インタ−ルのひまわり
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医療法人宮武内科
宮武明彦


 私がひまわりついて思い描くとすれば、30年ほど前に見たビットリオ・デ・シ−カが監督をした「ひまわり」です。マルチェロ・マストロヤンニが第2次世界大戦中、イタリア・ミラノ・テルミネ駅より東部戦線に出征していく兵士を演じ、ソフィア・ロ−レンが夫を送り出す妻を演じた映画でした。戦争が終わっても帰国してこない夫の消息を求めて、妻ソフィア・ロ−レンがテルミネ駅から戦場のあった村を訪ねて行く場面の中で、田園一面に咲く「ひまわり」の黄色と、ヘンリ−・マンシ−ニ作曲の主題曲「ひまわり」が印象的な映画でした。ヨ−ロッパに学会で訪れた時、映画の中で使われたミラノ・テルミネ駅の階段シ−ンが是非見たくて、ミラノに立ち寄り、妻ソフィア・ロ−レンが悲痛な表情で階段を下りて行く場面を思い起こしながらテルミネ駅の階段を上りました。

 12年前に開業してからは、成人喘息患者のみならず小児喘息の子供達も診察する機会が増え、10年で延べ400名近い喘息小児の治療に当たりました。その中の1人で6才から私が診ていた志学(もとのり)君は、インタ−ル吸入が喘息症状を著明に改善させ、以前と比べて風邪もひかなくなったため、自分の喘息を治してくれたインタ−ルカプセルの残り殻を集めて、4年生の夏休み図工の宿題にその残り殻を使ったすばらしい「ひまわり」を学校に提出しました。秋に入って診察室に持って来てくれたその「インタ−ルのひまわり」は、カプセルの黄色の部分をひまわりの黄色い花びらとして巧みに利用しており、そのアイデアに感心させられると同時に、この黄色い花は私にとって忘れることの出来ない2番目の「ひまわり」となり診察室を飾ることになりました。
 インタ−ルは日本に導入されて以来、30年を経過する息の長い薬であります。
  私がインタ−ルを本格的に使い始めたのは、20年程前、大阪府立羽曳野病院アレルギ−内科において気管支喘息患者さんの治療に取り組むようになってからです。当時はまだ、気管支喘息は慢性気道粘膜の炎症であるという概念が明らかでなかったため、副腎皮質ホルモンが何故著効するのか、正確に理解されないまま臨床の場で使用されていました。また、ベクロメサゾン吸入は400mcg/dayしか健康保険適応がなく、医者も患者もベクロメサゾン吸入を予防薬と考え、継続吸入の必要性を意識していなかった頃でした。
 一方、インタ−ルも発売されてすでに10年以上を経過し、小児喘息に対しては、確実に臨床効果が認められていたものの、成人気管支喘息治療における位置付けは、ベクロメサゾン吸入同様明らかではありませんでした。しかし、臨床での使用効果は確かに手応えがあり、不可思議な薬であるとの概念が拭えませんでした。
 数年前にインフルエンザが子供達の間で猛威を振るって学級閉鎖が各地で頻発した冬がありました、しかし、教室や学校でインフルエンザが大流行しているにもかかわらず、私が診ている小児喘息の子供達の中に感染しない喘息児童が少なからず見受けられました。さらに、その1、2年後の冬には成人の間でもインフルエンザが大流行し、各地の老人ホ−ムや病院での高齢者の死亡がマスコミに大きく取り上げられました。この時も私が診ていた高齢の喘息患者さんの中に、小児喘息の子供達と同様に「インフルエンザが流行っているのに私は大丈夫です」という声を多数聞くことが出来たのです。
 これら小児・成人患者さんの治療の共通点は、インタ−ル吸入量が1日2カプセル(40mg)以上で、吸入コンプライアンスの良好な人達であるということでした。このような患者さん達の声を聞く度に、インタ−ルには未知の作用として抗ウイルス作用があるのではないかと考えるに至りました。特に、小児気管支喘息患者に対して有効なのは、従来から言われているマスト細胞安定化作用や気管支拡張作用のみならず、この抗ウイルス作用がウイルス感染の機会の多い子供達の喘息に対して予防効果を発揮しているのではないかと推測されたのです。
 こういったことから、インタ−ルの抗ウイルス作用を実験的に証明していただける研究機関を以前から探しておりましたが、幸いなことに、この抗ウイルス作用についての研究が進められることになりました。そして、私はと言えばこの不可思議な「インタ−ルのひまわり」が科学的に証明されることを心待ちにする毎日なのです。