは多いですね.咳喘息の場合,最初のうちは耳鼻咽喉科の治療で改善する患者さんもいますが,そのうち改善がみられなくなって患者さんを紹介してくるのではないでしょうか.私のところでも圧倒的に咳喘息が多くて,その中で喘息に移行する例が2〜3割みられています.
宮武 特に,咳喘息と診断がついた後も禁煙ができない患者さんは喘息に移行する例が多いように思います.ですから咳喘息で喫煙習慣のある人に対しては徹底した禁煙指導を行っています.
佐野 咳が激しいうちは禁煙するのですが,咳が止まるとまた吸い始める方もかなりいますね.咳についてはやはり耳鼻咽喉科医がけっこう診ていて,治らなくなると,喘息を疑って紹介してくるパターンがみられるようです.
宮武 ある程度症状をコントロールできる症例はそのままご自分で診ておられるのだろうと思います.

■新規吸入ステロイド薬シクレソニドの特徴

1.従来薬との効果の比較
宮武 症例(4)は46歳の女性です.10歳時に発病し,42歳で再発した患者さんです.血清IgE値が863 IU/mLと高値で,皮膚のプリックテストでもハウスダスト,チリダニ,スギ,ブタクサ,カモガヤがすべて陽性で,アレルギー素因が強い方ですが,家の中でイヌを2匹飼っています.喫煙,薬剤性アレルギーはありません.
 当院受診までにフルチカゾン(FP―DPI)200 μg/日,また,プロカテロール吸入を頓用で使用していました.初診時の呼吸機能は努力性肺活量(FVC)が1.63Lで,FEV1.0が1.47 Lです.この患者さんに対してはドライパウダー製剤のフルチカゾンディスカス(FP―DPI)の効果がマッチしていないと思いましたので,フルチカゾンエアー(FP―HFA)に変更し,吸入量も400 μg/日と倍量にしました.するとFVCが1.63 Lから2.32 Lに,FEV1.0も1.95 Lまで増加しました.それ以降も症状が安定しているため,1日1回吸入に置き換えられると考え,シクレソニド400 μg/日に変更しました.1カ月ぐらいしてからのフローボリューム曲線ですが,同じガス製剤で用量も同じですが,FVCが2.32 Lから2.59 Lへ,FEV1.0も2.12 Lへとさらに改善しました(図2).



 今回の症例でいえば,FP―HFA(100 μg/噴霧)製剤を1日1回で吸入しようとすると,一度に4噴霧しなければなりませんが,その点,長時間の薬剤効果が実証されているCIC―HFAは200 μg製剤がありますので,2噴霧で済み基本的にスペーサーの必要もなく,アドヒアランスが向上してこのような効果が現れたと考えています.
佐野 亀井先生はどうですか.
亀井 当院ではあまり重症例がいませんので,いまのところ既存の吸入ステロイド薬が副作用などで投与できない人に切り替えで使うケースが多いですね.それで肺機能や症状が悪化することはありません.ピークフローはすべてみているわけではありませんが,受診時の肺機能検査でみても末梢気道が悪化した症例はみられません.
 吸入療法は,患者さんがきちんと吸入を続けてくれることが最も重要なファクターです.そう考えると,局所の刺激が少なく,1日1回で吸入手技が簡単だということからCIC―HFAは非常に有効だという実感をもっています.
宮武 CIC―HFA発売1カ月くらいの時点でまとめたものですが,29例がどのようにCIC―HFAに移行したかを表1に示します.BUDは5例で600±200 μg/日からCIC―HFA480±110 μg/日に,また,FPからはほぼ同量への変更でした.ベクロメタゾンはほぼ同力価と考えられますので,600 μg/日の投与をしています.効果はほぼ同等もしくはそれ以上でした.
 私の所では,新規の患者さんはステップ3以上が多いので,初診時にそれぞれのICS最大量で開始し漸減して行きますので,CIC―HFAでも800 μg/日を分2で使ってどの程度症状が改善するかをみます.

2.1日1回投与のメリット
佐野 1日1回投与のメリットについてはいかがですか.
宮武 例えばFP―HFAとCIC―HFAを比較すると,FP―HFAはやはり24時間効果が持続していないと感じます.その理由は,FP―HFAを1日1回吸入していた患者さんのPEF測定では大きな下がりは認めませんが,来院時にスパイロメーターで呼吸機能を測定してみると,症状は安定していても呼吸機能の値が少し低下している症例がみられます.
亀井 当院では「良くなったら治療は簡便にして,少なくしましょう」というように,最初に治療方針をお話しするのですが,私の指導が悪いのか,知らない間に「もう夜だけにしています」と患者さんにいわれることがよくあります.
 そうすると,24時間カバーできているか保証がないまま,患者さんのアドヒアランスに合わせていかなければいけないということになります.その点CIC―HFAは薬理学的に効果が保証されていますので,安心して患者さんに使えます.
佐野 私のところでもそうですが,患者さんは症状が安定すると1日2回吸入することができなくなって1回だけにしているケースが結構ありますね.そのような方は,必ず1回は吸入できる朝か夜を選んでCIC―HFAの相当量に変更しますが,倍量をすることになりますので当然のことですが呼吸機能などが全般に改善します.

3.副作用
佐野 さて,吸入ステロイド薬の副作用については,嗄声など,いろいろなご経験がおありだと思うのですが,まず宮武先生からお願いします.
宮武 CIC―HFA98例(男性42例,女性56例)について局所の副作用を検討しました.平均年齢が61.5歳,CIC―HFAの平均投与量が566 μg/日です.
 喉の詰まりや咳症状の訴え方が,BDP―HFAのときに経験したものとよく似ているので,ステロイド自体の特性ではなくて溶媒のエタノールが日本人には合わない方がいらっしゃるのだと思います.それから,嗄声は他のICSより少ないように思います.
佐野 亀井先生はどうでしょうか.
亀井 私の場合,まだ使用経験が少ないのですが,発売早期のデータをとってみますと,76例のCIC―HFA投与例のうち,前治療のICSで何らかの副作用を認めた患者さんが61例で,新規に投与した患者さんは15例でした.このうちCIC―HFA投与を中止したのは口腔内がピリピリするという異常知覚を訴えた2例,嘔気を訴えた1例だけでした.何らかの副作用のためにCIC―HFAに変更した61例の内訳では,ICSでよく問題になる声枯れは30例中28例で改善しており,喉のイガイガ感は18例中15例,吸入時の刺激による咳嗽は全例で消失しました(表2).



プラセボ効果も多少あるかもしれませんが,文字どおり喉に優しいICSだといえると思います.
 咽頭に対する刺激は確かに少なくて,印象的に改善した症例を何例も経験しています.74歳の女性で急性増悪を繰り返し,気管支拡張薬で動悸,振戦がひどいためにステロイドの内服が時折必要になる患者さんがいたのですが,ステロイド内服時に口腔内にカンジダができます.うがいはまじめにしてくれているのですが,吸入と経口の両者のためか,カンジダができて抗真菌薬のうがいが時々必要になっていました.CIC―HFAに変更後はステロイド内服時にもカンジダの悪化はなく,継続により急性増悪が減少して管理が非常に良好になりました.咳嗽の原因の1つに,私が気づかなかっただけで咽頭の奥に常時真菌の刺激があったのかもしれません.経口ステロイドが必要な重症例にも安心して処方できるICSだと思います.
佐野 サルメテロール―フルチカゾン配合薬では嗄声など口腔内異常が2割近くにみられますね.用量が増えればそれだけ多くなると思うのですが,1,000 μg /日投与すると,嗄声がかなりの頻度でみられます.そのような患者さんもCIC―HFA800 μg分2になって「嗄声がなくなりました」という人がけっこう多くいます.
宮武 BDP―HFAもCIC―HFAも,新規投薬する場合には,診察室で一度噴霧してもらって,エタノールの匂いや刺激が大丈夫か否かを確認してから処方するようにしています.
佐野 それは大事なことですね.私もそのようにしております.それでは全身的な副作用では,どうでしょうか.
宮武 1990年代にCFC―BDPが1,600 μg/日くらいまで投与できるようになったときに,これほど大量に毎日吸入して大丈夫かなという心配があったので,ICSの骨への影響を検討しました.最終的には,内因性エストロゲンのない閉経後の喘息女性患者が,長期にわたり一定量以上のICSを吸入すると,骨密度および骨形成マーカーのオステオカルチン値が低下することがわかりました.皆さんがよくご存知のようにICSは骨代謝への影響があるということです.
 また,潜在性の副腎皮質機能低下症を診断するためには,従来の250 μg負荷ではなく,少量1.0 μgのACTH負荷試験が望ましいと1995年に論文発表されていたことを知り,当院でICSを継続使用している患者さん56例に対して1.0 μgACTH負荷試験を行ったところ,25%の患者さんに潜在性の副腎皮質機能低下症が認められました.
 アジソン氏病のような内分泌疾患診断のためには,従来から使われてきた薬理量の250 μgACTH負荷試験が必要ですが,ICSのように微量しか体内に吸収されない潜在性副腎不全の有無の診断には,少量1.0 μg負荷試験が望ましいと考えられます.
亀井 いまのお話は,高用量を使うときのお話で,私のように重症例が少ない開業医の立場からみると,多くのmeta―analysisのデータにあるように,少なくとも通常量では臨床的には全身性の副作用はないと考えて良いと思っています.ただ,高齢者には不必要に多くしないことが重要だと思います.COPDでも問題になっていますが,高齢者ではできるだけ常用量にしておくことが安全だと思います.
佐野 閉経後の60歳代の女性ですが,両上腕に皮下出血がいくつかあって,よく見せられたものです.従来のICSではうまくいかなかったのですが,CIC―HFAを同量に変えて,2カ月くらいで皮下出血が出なくなりました.他にももう1例同様の経験があります.そういう点では,CIC―HFAは全身性副作用がより少ない薬剤と思われます.
宮武 皮下出血が出やすいのは,グルココルチコイドに対する感受性が高い患者グループかもしれませんので,副腎皮質機能不全の有無を明らかにするためには,少量1 μgのACTH負荷試験を行い,フルチカゾンあるいはCIC―HFAで継続治療中の患者に試験をしたときに両群間に差が出るか否か,今後の検討課題となりますね.
佐野 大規模にやらないと,結論は出ないでしょうね.

■今後の喘息治療の発展,展開

亀井 当院は軽症を多く扱う診療所ですから,ほとんどの例でICSが有効です.画期的な治療が生まれない限りICSがgold standardですので,現在23%といわれる吸入ステロイド薬の普及率をいかに上げていくかという問題の解決に診療所の治療が大きな影響力をもっていると思います.  ただ,3分の2の喘息患者さんが軽症例という中で,軽症例を的確に診断することは難しいと思います.喘息の本態を気道過敏性の存在としてとらえた場合,喘息でステップ2以上は継続治療が必須ということを前面に出してくると,気道過敏性を調べられない診療所の医師たちは,自分が診ている患者さんが果たして本当に喘息で継続治療に該当するのかどうか自信がもてないのが現実だと思います.ですから,慢性の咳,胸部異常感を訴える方も含めて,ICSをもう少し広く,言葉は悪いですがもっと気楽にICSを使うことが大事だと思うのです.
 京都大学の新実先生の報告では,慢性咳嗽の外来において47%が咳喘息だったそうです.大学病院まで咳喘息の患者さんが行くには,必ずどこかを経由しているわけですから,その時点でICSを中心に治療していれば,そこで完結しているはずです.吸入ステロイド薬による治療の枠ががっちりし過ぎているところが,少し問題ではないかと思います.
 重症者をあまり診ない私たちのような所で喘息死を減らすために,ICSの普及率を高めていくには,専門家の先生にはお叱りを受けそうですが,喘息疑い症例にもICSを積極的に使っていくという戦略を考えなければいけないと思います.
佐野 咳や呼吸困難がみられれば,まずICSで診断的治療を行うべきだということですね.ICSを使っていくと,ほとんどの患者さんの症状が改善するのですが,気管支結核や肺癌などの場合もありますので,その辺を調べながらということになりますね.
宮武 15年以上前は,喘息は入院が必要な病気でした.この10年くらいは,専門医が診る方が患者さんの利益も大きかったと思うのですが,様々なICSのラインナップが揃った現在,軽症喘息は一般医が治療できる病気になりました.われわれが診るのは,コントロールが難しい重症例が多くなるだろうと考えています. ただ,咳が止まらないといって来院される咳喘息のような症例に対して,多くは吸入ステロイド薬が投与されていませんので,啓発活動が必要だと思います.
佐野 ICSがもう少し普及していってほしいのですが,最近のAIR Jでも23%といまだ低く,それに加えて新規発症の患者さんも増加していますのでさらなる普及が望まれます.咳喘息があってもかぜだと思われている人が多く,症状が悪く,当院を受診する患者さんは,ほとんどが過少投与で重症度と合っていない場合が多いですね.
亀井 おっしゃるとおりだと思います.
佐野 新規発売のCIC―HFAは,これまでのお話のとおりFPとほぼ同様の効果を有し,1日1回の吸入で良いことなど,コンプライアンスに優れ,副作用も局所,全身性ともに減少するなどの利点が多く,長期使用が可能となる7月より広く使われてくるものと思います.
 今後,さらにより良い治療薬が開発され,重症度を下げ,入院患者を減少させるとともに,救急外来患者の受診者数も減少させられることを期待して,本日の鼎談を締めくくらせていただきます.本日は有益なお話をいただきありがとうございました.