企業や官庁の発表資料をそのままの形で掲載しています。
製品・サービス等内容に関する質問は直接それぞれの発表元に
お問い合わせください。

ヘルスこの一手
平石 貴久 マイコプラズマ肺炎

 1898年、ウシの伝染性胸膜炎から「マイコプラズマ」が発見された。当初は大きなウイルスと考えられたが、細菌の10分の1くらいの大きさの極めて小さな自己増殖能力をもつ微生物であることがわかった。
 単細胞生物で、細胞壁をもたない点で細菌とは異なる。遺伝子も極端に少なく、かろうじて他の生物に寄生することが多いのが特徴。こんなに弱いマイコプラズマが原因の肺炎が、この秋に流行の兆しだ。

青年層、細かなせきに注意

 マイコプラズマ肺炎は、学童から20歳代の青年層が主に発症し、60歳以上の発症率は低い。  秋から春先にかけて、特定地域や職場、学校などで流行する。まれに季節を問わず散発的に発生することもあり、異形肺炎の40〜50%はマイコプラズマ肺炎だ。
 空気感染し、気管支上皮の線毛細胞に付着して、気道障害を引き起こす。頑固で長いせきが続いて、咽頭痛や鼻汁などの症状もあるので、やはり風邪と勘違いされてしまう。
 たんは少なく、頭痛や関節痛、ときには下痢、嘔吐(おうと)などの消化器症状を伴うこともあり、38℃以上の高熱が出る場合とまったく熱が出ない場合がある。診断は血液検査などでマイコプラズマ抗体を診断する。
 「モクロライド」系の抗生物質などがよく効き、せき止めと一緒に服用する。この抗生物質の選択で、一般的な抗生物質とせき止めを服用しても治らなかった患者さんも劇的に治る。
 私の印象だが、成人でも去年マイコプラズマ肺炎にかかった人は、今年も同じようなせきが出ていると同様の感染が疑われる。風邪のような症状でも、そんな病歴のある人には、コンコンといった細かい連続したせきが出ていたら、早めに血液検査を行うようにしている。
 また、最初に投与する抗生物質は一般の風邪にもマイコプラズマにも両方に効果がある種類を選んで、血液検査の結果を待たずに治療を開始する。体力の増強が大切な病気なので、しっかり3食を食べるように指導する。生活環境が要因でうつる事が多いので、部屋の掃除や入浴を欠かさず、十分な睡眠をとることなども守ってほしい。
(東京ミッドタウンクリニック 特別外来医師)
日本経済新聞 2011年11月5日朝刊


ヘルスこの一手
平石 貴久 今秋の風邪の流行

 残暑が一段落して、急激に涼しくなり、風邪が流行り始めた。
 一般的にいう風邪は「風邪症候群」といい、呼吸器疾患では最も多い病気だ。おおむね軽症だが、肺炎や慢性呼吸器疾患が急激に悪化する要因となる。結核など重篤な疾患の初期症状とも紛らわしい場合があるなど、気をつけなければならないポイントも多い。
 かぜ症候群(以下、風邪)は「急性カタル性上気道炎」の総称で、鼻づまり、鼻汁が出る、咽頭が赤くなる、熱が出るといった症状が中心。だいたい急性鼻炎や咽頭炎の段階で治る。
 秋から冬にかけて多い。主に病原の感染が発症の原因だが、免疫力の低下、脱水、疲労、飲酒、喫煙など、私たち自身に原因がある場合と、乾燥や寒冷など環境が大きな要因になって、風邪を誘発する場合がある。
 風邪の病原のおよそ80%以上がウイルス感染だ。その中でも、鼻風邪などの原因となる「ライノウイルス」等が原因として多い。
 しかしこの秋、「RSウイルス」が大流行の兆しを示している。ほとんどの場合、患者から飛び散ったウイルスが、鼻から咽頭にかけての上気道の粘膜に付着、増殖して感染するが、RSウイルスは咽頭から気管支にかけての下気道を侵しやすい。

乳幼児の場合は重症化も

 成人は軽症ですむが、とくに乳幼児の場合は、重症の細気管支炎や肺炎を起こすことが多いので注意が必要だ。
 このほかでは「エンテロウウイルス」が、喉が真っ赤になる「ヘルパンギーナ」と呼ばれる疾患の要因となるほか、手足口病、眼感染、下痢や吐き気など胃腸の症状を伴うこともある。
 一般的に診療所や病院では、風邪だからといって、いきなり血清中の抗体の量やウイルスの分離検査などはしない。解熱鎮痛剤や消炎剤、せき止めなどで対処し、ほぼ3〜4日、長くても1週間で治癒する。
 それでも治癒しない場合は、再度、医療機関へ行こう。下気道感染や細菌の二次感染のほか、肺の実質感染(肺炎)へと移行している場合もあるからだ。
 風邪をひいたら、安静を保ち、保湿や保温に注意し、栄養補給や脱水予防に努めよう。
(東京ミッドタウンクリニック 特別外来医師)
日本経済新聞 2011年10月15日朝刊


ヘルスこの一手
平石 貴久 スポーツ中の突然死

 サッカーの松田直樹選手の突然死は、多くの人々に衝撃を与えた。プロ・アマ問わず、スポーツ中の突然死は、以前から大きな問題だった。何度も繰り返される悲劇は防げないものか。
 スポーツ中の突然死で多いのは(1)急性心機能不全(2)虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症)(3)溺死(4)脳血管障害(脳出血やクモ膜下出血)(5)(川崎病などの)先天性心疾患(6)心筋炎(7)(熱中症などによる)呼吸器不全――などだ。圧倒的に心臓疾患が多い。
 若者に多い心臓発作では「冠攣縮(れんしゅく)性狭心症」が危険だ。症例は東アジアの人々に多いといわれ、歩行中や階段昇降中に胸に痛みを感じるが、立ち止まると同時に痛みは消え、15分ほどで症状は改善する。
 スポーツ中の突然死を種目別に見ると、ジョギング、水泳、ゴルフ、サッカー、野球、ダンス、バスケット、テニスなどが多い。近くの人が突然心停止した場合は、大声で相手を呼び、強く頬をたたいて意識を確かめ、周囲の人に助けを求める。冷静にリーダーを決めて、周囲の人と一緒に行動することが大事だ。
 1秒でも早く心臓マッサージや人工呼吸をすることが大切だが、自動体外式助細動器(AED)が街中に置かれるようになったので、電気ショックによる心停止の再起動は勇気を持って行ってほしい。しかし、AEDは万能ではない。まず救急車を呼ぶことを忘れてはならない。

日ごろから過労に注意

 病の兆候に気付くとともに、動脈硬化を防ぎ、高血圧や高脂血症などの生活習慣病を予防するには、日ごろから過労に注意することが必要だ。睡眠時間の確保、水分や塩分の補給、自分の体調に合った休憩などに気を配り、動きやすい服装、無理の無いペースで運動や仕事をするべきだ。
 スポーツは体に良いはずだが、運動による活性酸素の発生によって、細胞や血管の酸化、劣化、損傷のほか、老化、破損なども起きる。その結果、小さな血栓が発生し、細い血管に詰まる心筋梗塞や肺梗塞の原因につながる。
 日ごろから活性酸素の増加を防ぐβカロチンやビタミンC・Eなどの抗酸化食品を食べるのはもちろん、水素水などの飲用も薦める。最も危険なのは、運動しているから自分は大丈夫という過信だ。
(東京ミッドタウンクリニック 特別外来医師)
日本経済新聞 2011年8月20日朝刊


ヘルスこの一手
平石 貴久 体力示す5つの力

 春の健康診断の結果もそろったこの時期、体力をつけようと考えている人も多いだろう。しかし、体力とは腕力や持久力のことではない。体力があるというのは、力持ちや筋肉隆々の肉体を持つことではなく、柔軟性・敏捷(びんしょう)性・筋力・巧緻(こうち)性・平衝性の5つの力の総合力だ。
 柔軟性は、右腕を肩越しに背中へ、そして左腕を腰から伸ばして、握手できたらOK。逆でもできたら満点だ。敏捷性とは、歩いているときに急に横から自転車が出てきた瞬間、さっとよけて事故を防ぐような力。机の上から落ちたペンをさっと拾えたら満点だ。お風呂に入って、立った姿勢で丸めたタオルを右手を上に伸ばして下に落とし、何回拍手してからつかめるか。毎日トライしてみよう、拍手3回以上できたら満点。

柔軟性や敏捷性伸ばそう

 筋力は朝起きてから寝るまで、すべての行動をスムーズに行える力。動かない椅子の上で両手をまっすぐ座面につけて体を10秒以上浮かせたら満点。就寝時、あおむけに寝て両手を頭の後ろに組み、膝を垂直に立てて、ゆっくり上体を起こし両手の肘が膝についたら満点。
 巧緻性は聞きなれない言葉だが、体を巧みに動かす能力のこと。座った姿勢で右手はこぶしで机を叩き、左手で前後に机をさすれるだろうか。次に、急に逆の動作ができるだろうか。2つの動作を交互にできたら満点。
 立った姿勢で、右手をパーで前方に。左手をグーで胸に当てる。その動作を左右逆にして何度も繰り返す。ここまでは誰でもできる。次に胸に当てる方をパー、前方に出す方をグーで。できるだろうか。こんな動作を自由自在にできるのが巧緻性だ。
 平衝性が低下すると体のバランスがとれなくなり、つまずいたり、転んだりする。まず立ったままで両目を閉じる。片足で立ち、立っている側の足を動かさず首を右回り左回りさせる。両方できたら満点。
 これまで述べたことを全部できたら、あなたは体力のある方だ。腹筋、背筋、スクワット、ウォーキング、テニス、ゴルフ、どんな運動でも結構。運動の開始と終了時にチェックしてみよう。続けるとスムーズにできるようになり、すごく体力がアップする。
(東京ミッドタウンクリニック 特別外来医師)
日本経済新聞 2011年6月4日朝刊


ヘルスこの一手
平石 貴久 突然の倦怠感

 思いのまま世界レベルで大活躍するスポーツ選手が、突然の倦怠(けんたい)感を訴えることがある。疲れやすくなり、休んでも回復せず、やがて発熱してリンパ節が腫れ、だるさが増し、ついに休場を余儀なくされる。シーズンの途中で、棄権することもあるので深刻だ。
 これは、EBVというウイルスの感染が原因の「伝染性単核球症」という病気だ。15〜25歳の若い男女がよく発症する。一般にアジアやアフリカの人々の方が、欧米諸国の人々よりも初感染が早い。
 発熱、リンパ節の腫れ、咽頭痛、頭痛、食欲不振を主な症状として、とにかくだるいと主張する。そして、休んでも抜けない疲労感、経験のない倦怠感を訴える。血液検査ではリンパ球の増加、異型リンパ球の出現がみられ、発症社の90%に肝炎の併発が認められる。
 ウイルス感染後の潜伏期間は4から7週間。頸(けい)部や脇の下のリンパ節が腫れる。セ氏39〜40度の高熱が1〜2週間続き、体力は相当に消耗する。
 横断(おうだん)を認めたり、肝臓や脾臓(ひぞう)が腫れて大きくなったりする。ウイルス性肝炎は黄疸が現れると熱は下がるが、EBVウイルスは、熱が下がらないまま黄疸が出るので厄介だ。
 EBVは唾液を介して広がり、鼻咽頭の粘膜から体内に侵入、リンパ球に感染する。キスから感染するので、「kissing disease(キス病)」ともいわれる。以前は、血液検査で診断する方法が一般的だったが、私たちアジア人は血液反応が出にくく、診断が難しい。
 主な症状は疲労のため、休めば回復しやすく、怖い病気ではない。具体的には発熱時に解熱剤を服用する以外は、とくに有効な治療法はない。抗生物質は効果が乏しい。特にアンピシリンという薬を服用すると、発疹を出すので気をつけたい。
 患者さんにはウイルス性肝炎などと識別し、早く確定診断をするようにしている。スポーツ選手は、思いきって休ませることで、逆に現場復帰を早められる。
 異常なだるさを経験したら、この病気を疑い、とにかく内科医に相談してみることだろう。
(東京ミッドタウンクリニック 特別外来医師)
日本経済新聞 2011年5月21日朝刊


ヘルスこの一手
平熱が低い現代人 楽な生活で免疫力低下
平石 貴久

 山岳事故や災害時に生死を分ける要因のひとつに体温がある。風が直接身体に当たると、熱だけでなく体力を奪い危険な状態をつくる。こんな緊急時だけでなく、最近は平熱が低い人が女性だけでなく男性、しかも若い人にまで増えている。平熱は36.5度から36.9度だったが、最近は35度前半の人が増えた。
 私たちは、電化による住環境や交通手段の進歩の結果、楽に生きることができるようになり、基礎代謝は低下、仕事量も減少して、多くのエネルギーを使わなくなった。
 さらに、朝食抜きや夕食のドカ食い、過度のダイエット、体温を下げる野菜や果実のとりすぎ、入浴なしのシャワーだけの生活、体を締めつける下着や洋服、運動不足による新陳代謝の低下、過度のストレスや自律神経の乱れ、便秘などが、体温を低下させている。
 平熱が低いということは、血行が悪い、免疫力が低い、アレルギーが出やすい、生活習慣病やがんにかかりやすい、太りやすいといった様々な弊害の要因となる。ちなみに、体温が1度上がると免疫力は約5倍以上上がり、生命を維持するのに必要な酵素の活動が活発化し、感染症など病気を防御する。
 低体温と冷え性は異なる。冷え性は手足の抹消(まっしょう)血管が収縮し、熱を逃がさないようにするが、低体温はそもそも体内に熱エネルギーがつくれない状況だ。
 低体温を防ぐには、(1)体温をあげる食材の食事を心がける。ショウガ、ニンニク、ミョウガ、山芋、ネギやカボチャなどを朝食から食べるようにする(2)栄養バランスに一層気をつける。糖質や脂質過剰に気をつけて、ミネラルを摂取する(3)低体温では、糖質からのエネルギー生産が進まない。エネルギー効率を高めるためにビタミンB1、B2、鉄や亜鉛、セレンなどのミネラルを十分に摂取する。
 さらに、(4)体温の7割は筋肉でつくられているので、筋トレによって筋肉を増強する(5)ストレスや不規則な生活は自律神経失調の起因。メリハリの利いた生活、ちょっとした時間にもウォーキングなどの運動をする―といった対応が有効だろう。
 私は平熱が高い人には、エネルギーと力強さ、生き抜く力を感じる。
(東京ミッドタウンクリニック 特別外来医師)
日本経済新聞 2011年3月26日朝刊


ヘルスこの一手
ストレスの多い春 炭酸水飲み食欲を促進
平石 貴久

 私たちの体には、心拍数、血圧、呼吸数、体温などを一定に保つ機能(恒常性の維持、ホメオスターシス)が備わっている。この体内の恒常性にひずみが生じた状態を「ストレス」という。
 心拍数が増えたり、血圧が上がったり、呼吸数が増えたり、眠れなかったり、イライラしたりしている時を、ストレス状態にあるという。またストレス反応を引き起こす出来事を「ストレッサー」という。
 春は入学、入社、配置転換などの季節だ。これらの環境の変化は、見えないストレスとして、私たちの健康に影響を及ぼす。
 ストレスには血液中のホルモンを通しておきるものと、自律神経系の神経の働きによるものの2種類がある。ストレス反応にかかわったホルモンは、ストレスホルモンと呼ばれる、そのひとつ、グルココルチコイドは筋肉や肝臓に作用し、血液中の糖質が増えて、戦う、逃げるといった行動を引き起こす。
 自律神経系が活性化すると、心臓や血管に作用し、心拍数が増えたり、血管が収縮して血圧が上がったりする。また自律神経が胃腸の血液量を減らし、動きを鈍くする。その結果、食欲は減少、胃液の分泌量が増えて、ひどい時には胃潰瘍や急性胃炎を引き起こす。  暖かい日差しの下で、散歩やショッピングをしたり、夫婦や仲良しの友達とおしゃべりをしたりするのは気分転換によい。また、私は食事やスポーツのときに炭酸水ドリンクを飲むことをおすすめする。喉越しのよい炭酸水は最近ブームになって、たくさんの種類が発売されている。
 炭酸水は食欲のない人も食前に飲むと喉越しや胃粘膜が刺激され、血行が改善されて胃液の分泌を促進、消化を助けて胃の負担を軽減する。満腹感や新陳代謝も促進しダイエット効果も期待できる。さらにビタミンCを入れて飲むと、抗酸化作用が加わり、強力なドリンクになる。
 ストレスを感じたら、早寝早起きなどの小さな生活のリズムから見直し、ちょっとした運動を取り入れて汗をかくとよい。日ごろの食事を大切にし、炭酸水を飲んで食欲も増やそう。平凡な一日を、平和に暮らすことのできる大切さを感じながら。
(東京ミッドタウンクリニック 特別外来医師)
日本経済新聞 2011年3月5日朝刊


コレステロールの管理
正常値でも「超悪玉」に注意
中性脂肪調べ医師とも相談

血液中のコレステロールについて、個人差を重視して管理する考え方が広がってきた。コレステロール値が正常でも安心できない「超悪玉」のコレステロールの存在も注目されている。健康管理のうえでコレステロールとどう向き合ったらよいのか、探ってみた。

 個人ごとに判断

 個人ごとにコレステロールのリスクを見極めることは、健康管理でも重要になってきた。例えば、血液中のコレステロールが動脈硬化をもたらし、狭心症や心筋梗塞のリスクを高める度合いは、男女の間でも大きな差があることが分かってきた。
 昭和大学医学部糖尿病・代謝・内分泌内科の平野勉教授は「女性、とくに閉経前の女性の血管は女性ホルモンによって守られている。血液中のコレステロ−ル値が非常に高い人でも動脈に全く異常が認められない場合がある」と話す。
 逆にそれほどコレステロール値が高くないのに動脈硬化が進む場合もある。例えば親兄弟が心臓病を患っている人、糖尿病や高血圧症などの人は動脈硬化のリスクが高いと考えられる。動脈硬化は症状が出ないうちに進むので、その兆候を早めに察知してコレステロール値の管理をすることが大切だ。
 最近では、「頸(げい)動脈エコー検査」「脈波伝播(でんば)速度検査」など動脈硬化度を測定する検査が普及している。リスクが高いと考えられる人は一度検査を行い、医師と相談するといいだろう。
 コレステロール管理の指標となるのは、広く知られている皿液中のHDL、LDLコレステロールの値だ。コレステロールは肝臓で作られるが、水に溶けないため皿液中ではリボタンパク質という物質と結びついた粒になって運ばれる。
 リボタンパク質にはLDLとHDLの2種類があり、コレステロールを血管や組織に運ぶのがLDL。余分なコレステロールを肝臓に戻す働きをしているのがHDLだ。動脈硬化は、血管の内膜にたまったコレステロールの塊が起こす病気なので、いわゆる「悪玉」と呼ばれるLDLが多すぎたり、「善玉」のHDLが少なすぎたりすることに注意が必要だ。
 検査値には参考値が設けられているが、その読み方も変わってきた。LDLコレステロールの値は1デシリットル当たり140ミリグラム未満が望ましいとされているが、リスクの低い人では160までは許容範囲とされるようになった。

 自己判断は禁物

 ただし、由己判断は要注意だ。専門家は、コレステロール値だけでなく中性詣肪など他の検査結果とのバランスを重視する。専門家が注目したのは、LDLのなかでも粒のサイズが小さいsdLDLの存在だ。
 sdLDLは、動脈硬化を進行しやすい「超悪玉」としての性質を持っているが、1つの粒が運んでいるコレステロール量は少ないため、数が多くてもLDLコレステロール値が正常になる場合があることが分かってきた。
 平野教授は、sdLDLの量だけを測定する技術を開発し、血液中の中性脂肪の値が高いとLDLのサイズが小さくなってsdLDLに変わる傾向があることを明らかにしてきた。そのためLDLの値が正常内であっても中性脂肪も一緒に高めの人は、「超悪玉」の数が多くなる。
「これらの研究成果から専門家は、HDL、LDL、中性脂肪の値を総合的に判断しながら、患者の指導にあたっている」と平野教授は話す。
 最新研究によりsdLDLを減らす方法も分かってきた。血液中のコレステロール値は、食事指導や運動習慣だけではなかなか変化しない。それに対して体のエネルギー源である中性脂肪は運動などによって効果的に下げることができる。
 平野教授は「中性脂肪を下げるような努力を続けると、LDLコレステロール値は変わらなくても、sdLDLの比率が下がってくる」と話す。1日20分程度の散歩を含めた軽度の運動習慣は、見えないところで動脈硬化予防につながっているのだ。
 検査結果に一喜一憂するより、医師と相談しながら自分の動脈硬化リスクを見極めることが、これからのコレステロール管理には重要だ。
(ライター 荒川 直謝)

40、50代で動脈硬化検査を

 人間ドックなどで動脈硬化の進み具合を調べる主な検査方法には、「脈波伝播速度(PWV)検査」「頚動脈エコー検査」があり、それぞれ特徴がある。
 PWV検査は両腕と足首の血圧を同時に測定するという簡便な検査方法だが、年齢とともに値が変化するため信頼性は低い。「頸動脈エコー検査」は、首の両脇にある太い血管の内径の太さをエコー(超音波画像診断法)で直接観察するので、動脈硬化の進行を確実に捉えられる。
 専門家は、健康な人であれば50代になったら、肥満、高血圧など動脈硬化を起こしやすい病気を持っている人なら40代で一度、動脈硬化度の検査を受けることを勧めている。
日本経済新聞 2011年1月22日朝刊


様々な「風邪」の予防には…
「マスク」「手洗い」「うがい」を
感染の拡大防ぎ病原体洗い流す

 寒くなり、せきが出たり微熱が出たりする風邪がはやる季節になった。頻繁に使う言葉だが、「風邪」は医師が診断する病名ではない。一見同じような風邪の症状でも、原因や経過が異なる複数の病気に分かれていてそれぞれの病名で診断されるからだ。知っておきたい「風邪の常識」をまとめた。
 昨年11月、東京都内在住の公務員、Aさん(29)は、体がだるくのどが痛いのに気がついた。頭痛もあり熱を測ると37度程度の微熱があった。近所の薬局で購入した漢方薬を服用した。平日はマスクを着けて仕事へ行き、休日は一日中家で寝ていたところ2〜3日で楽になった。熱を測ると平熱に戻っていたので治ったと思い安心した。

 病名でない風邪

 一般にせきやくしゃみ、軽い発熱などがあると、「風邪」と言うことが多い。ただ、「風邪という病気はない」と永寿堂病院(東京都葛飾区)の松永貞一院長は説明する。
 風邪にはウイルスや細菌などの病原体の感染による「感冒」と、「寒い日におなかを出したまま寝ていた」といった寒さなどの生活環境による「寒冒」がある。ほとんどが前者で、そのうちの多くの原因がウイルスだ。
 風邪を引き起こすウイルスは少なく見積もっても250種類以上ある。通常、ウイルスに一度感染すると免疫ができて次に感染しにくくなるが、これだけたくさんの原因ウイルスがあるので何度も風邪を引くというわけだ。せきや発熱のような同じような症状でも季節によって流行するウイルスが異なり、冬は子供の気管支炎などの原因となるRSウイルスなどが多い。
 腹痛や下痢、嘔吐(おうと)などの症状があると「おなかの風邪」といわれることも。これは感染性胃腸炎と診断される。大腸菌などの細菌のほか、冬はノロウイルスやロタウイルスなどのウイルスが原因になることが多い。
 これだけ多くの原因を持つ風邪。予防はどうするのか。
 まず予防接種をする。ただ1つのワクチンで防げる病原体は通常1種類。インフルエンザウイルス、肺炎を起こす肺炎球菌といった重い病気を引き起こす病原体に対するワクチンはあるが、ほとんどの風邪の病原体を防ぐワクチンはそろっていない。

 日常的にできる対策はやはり「マスク」「手洗い」「うがい」だ。普段からよく食べて睡眠をとるといった健康管理も欠かせない。それどれ目的が異なるので、「何に役立つかを覚えておくと、周りで流行しているものに対して予防対策をとりやすくなる」(国立感染症研究所の安井良則主任研究官)。
 マスクは、せきやくしゃみなどで感染が広がるインフルエンザなどの病気が拡大するのを防ぐのに役立つ。手洗いは感染性胃腸炎を起こす病原体を洗い流して体内に入るのを防ぐ。
 うがいはのどや口の中にある病原体を洗い流したり、保湿をしたりする働きがある。ただ、「うがいだけではウイルス感染を防ぐことはできない」(安井主任研究官)ため、ほかの方法と組み合わせる必要がある。

  3日続けば受診

 風邪にかかってしまったらA子さんのように軽い症状の場合は、医療機関へ行かず、市販の薬を飲んだり自宅で療養したりしてよくなることもある。健康な人では、もともとの体の免疫の働きがウイルスなどを排除する。市販の風邪薬や解熱剤は鼻水や発熱など風邪のつらい症状を抑えるので、免疫を付けるのに必要な食事や休業をとりやすくなる。
 ただ、市販の風邪薬は原因のウイルスや細菌をやっつける治療薬ではないので注意が必要。症状が軽くても「3日たってよくならなかったら、すぐに医療機関へ行って」と松永院長は語る。
 風邪とあなどっていると、思わぬ合併症を引き起こすこともある。例えば、発熱やのどの痛みがある溶連菌感染症。早めに医療機関で抗生物質などの治療を受ければよくなるが、放っておくと腎炎などの重症になることもある。

インフルエンザは高熱に

 先月、本格的なインフルエンザの流行期に入った。風邪を同じようにせきが出たり発熱したりするが、どのように違うのだろうか?
 インフルエンザは38度以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛などがある。風邪はのどの痛みやせき、鼻汁といった呼吸器の症状がメーンだが、インフルエンザは全身の症状があるのが特徴だ。また発熱もインフルエンザのほうが高くなる。
 特に高齢者や小児では悪化すると肺炎や脳症を起こすことがある。ただ健康な大人では、典型的な症状ではなく軽いこともあり多くの人では特に治療をしなくても1週間ほどで自然に治る。「軽いと風邪の症状と区別が難しい」(安井主任研究官)。
 「今年も大きな流行になる可能性がある。新型は健康な成人でも注意が必要。インフルエンザを疑ったら、すぐに医療機関へいってほしい」とけいゆう病院(横浜市)の菅谷憲夫医師は注意を呼びかけている。
日本経済新聞 2011年1月15日朝刊
 


●以前のデータはこちらをご覧ください●