アレルギー治療最前線

医療法人宮武内科
宮武 明彦

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1.Global lnitiative for Asthmaについて
2.当院の治療の実際
3.外来での患者教育

はじめに
気管支喘息は広範かつ様々の程度の気道閉塞と気道の炎症により特徴づけられる。気道炎症はリンパ球、肥満細胞、好酸球など多くの炎症細胞が関与し、気道粘膜上皮の損傷を示し、種々の刺激に対する気道の反応性亢進を伴う。こうした気道炎症に対し、グルココルチコイドは、炎症細胞の浸潤を抑制し、炎症をおさえ、気道過敏性を減弱させることが認められている。1993年の日本アレルギー学会の喘息診断治療ガイドライン(JAG)においても、従来敬遠されていたグルココルチコイドの使用が積極的に取り入れられている。
気管支喘息に対するbeclomethasone dipropionate(BDP)高用量吸人療法が日本においても開始されてから、喘息発作のコントロールは以前より容易になり、喘息発作入院患者の数は減少して来た。しかし、すべての中等症、重症喘息患者がBDP高用量吸入療法のみで治療可能なわけではなく、経口あるいは点滴静注のグルココルチコイドが必要な症例も決して少なくない。特に、罹病期間が長く、BDP高用量吸入療法が導入される以前に、グルココルチコイド定期内服が必要であった症例に関しては、BDP高用量吸入療法が成功する確率は決して高くない。喘息外来においては、グルココルチコイド内服の減量は可能であっても、完全中止出来ない症例が少なからず認められる。このような患者を如何に治療し、指導して行くかが、喘息を専門に扱う医者に課せられた現時点での最大の問題点であると考えられる。

1.Global lnitiative for Asthmaについて 1 )
喘息の診断と治療に対するWHOの世界戦略(Global Initiative for Asthma:Global Strategy for Asthma Management and Prevrention NHLBI/WHO Work Shop Report=以下GIA)が1995年1月出版された。従来、国際コンセンサスレポート(International Consensus Report=ICR)、JAGでは喘息の重症度は4段階に分類され、Step 1 は軽症、Step 2と3 は中等症、Step 4は重症に分類されていた。今回のGIA(下図)では同じように4段階に分類されているが、Step 1は間欠性(Intermittent)喘息、Step 2 は軽症持続性(Mild Persistent)喘息、Step 3 は中等症持続性(moderated Persistent)喘息、Step 4 は重症持続性(Severe Persistent)喘息となった。
Step 1 は症状が週1回未満あり、症状が出たとしても数時間から数日まで、夜間の喘息症状も1カ月間に2回未満までで、発作の間欠期には症状がなく肺機能も正常である。治療は基本的には気管支拡張薬の頓用である。
Step 2 は症状は週1回以上で1日1回未満で、活動や睡眠が障害されることがある。夜間の喘息症状は1カ月間に2回以上、ピークフロー(PEFR)あるいは1秒量は予測値の80%以上だが、変動率は20%以上、30%未満である。治療はコルチコステロイドの吸入200〜500μg/day、Cromoglycate, nedocromil あるいは徐放性テオフィリンを用いる。
Step 3 は症状は毎日で、悪化すると活動や睡眠が障害される。夜間の発作は1週間に1回以上あり、PEFRあるいは1秒量は予測値の60〜80%で、変動率は30%以上である。治療はコルチコステロイド吸入800〜2000μg/day および、特に夜間症状に対して長時間作動性の気管支拡張薬や徐放性テオフィリン製剤を追加する。
Step 4 は終始症状があり、症状増悪もしばしば起こり、夜間の喘息症状が頻回に認められる。肉体的活動も喘息症状によって制限される。PEFRあるいは1秒量は予測値の60%以下で変動率は30%以上である。治療はコルチコステロイド吸入800〜2000μg/day あるいはそれ以上の高用量、長時間作動性の気管支拡張薬、徐放性テオフィリン製剤、さらに長期間経口コルチコステロイドの内服も行う。
以上が1995年1月に報告されたWHOのGIAの Asthma Management Programの長期管理の概要である。

Step 4 : Severe Psrsistent
Clinical Features Before TreatmentDay Medication Required To Maintain Control
始終症状があり、症状増悪が頻繁に起こる。夜間喘息症状も頻回。喘息症状によって肉体的活動が制限される。PEFあるいは1秒量は予測値の60%以下、変動率は30%以上。 BDP吸入800〜2000μg/day、あるいはそれ以上の高容量、長時間作動性の気管支拡張薬、徐放性テオフィリン、長期経口コルチコイドの内服。
Step 3 : Moderate Persistent
Clinical Features Before Treatment Day Medication Required To Maintain Control
症状は毎日、増悪すると活動や睡眠が障害される。夜間発作は毎週1回以上ある。PEFあるいは1秒量は予測値の60〜80%、変動率は30%以上。 BDP吸入800〜2000μg/day、長時間作動性の気管支拡張薬、徐放性テオフィリン。
Step 2 : Mild Persistent
Clinical Features Before Treatment Day Medication Required To Maintain Control
症状は週1回以上で1日1回未満、活動や睡眠が障害されることがある。夜間の喘息症状は月2回以上、PEFあるいはFEV1は予測値の80%以上、変動率は20%〜30%以上。 BDP吸入800〜500μg/day、cromoglycate、nedocromilあるいは徐放性テオフィリン。
Step 1: Intermittent
Clinical Features Before TreatmentDay Medication Required To Maintain Control
症状が週1回未満あり、数時間から2、3日間の症状増悪、夜間の喘息症状は1ケ月に2回未満、発作の間欠期には症状がなく、呼吸機能も正常。 β2刺激薬吸入、喘息症状増悪によっては経口コルチコイドが必要な場合もある。
喘息重症度分類(Global Initiative fof Ashma 1995 一部改変

2.当院の治療の実際 2)
WHOのGIAの重症度分類に従って Step 1(間欠性喘息)〜 Step 4(重症持続性)の患者に対する外来治療についてまとめると、基本料こは先に述べたGIAの The Long−Term Management of Asthma と差異はない。
(1)外来治療
Step 1:β2刺激薬吸入および disodiumcromoglycate(DSCG)吸入、症状によってBDP吸入を最初から短期間使用することもある。
Step 2:BDP吸入200〜50Oμg/day およびβ2刺激薬吸入、DSCG吸入で開始する。コントロール不十分な場合はBDP800μg/day まで増量、あるいは徐放性テオフィリン製剤を追加する。
Step 3:BDP吸入800〜1200μg/day およびβ2刺激薬吸入、DSCG吸入、徐放性テオフィリンで開始。症状の改善を見て場合によっては、経ロコルチコステロイド薬短期間投与を検討する。
Step 4:BDP吸入10OOμg/day あるいはそれ以上の高用量、β2刺激薬吸入、DSCG吸入、徐放性テオフィリン、最初から Quality of Life(QOL)を考慮して経ロコルチコステロイドを開始する。
Step 3、Step 4 のグループ患者を Step down出来るか否かが、気管支喘息治療の重要課題である。喘息症状によって日常生活が強く障害を受けていると判断された場合、高用量BDP吸入に期待し過ぎて、経ロコルチコステロイドの投与開始を躊躇すべきでない。経ロステロイド薬が必要な患者に対しては、毎日PEFR記録を行うことを原則とし、患者自身が発作強度を判断出来るように、ゾーンシステム(Green−Yellow−Red Zone)の意味付け、利用の仕方について指導する。
Green Zone:全く症状がなく、喘息は完全にコントロールされた状態。PEFRは基準値あるいは最高値の80%以上、変動率が20%以内であること。
Yellow Zone:喘息症状が出現(咳、喘鳴、呼吸困難が夜間に出現、活動性の低下)。PEFRは基準値あるいは最高値の60〜80%、変動率20〜30%と拡大する。β2刺激薬吸入、BDP吸入量をそれまでの2倍とし、効果が明らかでなければ経口コルチコステロイドを追加し、主治医に連絡の上適切な治療を受けること。
Red Zone:喘息発作症状が安静時にも認められ、活動性が著しく障害される。PEFRは基準値あるいは最高値の60%以下であり、β2刺激薬吸入、BDP吸入の2倍以上に増量、経ログルココルチコイドを2倍量以上に増やし、直ちに主治医の治療を受けること。
(2)喘息症状増悪時の自宅治療
ピークフローを毎日記録している患者は、先に述べた Green−Yellow Red Zoneを自分自身で評価し、症状増悪が認められた場合、前もって指示されていた追加治療を行う。もし、症状改善が認められないときには、すぐに主治医の診察を受けるように指導する。
ピークフローを記録していない患者は、β2刺激薬吸入を1時間に3回以上使用しなければ喘息症状が改善を認めないか、あるいは24時間以内に10回以上吸入しても寛解しなければ、直ちに主治医の診察を受けるように指導する。いずれの場合にも主治医の下を受診するまでの間、β2刺激薬吸入、BDP吸入を2倍量以上、経口グルココルチコイドの頓服あるいは定期内服を行うように説明しておく。
主治医を受診でさない時間外や夜間の場合、近くの救急病院を受診するか、喘息発作が強くて動けないときは、躊躇することなく救急車を呼んで酸素吸入をしながら、救急外来を受診するように指導しておく。
(3)喘息発作時の外来治療
喘息症状増悪時、自宅において患者自身による追加治療が即効せず、患者が外来を訪れた場合、血圧、脈拍、体温測定と同時にパルスオキシメーターを使って動脈酸素飽和度(SpO2)測定、あるいは動脈血ガス分析(ABG)を実施する。低酸素血症が認められた場合でも、可能であればO2吸入下にフローボリュームカーブ測定を実施し、日頃の外来でのフローボリュームカーブ値に比較して、どの程度低下したかを評価する。SpO2値が90%以下、あるいはABGによるPaO2が60mmHg以下で、1秒量が personal best の60%以下の場合には、入院を考慮しながら、酸素吸入、インタール+ベネトリンのネプライザー吸入、グルココルチコイド十ネオフィリン点滴静注等処置を行う。治療に対する反応が悪い時は、出来うる限り早く専門の病院に転送する。

3.外来での患者教育
(1)初診患者
気管支喘息の診断が確定すれば、患者に時間をかけて気管支喘息の病態生理をわかりやすく説明し、Step 1(間欠性喘息)〜Step 4(重症持続性喘息)に患者を診断分類し、それぞれの Step にあわせて治療内容を説明する。特に、吸入療法は各 Step の中心的薬剤となるので、インヘラーの使用方法、使用回数、スペーサーの使用方法等を詳しく説明する。理解が困難な症例に対しては、再度、看護婦より時間をかけて吸入療法の説明を繰り返す。場合によってはビデオの貸し出しも行う。吸入療法の成否が治療効果に多大な影響をあたえるので、再診時にもう一度、吸入療法について理解出来ているか否か確認作業を行う。
アレルゲン皮膚テストにて House Dust、ダニが陽性反応を呈した患者に対しては、特に、電気掃除機による部屋の掃除、寝具の洗濯、乾燥の必要性を指導する。また、自宅内でペットを飼うことを禁止する。喫煙を続けている喘息患者に対しては禁煙を積極的に指導し、再診のたびに禁煙の必要性をくり返し説明する。
(2)再診患者
患者自身が現在投与されている薬の薬理作用と特徴を理解しているか否か確認する。もし、喘息症状が増悪したり、発作が出現した時、患者自身がどのように薬を追加増量すべきか十分説明をしておく。経口グルココルチコイドが必要な患者に対しては、原則として、毎日のピークフローの記録が自分自身で出来るように、器具の使用方法、記録の仕方等詳しく指導する。また、治療効果がこちらの期待通り行かない場合には、内服状況、吸入療法について正しく実施されていたかどうか、再度確認作業を行う。

おわりに
ここ数年日本をはじめ諸外国より、気管支喘息の診断治療のガイドラインが次々に発表され、そのいずれもがBDP吸入療法を喘息治療の中心に据えている。このことからも明らかなように、中等症以上の喘息患者に対しグルココルチコイドを使用せずに、喘息症状をコントロールすることは、不可能と言っても過言ではないと考えられる。成人気管支喘息に対する治療方法がある程度確立された現在、喘息治療の成否は、徹底した患者指導を如何に行うかが最も重要である。

文 敵
1)Global Initiative for Asthma,National Institututrs of Health.
P47−112,January, 1995.
2)宮武明彦:アレルギー相談室 アレルギーの臨床14:941,1994.

医報フジN0.95(平成7年9月8日発行)別刷

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