成人気管支喘息患者に対する
DSCGの抗喘息効果等についての検討
―アンケート調査より―

宮武 明彦
宮武内科院長


気道へのウイルス感染は,気管支喘息の発症および増悪因子として働くため1 )‐ 3 ),毎年冬季インフルエンザウイルスや風邪ウイルスの感染をいかにして防ぐかが,喘息治療・管理の命題となっている.DSCG (disodium cromo‐ glycate )は35 年以上にわたり,気管支喘息に対して処方されている薬であるが,これまでに知られているマスト細胞安定化作用4 )5 )や各種炎症細胞に対する作用6 )‐ 11 )などに加え,ウイルスへの影響を示唆する知見が報告されている.しかし,今までこれを肯定12 )‐ 14 )24 )あるいは否定15 )16 )する報告が複数存在し,一定の結論を得るには至っていない.しかし,われわれはDSCGがインフルエンザウイルスに及ぼす影響を細胞レベル・実験動物レベルで確認し報告した17 ).

このHPはALLERGIA TRENDS 2007年12月号(メディカルレビュー社)に掲載されたものを再編集したものです。


1. アンケート調査の対象と方法


宮武内科通院中の喘息患者のうち,DSCG を継続吸入している症例で,DSCG アンケート調査に同意協力を得られた患者に対して,平成16 年4 月1 日より9 月30 日までの6 ヵ月間アンケート調査を実施し,478 名(M :187 ,F :289 ) より回答を得た.
その中から以下(1)〜(5)の条件の症例を除外した.(1)20 歳以下,(2)1 年未満の通院例,(3)肺気腫合併例,(4)インタール(R)エアロゾル使用例,(5)DSCG とICS (inhaledcorticosteroid )同時開始例.DSCG の抗喘効果をより鮮明にするために,抗喘息効果が強力なICS を同時に開始した症例は除外し,アンケート調査では,DSCG未使用時とICS にDSCG を追加投与した時の比較検討を試みた.最終的に220 例(M :81 ,F :139 ),平均年齢(M :54.1 ±13.7 ,F :60.1 ±12.7 )歳について検討することとした.なお,調査時のPEF 使用頻度は,52.7 %と治療コンプライアンスが高い患者群であった.DSCG 吸入器具の種類は,スピンヘラー:73.2 %,イーヘラー:21.4 %,ネブライザー吸入液:4.1 %,重複使用例:1.4 %であり,DSCG 1 日吸入量(診療録上投薬量)は,80mg/day :3.6 %,60mg/day :10.5 %,40mg/day :67.3 %,20mg/day :18.6 %であった.DSCG 吸入期間は,1 年以上3 年未満:27.3 %,3年以上5 年未満:20.0 %,5 年以上10 年未満:26.4 %,10 年以上:26.4 %であった.
DSCG 開始時の先行使用ICS の種類は,chlorfluorocarbon beclomethasone dipropionate(CFC‐ BDP ):48.6 %,fluticasone propionate(FP ):30.0 %,budes‐onide (BUD ):18.6 %およびhydrofluoroalkane beclometha‐sone dipropionate (HFA‐ BDP ):2.7 %の4 種であった.また,DSCG 開始時のICS の平均吸入量は1,020.7 ±481.0 μg/day (BDP 換算)であった.なお,今回の研究に関しては,医療法人宮武内科倫理委員会による研究実施の承認を得ている.


2. アンケート調査の結果


1 .DSCG の抗喘息効果に関する結果
(1 )ICS へのDSCG 追加併用効果について
(1)両方を吸入した方が喘息の調子がよい:56.4 %,(2)わからない:33.2 %,(3)DSCG だけでよい:5.9 %,(4)ICS だけでよい:4.5 %であった(図1 ).
また,その併用効果についての複数回答による評価理由は,(1)両方している方が安心である:63.6 %,(2)主治医からの吸入指導のため:45.0 %,(3)喉のイガイガ感や痛みがDSCG を吸入することにより緩和する:10.0 %であった.



(2 )喘息治療におけるDSCG 吸入の最終評価
(1)効果あり・継続希望:70.5 %,
(2)効果あり・中止希望:6.4 %,
(3)効果不明・継続希望:21.0 %,
(4)効果不明・中止希望:1.8 %,
(5)効果なし・中止希望:0.5 %
との回答であり,DSCG を継続してもよいと回答した患者が90 %以上に達した.

2 .DSCG のウイルスに及ぼす影響
(1 )ICS にDSCG を併用してから風邪をひかなくなったと感じるか
風邪の罹患に関する設問に対しては,(1)ひかなくなったと思う:66.4 %,(2)わからない:13.6 %,(3)ひかなくなったとは思わない:9.5 %であった(図2 ).



(2 )DSCG の風邪罹患への影響はDSCG の使用期間と並行するか
DSCG 継続使用期間別に風邪罹患への影響について検討したところ,風邪をひかなくなったと思う:(1)1 年以上3 年未満:66.1 %,(2)3 年以上5 年未満:63.6 %,(3)5年以上10 年未満:72.4 %,(4)10年以上:63.8 %の結果を得た.DSCG 吸入期間の長短と「風邪をひかなくなったと思う」との回答率に相関は認めなかった(図3 ).



(3 )風邪をひかなくなった理由について
(1)DSCG の影響:37.7 %,(2)うがいを励行するから:23.2 %,(3)理由はわからない:21.8 %,(4)ICS の影響:15.0 %,(5)その他:5.5 %であった.はっきりとDSCG の直接の影響と感じている患者は40 %弱に留まったが,理由はわからないと答えた患者より多かった.

(4 )効果判定による2 群間の臨床的特徴の比較
患者回答より「風邪をひかなくなったと感じた」群147 名と「感じない」群73 名の2 群に分け比較すると,両群の平均年齢,喘息罹病期間,アレルギー合併症の頻度,薬剤過敏症の頻度,喫煙率およびICS 吸入量(μg/day )は両群間に有意差は認められず,また,検査値(IgE‐ RIST ,好酸球数,呼吸機能検査)にも両群間に統計学的有意差を認めなかった.


3. 考 察


DSCG は,1965 年英国ファイソンズ社のRoger EdwardCollingwood Altounyan 18 ) によって発見された抗喘息吸入薬である.特に,日本の小児気管支喘息治療の中では,DSCG とSalbutamol 吸入液のregular use が推奨され19 )最も重要な位置を占めてきた薬剤でもある.
毎日,多数例の喘息患者を診ている医師は,実地臨床の場でDSCG が風邪ウイルスに対して影響を及ぼすのではないかとの印象を持っていることが少なくない13 )14 ) .特に,ウイルス感染に罹患しやすい小児期の喘息児に対するDSCG の効果は,抗喘息効果とこの風邪ウイルスに与える影響13 )が喘息発作抑制に対して相乗効果を発揮している可能性がある.
今回の調査においても成人喘息患者220 名中66.4 %が,「風邪をひかなくなった」と回答している(図2 ).
また,その理由として「DSCG の直接の影響」と37.7 %の患者が回答している.さらに,作用発現も早期で,しかも,10年以上継続吸入している患者においても,この効果に対する耐性が出現しないことが明らかとなった(図3 ).
2004 年,われわれはDSCG のウイルスへの影響を調べるために,ウイルスの中で最も薬剤効果判定が確立された評価系を持つインフルエンザウイルスに対する影響について,in vitro ならびにin vivoの実験を行い報告した17 ) .その結果,インフルエンザウイルス感染抑制の機序については,まず,ノイラミニダーゼ阻害活性が認められたが作用は弱く,ノイラミニダーゼ阻害はDSCG の主たる作用基点ではないと推察された.しかしながら,DSCG はウイルスを非特異的に吸着するとされるフラボノイド骨格に類似する左右対称なクロモン骨格を有し,一定条件下では液晶構造をとることも分光学的に確認されている20 )21 ) .これらのことより,DSCG は細胞表面で薄い膜をはるような形で存在し,ウイルスが侵入する際にウイルスに付着した形で一緒に細胞内へ入り,ウイルスの増殖に必要なpH 低下やリン酸化などの条件を変化させることによって,脱核・複製・出芽といった一連の過程を阻害しているのではないかと推察されている.もしこのような作用機序が影響しているのであれば,DSCG は細胞の外側からウイルスを阻害することになるため,インフルエンザウイルスに限らず他のウイルス等に対しても影響を示す可能性がある.
最近,マウスRSV (respiratorysyncytial virus )感染モデルにおけるDSCG の急性RSV 感染への影響についての報告では,DSCG を経鼻投与で前処置した群は,生理食塩水処理群よりも,肺でのRSV増殖が抑制され,肺の炎症像も軽度であったという結果であった22 ) .
また,肺炎,気管支炎ならびに気管支喘息増悪の原因の1 つと考えられているChlamydophila(Chlamydia )pneumoniae の成長をDSCG がin vitro で抑制するとの報告もある23 ) .さらに,インフルエンザウイルス感染に対して,成人喘息患者を対象に,インフルエンザワクチン接種群,DSCG 群,無治療群の3 群間比較を実施した検討では,DSCG 群は無治療群に比較して明らかにインフルエンザ感染例が少なかったと報告した24 ) .
しかし,現時点においては,DSCG の抗ウイルス作用基点としていろいろな可能性が示唆されてはいるものの,未だ完全に明らかにはされていない.
一般的に,吸入療法は,経口剤よりも治療アドヒアランスが悪いことは周知の事実である.それにもかかわらず,今回アンケート調査に参加した症例は,ICS に加えてさらにDSCG を吸入しなければならなかったのに,最終評価において,70.6 %の喘息患者が「効果あり,継続希望」と回答している.
日本においても気管支喘息に対するICS の使用頻度が高まることによって,喘息発作入院患者数の激減ならびに年間の喘息死が3,000名を切るところまで減少してきている.しかし,ICS および長時間作用型β2 刺激薬の併用,テオフィリン製剤,ロイコトリエン受容体拮抗薬等の投与を行っても,喘息症状のコントロールに難渋する症例は決して少なくない.そのような患者に対して,DSCG 吸入を追加することによって,ICS との相乗効果と考えられる喘息症状の改善とQOL の安定化が図られ,ICS単独で治療するより効果が増すと考えられる25 ) .
特に,高齢喘息患者に対しては,風邪ウイルス活動が活発な冬季だけでも,風邪ウイルスの影響を考慮し追加吸入を勧めるべき薬剤であると考えている.今回,われわれが着眼し得られた研究結果を契機に,DSCG のウイルスに対する影響に関して,invitro およびin vivo の両面から基礎的あるいは臨床的研究が多くの研究機関で再開され,EBM に耐えうる成果が得られることを期待している.

references
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