対談
吸入ステロイドと骨粗鬆症



●はじめに
中村 本日は喘息治療における吸入ステロイドによる骨代謝異常について、お話をお伺いいたします。
喘息の治療においては、ステロイド吸入療法の有用性 が確立され、かなり普及してきたという状況だと思います。 当初、「吸入で肺に直接ステロイドを投与すれば全身的 な副作用はそれほど出ないであろう」と考えられておりま したが、どうもそうではなく、やはりステロイドの全身的な 副作用は出てくるということが最近話題となり、日常診療 でも問題になりつつあるのではないかと伺っております。
本日は、長らく喘息の治療に携わってこられ、特に吸入 ステロイド療法についてのご経験が深く、さらに、最近で は骨代謝異常に関与するステロイドの作用についても研 究を進めておられる宮武先生にこの方面でのお話をお伺いできればと思います。

気管支喘息治療における
吸入ステロイド療法


●これまでの経緯
中村 宮武先生、気管支喘息に対してステロイド吸入療 法が有用と考えられるようになっているようですが、もう標 準的治療と考えてよろしいのでしょうか?
宮武 はい、日本では吸入ステロイド薬は、20 年以上前 から使用されていますが、初期の頃は、はっきりした概念 に基づいて投与されていたわけではありませんでした。 多くの呼吸器、アレルギー科医は「ステロイド吸入薬は予 防薬で、発作が起これば経口ステロイド薬の投与を行う」 というスタンスで使用してきたと思います。
それが、1980 年代の後半に英国のReed が「気管支喘 息は気道粘膜の上皮剥離好酸球性の慢性炎症である」 という病理概念を発表し、多くの支持を受けました。そし て1989 年英国で気管支喘息の治療のガイドラインが出 され、その後英国やヨーロッパを中心にステロイド吸入療 法が再認識されるようになりました。ベクロメタゾン(BDP ) が最初に世に出た吸入ステロイド薬です。
発売当初、英国ではBDP は1 日量400 μg 程度使えばよ いとされ、日本でも、導入当初は400 μg / day までが保険 適用となりました。
その後、高用量ステロイド吸入療法(BDP 800 μg/ day 以上)が導入され、特に1200 μg / day とか2000 μg / day と いう高用量を用いることで、経口ステロイド薬を中止でき るという論文が世界中から報告されるようになりました。日 本アレルギー学会も1993 年に「気管支喘息の診断、治療 と管理に関するガイドライン」を発表し、そのころから吸 入ステロイド薬使用量の保険適用枠も少しずつ広がり、 現在では1200 μg/ day まで認められています。

●意義と問題点
宮武 下図はスウェーデンでの喘息死を示したグラフです。棒グラフが人口百万人あたりの喘息死数、折れ線グ ラフは吸入ステロイド薬のスウェーデンにおける販売額 です。売上額が増えてきた1992 年頃から喘息死される患 者さんが急激に減っています。日本でも同じような報告 がなされています。


中村 日本においても1200 μg/ day までの高用量のステロイド吸入療法の導入によって、喘息死はもちろん、喘息 の予後そのものがよくなってきたわけで、これは大変な進 歩ですね。
次のステップとして吸入ステロイド療法の安全性に目を 向けられたわけですね。
宮武 はい。「吸入ステロイドは安全である」というのが我々の常識でしたが、アトピー性皮膚炎のステロイド外用薬でも副作用が問題となりました。そこで、今まで発表された論文を調べてみたのですが、呼吸器科の先生方の 研究では世界的にも性、年令、生理の有無などを考慮して検討したものは見当たりませんでした。そこで、我々できちんと調べてみようと考えました。
中村 高用量のステロイド吸入療法が取り入れられるよ うになり、色々調べてみると、代謝異常など全身的な副作 用にもやはり注意する必要があることがわかり、そのなか で骨粗鬆症、すなわち骨代謝* 異常に特に注目され、ご 研究されたのですね。
宮武 その通りです。

●骨代謝:骨が骨吸収(骨を壊して、カルシウム等を血中に放出)と骨形成のバランスで維持されていること●YAM :young adult mean●骨代謝マーカー:骨形成のマーカーとして、インタクトオステオカルシン、骨吸収のマーカーとして血中ピリジノリン、デオキシピリジノリンがある。

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