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ヘルスこの一手
体重チェックの習慣 荒牧 麻子

 サラリーマンが列をなす昼時の定食屋。サンマかサバか、店先の焼き魚の煙が空腹を直撃する。熱々の焼きたてに大根おろし、ご飯とみそ汁の組み合わせに思いが走る。居並ぶズボンにワイシャツ姿の中には、ベルトからはみ出さんばかりの腹囲とおぼしき人もいた。旬の味覚を前に、内臓脂肪との戦いの季節到来。
 猛暑、残暑に振り回され、のどの渇きをアルコール飲料で潤した人、カキ氷やアイスクリームを例年より食べ過ぎたと反省する人、暑くて日課の散歩もサボりがちだった人など、暑さの影響は体脂肪の蓄積具合にも表れているようだ。この季節、定期検診を予定している場合も、ひとまず体重と体脂肪率のチェックをしておくことを勧める。

服装や時間一定で測定

 体重変動は一日に数回繰り返す。昼食を食べた後がいちばん重いという人が多い。休日であればスポーツジムや家庭で日中の測定も可能だが、大方は朝か夜が一般的だろう。注意したいのは、常に機器とその設置場所、服装、それに時間帯を一定にして、より正確に測定すること。個人差はあるが、夜の食事が午後9時を過ぎる人は、朝が測定に適している。食後すぐは避けた方がいいだろう。
 次に、成人の体重の目安だが、健康診断表に記された標準体重や適正体重範囲を参考にするのもよい。自分で算出する場合は、身長を基準に次の計算式を当てはめる。身長170センチメートル以下の場合は、身長(メートル単位)の2乗掛ける22、170センチメートル以上の人は、同じく身長の3乗掛ける13が標準体重(キログラム)となる。必要以上のやせすぎ、太りすぎは医学的に問題がある。健康診断の結果と照らして、体重維持か減量か、場合によりさらに栄養量を確保するのかを判断したい。
 自分の身長に適合した栄養量が備わった食事とその献立パターンを見いだすために、多少の時間をかけて、よく食べる料理や定食のエネルギー量を知ることも大事だ。
 例えばサンマの塩焼きは、1尾150グラムのうち、実際に食べられる部分を100グラムほどとするとエネルギー量は約299キロカロリー。一方、豚肉ロースしょうが焼きは、脂身も含め食べられる部分100グラムでおよそ328キロカロリーと、同じ量ならやや高い。そんなちょっとした差を意識してご飯の量を加減してもよいだろう。
(食卓プロデューサー)
日本経済新聞 2010年10月9日朝刊


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ぎっくり腰、中高年だけじゃない
同じ姿勢続くと“一撃”

 床積みの本をどかそうとしたら、息をのむほどの激痛が腰に―。
ドイツ語で「魔女の一撃」とも呼ばれるぎっくり腰は、決して中高年特有のものではない。
いつ襲われるか分からないぎっくり腰から身を守るには? 対処法をまとめた。

 医学的には急性腰痛症と呼ぶぎっくり腰。腰を構成している腰椎(ようつい)、椎間板(ついかんばん)、執帯(じんたい)、筋肉のいずれかに負担がかかり、断裂したり損傷したりした状態をいう。だが、医者にかかっても、その炎症個所を突き止めることはできない。椎間板ヘルニアや圧迫骨折などと違い、レントゲンや磁気共鳴画像装置(MRI)などの検査機では映らないからだ。
 稲毛整形外科(千葉市)の南出正順院長は「おなか側にある椎間板の線維輪がぴりっと裂けると、前にかがめなくなる。反対に、背中側にある椎間関節を傷めると、後ろに反らせない」と説明する。
 日ごろの何げない姿勢も腰に負担をかけている。例えば前かがみ。直立状態から、ひざを伸ばしたまま前にかがむと、腰への負担は1.5倍。前かがみで座ると2倍近くに。終日デスクワークに追われる人たちは要注意だ。さらに、その状態で物を持ち上げると、負荷は約3倍にも。「腰周囲の筋肉が物を持つ用意ができていないのに、さらに急な力がかかると、各組織が破綻する」(南出さん)
 いすの背に腰を当て姿勢良く座る。荷物を持ち上げるときは、ひざを曲げて腰を下ろす。掃除機をかけるときは腰を曲げずに済むようホースの長さを調節する…。日常生活の姿勢に注意を払うことが大切だ。


“音なし”も増える

 だが、それでぎっくり腰が防げるかというと、そうはいかないのが難しいところ。せきやくしゃみで起こる人もいるし、「最近は“音なしのぎっくり腰”が多い」というのは匡正堂斎藤整骨院(東京都葛飾区)の斎藤博保院長。グキッという衝撃を感じないままぎっくり腰になり、痛みがひどくなって気づく。「何となくおかしい」と思いつつ就寝し、翌朝動けない状況になるケースもあるという。
 予防策はあるのか。斎藤さんは「“しっぱなし”がいけない」と言う。座りっぱなし、歩きっぱなし、さらには寝っぱなしも。「同じ態勢を続けると筋肉が疲労しきり、伸筋と屈筋のバランスが崩れ、ピリッとくる。体のどこかに“たまり”をつくってはいけない。ふらふら動いて体をリラックスさせておくことが重要」
 スポーツドクターでもある南出さんは、日ごろからの予防策として、座位でのもも上げやスタワットなど、体幹のバランスを良くする筋力運動を勧める。「ひざを浮かした腹筋もいい。おへそを見る程度に上半身をかがめるので十分」

様子見ながら動く

 では、不幸にもぎっくり腰になったら―。まず、大事なのは冷やして炎症を抑えること。保冷剤あるいは氷をビニールに入れてタオルでくるみ、患部に当てる。「湿布は氷より表面の冷却効果が小さく、逆に皮膚温を上げることもあるので、氷で冷やすこと」(南出さん)。痛みが消えるまでは安静第一。ただし寝込むのではなく、1〜2日は様子を見ながら、3〜4日目からは普通に動く。無理ない程度にストレッチをするのもいいという。
「腰をゆっくり反らすマッケンジー体操(上の図)は効果があるといわれる」と南出さん。国際マッケンジー協会日本支部の岩貞吉寛筆頭理事によれば「この体操で痛みが改善する理由の一つとして、椎間板内の髄核のずれが適正な位置に整復されるためと考えられている」という。
 痛みがあるときには、腰椎を支えるコルセットを使う方法もあるが「使用は3週間を限度に。常用すると腹筋が落ちる」と南出さんは注意を促す。
 実はぎっくり腰で整形外科に駆け込んでも、薬や注射で痛みを和らげる対症療法がほとんど。結局はアイシングで炎症を抑え、痛みが消えるのを待つしかない。ただし、安静にしていても痛みが強くなる揚合や、直近に大けがをしていたり、胸部痛が伴ったりする揚合などは重篤な病気が隠れていることもあり、適切な受診を心がけたい。

● ●
「クセになる」は要注意

 ぎっくり腰は、整骨院や鍼灸(しんきゅう)院などでの受診も検討したい。整骨院の柔道整復師や鍼灸院のはり師、きゅう師は国家資格だ。
 「脳の指令は脊髄(せきずい)から末梢(まっしよう)神経を経て筋肉に伝わるが、ぎっくり腰は脊椎(せきつい)周辺の筋肉の異常が療因で、関連筋が緊張し、引きつれたり腫れたりという異常に陥った状態」というのは匡正堂斎藤整骨院の斎藤院長。その根本原因の個所を探し当て、掌圧で橋正するのが、同院の施術法だ。
 よくぎっくり腰はクセになるというが「それは痛みを鎮めただけで、根本原因は治っていないから」と斎藤さん。ぎっくり腰を繰り返すうちに椎間板ヘルニアになりやすい体になってしまうこともあり、要注意だ。
日本経済新聞 2010年9月25日朝刊


ヘルスこの一手
荒牧 麻子 果物がおいしい季節
 山と積まれたカラフルな果物売り場に足を止め、見慣れた旬の色合いとほのかな香りに目をやると、一瞬、ヘエッーと思わせる新顔品種に出会うことがある。
 薄緑色が鮮やかな「ケルシュー」という果物を手にしてみた。生産者の情報や類似品種との成分比較がうたい文句のようだが、栄養情報としての食品成分を表示していないことが私には不満に思えた。
 大きさは、スモモを2周り膨らませたほどで、1個150〜200グラムはありそうだ。濃い紫色にうっすらと白い粉に覆われたプラム同様、ブルームと呼ばれる表面に自然にできた白粉のようなものが付いている。もちろん無害。
 水で洗い丸かじりできるほどに皮が薄くやわらかい。甘酸っぱく、カリッ、パリッとした歯ざわりに、果肉はみずみずしく適度なやわらかさ。桃やプラムに似た種の回りが空洞になっていて「種離れ」がよい。温州ミカン、バナナ、イチゴ、サクランボなど手間をかけずに食べられる果物の仲間として、子どもにもすすめたい。

カロリー取り過ぎご用心

 一方、甘さと香りに魅せられ、ついついたくさん食べ過ぎてしまう中高年も多い。
 1個あたりの重量とエネルギーを知り、1日の摂取量をおおよそ決めておく習慣をつけたいものだ。
 近ごろのリンゴやナシ、ブドウは大きさを競っているかのようで、中くらいの物でも一つ250グラムはゆうにある。おおよそナシで1個110キロカロリー、りんごは1個135キロカロリー、甘さで人気のバナナは大きめの1本で170キロカロリー程度となる。
 野菜類と併せ、自家製ジュースを毎日愛飲している場合もエネルギーが減るわけではないので、使う果物の量にも気を配りたい。ここ数年、野菜や果物の摂取は多いほどよいというような空気が感じられる。しかし、野菜類は多少その方向に走っても大事には至らないが、果物はイモ類やクリ、カボチャ同様、糖質が多いことには注意してほしい。
 野菜や果物の日常的摂取を勧める話や科学的データは多い。特定の成分などと疾病関係がはっきりとしているわけではないが、果物と野菜の摂取が安定している地域には元気な高齢者が多いというのも、事実ではあろう。果物の持つやさしい味わいを楽しんで秋を満喫してほしい。
(食卓プロデューサー)
日本経済新聞 2010年9月18日朝刊


[Keyword]医療のことば
イレウスは腸閉塞と同じ
ちょっとわかりにくいけれど、一般の人もしっておきたい病気・病状を集めました。

【イレウス】
 子どもが激しい腹痛を訴え、嘔吐を繰り返しました。救急車で病院に運ぶと、医師は「イレウスの疑い」と告げました。家族は意味がわからず、緊急性も伝わりません。
 日本語では「腸閉塞(ちょうへいそく)」や「腸捻転(ちょうねんてん)」。腸の一部が何らかの理由で詰まり、食べた物やガスが通らない状態です。起きるのは子どもに限りません。放置すると腸が死んでしまうので、緊急手術の対象になります。

【敗血症】
 血液の病気ではなく、細菌感染で全身に炎症が起きた状態。血液に細菌が入った時は「菌血症」と言いますが、より深刻で命にかかわる症状です。細菌の毒素によるショックや多臓器不全を起こすことがあり、有効な抗菌薬を使いながら集中治療を行います。

【DIC】
これも深刻です。「播種性(はしゅせい)血管内凝固症候群」の略語で、血液が固まる反応が全身の血管内で無秩序に起こった状態です。血小板や凝固因子を使い果たすため、出血傾向になります。肺血症など重い感染症やがん、妊娠などに伴って起きることがあります。

【川崎病】
 川崎市の公害病ではなく、川崎富作博士が1967年に初めて報告した病気。主に乳幼児で発熱とともに全身の血管に炎症が起き、心臓に後遺症が残ることもあります。原因はよくわかっていません。病気に発見者の名前が付けられることはよくあります。

【COPD】
 「慢性閉塞性肺疾患」の略語。長年の喫煙によって炎症が起き、呼吸しにくくなる病気です。以前は肺気腫や慢性気管支炎と呼びました。進行すると酸素吸入が必要です。

【心身症】
 ストレスなど精神的な原因が影響して身体に症状がでること。身体表現性障害とも呼ばれます。過敏性腸症候群、胃潰瘍、月経不順、ぜんそく、緊張性頭痛など多数あり、専門的に担当するのは心療内科です。

【PTSD】
 「心的外傷後ストレス障害」の略語。事故、災害、戦争、犯罪被害などショッキングな出来事の後、不安・不眠、関連する事物を避ける傾向、再現体験(フラッシュバック)などが、一ヶ月以上にわたって続くことが診断基準です。一ヶ月未満の間は急性ストレス性障害(ASD)と呼ぶので、出来事の直後からPTSDと言うのは間違いです。

【せん妄】
 意識レベルの低下に加え、幻覚や錯覚が出た状態。興奮して点滴の管を引き抜いたりします。一時的な現象ですが、大手術の後、集中治療中、一部の薬、脳卒中、アルコール依存などで起きることがあります。

【肺水腫】
 何らかの原因で肺の中に水分が多量にしみだした状態です。陸にいながらおぼれているようなもので、呼吸不全を招きます。原因の治療とともに、利尿薬で体内の水分を減らし、酸素投与などで呼吸を助けます。

【髄膜炎】
 脳を包んでいる膜の炎症。脳は外から順に硬膜、くも膜、軟膜の三つの膜に覆われており、炎症は主に軟膜に起きます。細菌やウイルスが原因で、急いで治療が必要です。
読売新聞 2010年8月22日朝刊

食物アレルギー幼児の2割に
都調査過去10年で倍増

 食物アレルギーの経験がある3歳児は5人に1人で、この10年で2倍以上に増えたことが東京都の調査で分かった。一方で食物アレルギー症状を起こした子供の対応マニュアルを持つ保育所や幼稚園は半数にとどまった。都は原因調査を続けるとともに「原因物質とどうつきあったらいいか、保護者にガイドブックなどを使って指導したい」としている。  都は昨年10月、同月に「3歳児検診」を受けた乳幼児の保護者7247人に子供がアレルギー症状を経験したことがあるかを尋ね、2912人(回答率40.2%)から回答を得た。
 食物アレルギーの症状が出たことがある子供は22%、10年前の調査の9%から2倍以上になった。原因とみられる食べ物で最も多かったのは卵(71%)。牛乳(27%)、小麦(10%)、いくら(9%)などが続いた。症状は皮膚の湿疹(しっしん)が9割を占めた。
 食べ物以外のアレルギー症状もこの10年で増加傾向にあり、アレルギー性鼻炎は8%から20%、ぜんそくが10%から18%となった。
 都福祉保険局は「幼い時から大気汚染などにさらされ、アレルギー体質になる子供が増えているのではないか」と分析しているが、この10年間で急増した原因については分かっていないという。  都は同時期に都内の認可保育所、認証保育所、幼稚園計3206カ所についても調査を実施(回答率65.2%)。食物アレルギーの乳幼児がいたのは回答した施設の68%だった。
 「おやつの時は職員が隣に座る」(84%)、「食べてはいけないものを教える」(52%)などの対応をとっていた。死に至ることもある激しいアレルギー症状「アナフィラキシーショック」の対応マニュアルを作っている施設は51%だった。
 ぜんそくの乳幼児がいる施設は44%。対応は「敷地内を全面禁煙にする」(68%)、「毛や羽のある動物に触らせない」(49%)などが多かった。対応マニュアルの整備については44%と遅れている。 

都立小児総合医療センターの赤沢晃・アレルギー科医長の話
子供のアレルギー増加は全国的傾向だが、現代医学では、発症を完全には予防できない。発症しても最低限の食物除去などで済むよう医師の指導を受けるのが大切。幼稚園などはアレルギーの子供の受け入れ態勢を整えるべきだ。
日本経済新聞 2010年4月24日朝刊

血圧や関節痛、気象と関係あり?
活用しよう 健康天気予報
生活を工夫、体の不調防ぐ


 春本番となり、ようやく暖かい日が続くようになってきたが、体にとってはいいことばかりではない。「木の芽時は病気がはやる」とよくいわれるように、季節の変わり目は体調を崩しやすいもの。近年、気象と健康との関連の科学的解明が進み、その成果を利用した健康天気予報も充実してきた。この予報を上手に使えば日常の健康管理に役立ちそうだ。
 医療機器メーカーのテルモが2004年に全国の1168人に行ったアンケート調査では「天候や季節の変化と体調は関係があると思う」と答えた人の割合は81%。多くの人が「天候が変化すると関節が痛くなる」「乾燥すると全身がかゆくなる」といった経験を持っていた。

ドイツが先駆け

 立正大学地球環境科学部の福岡義隆教授は「このように人々が漠然と感じてきた気象と健康との関係を科学的に解明するのが生気象学だ」と話す。福岡教授によれば、ドイツではその成果を応用した医学気象予報が1952年に登場した。「当初は医療機関に心臓病などの発症リスクを提供するものだったが、92年からメディアを通じ一般向けの健康天気予報が発表されるようになった」という。
 現在、ドイツでは20項目以上の予報が発表されているが、中には「フェーン現象が起きるので交通事故が増える」などの精神医学的な項目もあるという。

季節により9項目

 日本でも気象予報会社が健康天気予報を発表している。先駆けとなったのはテルモがアンケート調査を基に気象予報会社、いであと共同で開発した予報だ。開始当時は花粉量と紫外線量、関節痛、熱中症の4項目の予報だったが、現在では季節によって、ぜんそくや血圧、片頭痛、インフルエンザ、乾燥肌を加えた9項目の予報が季節に応じて提供されている。


 予報はどのような根拠に基づいているのか。テルモマーケティング室の古川英夫課長代理によれば「関節痛の場合、全国でリウマチなど関節痛のある人に症状日記をつけてもらい、集まった1万人分の症状の程度と気象現象の関連を統計的に調べた」と振り返る。
 その結果「湿度と気温が一定の場合は気圧が低いほど痛みが生じやすい。また、気圧と気温が一定の場合は、湿度が高いほど痛みやすい」といったいくつかの相関関係が明らかになり、気象条件からリスクを割り出す計算式が導き出されたという。

低気圧の影響研究

 現在、一般的に提供されている健康天気予報は、こうした研究成果を反映させて、気象と天気の相関関係がはっきりしているものが選ばれている。今後、生気象学の進歩によって、健康天気予報の精度の向上が図られるほか、新しい健康天気予報がさらに登場する可能性もある。
 福岡教授は「室内の気温や湿度を微調整できる人工気象室の登場で、気温と湿度の研究は非常に進んだ。今、研究者達は気圧の影響の解明に取り組んでおり、低気圧がくると憂うつになるといった現象を科学的に解明できるようになる可能性もある」と話す。
 現在発表されている主な健康天気予報とその対処法は表の通り。福岡教授は、健康天気予報の利用について「予報と症状の関係には個人差がある。気になる症状がある人の場合、予報結果を参考に生活の工夫をするなど、ころばぬ先のつえとして利用するといいだろう」と話していた。


(ライター 荒川 直樹)
日本経済新聞 2010年3月20日朝刊

ヘルスこの一手
荒牧 麻子 たんぱく質の必要性は
インフル予防にも大切

 朝夕の涼しさに誘われて、ジョギングやウォーキングに時間を費やす人が目立つ。そんな一人から「体脂肪を減らして筋肉を鍛えたり増やしたりするためジムに通い、運動後に牛乳で溶いて飲むたんぱく質補給食品を愛用しているが、どのくらいで効果が出るのか」と質問を受けた。
 これに対し私は「運動選手なら、競技や練習の『手ごたえ』や、機器類での測定で効果が判定できると思うが、一般の人は体調や体脂肪計の数値、胸囲などが参考になる」と答えた。さらに「周囲の人が容姿変化に気付き、かけてくれる言葉に頼るのしかないのでは」と話した。
 何とも実感が伴わず頼りない返答だが、変化がすぐに現れるわけではないこの手の話は歯がゆいと常々思っている。こんなケースは併せてたんぱく質の必要量と働きについて語ることにしている。
 たんぱく質は三大栄養素の一つとしてポピュラーだが、時として生体のそれと食品に含まれる成分としてのたんぱく質を混同して理解している人がいる。
 食品に含まれるたんぱく質は、胃から分泌される消化酵素ペプシン他により消化され、最終的にたんぱく質を構成しているアミノ酸に分解され、吸収される。自然界には多くのアミノ酸があるが、生体に必要なたんぱく質を構成するのは20種類に限られる。そのうち成長に必要なものが必須アミノ酸として9種類指定されている。それらを料理や食品から摂取するわけだ。
 筋肉や血液、爪や毛髪、皮膚になるという理解が一般的だが、主な働きには酵素や栄養素の運搬役、免疫抗体があり、ホルモンとしても生命活動になくてはならないものだ。昨今流行のインフルエンザの予防・治療に、たんぱく質を十分に含んだ食事が必要とされるのはこのためである。また遺伝子研究所では、細胞機能調節機構を担うたんぱく質などの新発見も発表されている。
 ここまでたんぱく質の重要性を示してきたが、それを含む食品を過剰に摂取すれば、これまた本末転倒でカロリーオーバーになってしまうかもしれない。だが、毎日の食卓に卵や牛乳、乳製品、魚介類、肉類、豆腐または豆類、それに主食となる穀物が載ることがまず必要だ。野菜や果物、海藻、こんにゃくなどは実は「その次」なのだ。
(食卓プロデューサー)
日本経済新聞 2009年9月5日朝刊

インフル予防策、効果を検証すると
●ワクチン…発症・死亡減らす
●マスク…感染者の着用効果
●手洗い…指先まで入念に

 新型インフルエンザの本格流行が始まった。9月から学校が再開されれば一気に感染が広がる懸念もある。一人ひとりが気をつけて大流行を抑える努力が求められるが、インフルエンザの予防策には効果が定かでないものも少なくない。科学的検証はどこまで進んでいるのだろうか。
 「ワクチン」を打ったのにインフルエンザにかかった」―。こんな経験を持つ人は少なくない。しかし、「効果がない」と判断するのは早計だ。

感染は防げない

 国立病院機構三重病院の神谷斉名誉院長は「インフルエンザワクチンは感染自体を防ぐことはできない」と説明する。接種すると血液中にウイルスを攻撃する抗体ができるが、ウイルスは目鼻やのどから侵入する。血中に抗体があっても感染は防げない。
 ただ、神谷斉名誉院長らが実施した研究によると、季節性インフルのワクチン接種で65歳以上の発症を34〜55%予防し、死亡は82%減らす効果があった。
 もちろん効果は年によってばらつきがある。日本臨床内科医会の研究班は毎年、約1万人を追跡調査し、季節性のワクチンの「有効率」を調べている。発祥を防ぐ有効率は年によって約20〜80%の幅があるという。


 10月に接種が始まる新型のワクチンも、国産なら基本的に作り方は季節性と同じ。ただ、季節性は成人なら1回接種で済むが今回は2回接種が必要になる見通し。過去に感染したことがないため免疫を付けるのが難しいからだ。効果が限定的な可能性があることも、理解しておかなければならない。  マスクや手洗いといった予防策に実は効果を示す明確な根拠はほとんどない。ウイルスがどのように人に感染するのかを知っておくとよい。
 感染経路は主に「飛沫(ひまつ)感染」と「接触感染」。飛沫感染は患者がせきやくしゃみをしたときに出る飛沫を吸い込んで感染する。飛沫が飛び散る距離は1〜2メートル。周囲に人がいないときにマスクをしても意味はない。人込みなどで必要に応じて着用する使い方が正しいだろう。マスクは感染者が着用して周囲に病気を広げないようにする、「せきエチケット」として使う効果が大きいと期待されている。


「うがい」は懐疑的

 接触感染は飛沫がついた机などに触れて手にウイルスが付着し、その手で目や鼻を触ったときにウイルスが体内に侵入する。指先まで入念に手洗いしてウイルスを洗い流すと接触感染のリスクを下げることは可能だ。
 ただ外出先などで何度も手を洗うのは現実には難しい。手にウイルスが付着しても目鼻に触れなければ感染しないので「外出時はなるべく顔を触らないことだ」(東北大学の押谷仁教授)。
 うがいの効果は多くの専門家が懐疑的な立場をとる。ウイルスはのどの粘膜に付着すると数分で細胞に取り込まれる。頻繁にうがいはできないし鼻からの侵入も防げない。ただ、国立感染症研究所の岡部信彦感染症情報センター長は「口の中を清潔にすることは決して悪いことではない」と擁護する。
 こんな研究もある。京都大学の川村孝教授は10〜60代387人を「1日3回の水うがい」「1日3回のヨードうがい液によるうがい」「何も指示せず」の3グループに分けて真冬の時期に2ヶ月間追跡した。水うがいをしたグループは風邪にかかるリスクが4割低くなった。インフルエンザ以外の病原体も含めた結果だが、川村教授は「ウイルス感染を助ける口内のたんぱく質を洗い流した効果ではないか」と推測している。
 東京歯科大学の奥田克爾名誉教授は口腔(こうくう)ケアに着目する。要介護の高齢者190人を2グループに分け、一方だけに歯科衛生士が歯磨きを指導した、6カ月追跡すると、指導グループでインフルエンザを発症したのは1人だった。未指導グループは9人が発症したという。
 人数が少なく、これだけでインフルエンザの予防効果があるとはいえないが、奥田名誉教授は「口を清潔にすれば歯周病や誤嚥(ごえん)性肺炎も予防できる」と話す。
 新型インフルエンザ発症を受けて空気清浄機の売れ行きが好調だが、過信は禁物。インフルエンザウイルスは通常、空気感染はしない。空気中のウイルスを死滅させたとしても、感染を防げるという根拠にはならない。東北大学の賀来満夫教授は「学会などが試験して、正しい使い方を示す必要がある」と指摘する。
(本田幸久)
日本経済新聞 2009年8月30日朝刊


医師の目
診療充実には雑用なくせ
米国在住医師(病理学) 武井 義雄氏

 近ごろ、夜の目抜き通りは空車の“ちょうちん行列”が目立つ。景気低迷で利用者が少ないためだが、やみくもにタクシーの規制緩和を進めた失政のツケでもある。
 国は、医師不足に対して医学部の定員を800人あまり増やした。しかし、これらの新入生が医師の免許を取得して、2年間の基礎研修を終えるまで8年、まともな医師として機能するまで、さらに4、5年はかかる。まるで、腐り始めた床を修理したいが材木がたりないから、木を植えて育つのを待とう、といっているようなものだ。
 日常業務で日本の医師たちの「雑用」がいかに多いか、ご存知だろうか。アメリカの医師だったら断固拒否するような膨大な書類作成などを、日本の医師たちは黙々とこなしている。現在実働している日本の医師数は約25万人。1%の時間を、雑用から診療に充てるだけで、2500人分の時間が浮く。医師不足対策は、ここから手を付けなければならない。雑用から開放された医師に余裕ができれば、本来の診療に専念でき、医療の質向上にもつながる。
 日本の医療行政は官僚主導である。その周りには「知識人」や「専門家」などと呼ばれる集団がいるとは思うが、肝心の官僚たちの大半に臨床経験がないため、机上の思考になる傾向は否めない。だから、インフラも整備せずに電子カルテを導入したり、必要のないメタボ診療などで、医師の雑用を増やしている。
 医師でなくてもできる雑用の時間をなくさずに、数だけ増やしていても、いつまでたっても医師の繁忙感は改善できない。
 社会的共通資本ともいわれる医療は、公共事業と見なされるべきだ。物流や人の移動のインフラとして橋や道路が建設されるのと同じように、国民が質が保たれた医療をスムーズに受けられるようにするべきなのだ。
 そのためには、国民の医療、保険を厚生労働省というきわめて広い分野をカバーする官庁に所轄させないで、優秀な官僚を軸に独立させるべきだ。消費者庁さえ設立される時代である。
 「医療崩壊」が叫ばれるなか、政府は医療再生を真剣に考える時ではないだろうか。
日本経済新聞 2009年7月5日朝刊


環境汚染物質子どもの脅威に
免疫系疾患や先天異常が増加
環境省、新生児6万人調査へ

 子どもの健康が脅かされている。ぜんそくなどの免疫系疾患が大幅に増え、先天異常の発生も増加傾向にあるという。原因の一つと考えられているのが環境汚染物質の影響。医学的な解明に向け、環境省は2010年度から新生児6万人を対象に大掛かりな疫学調査に乗り出す。
 4月下旬、イタリア・シラクサで開かれた主要8カ国(G8)環境相会合。地球温暖化問題などと並んで今年は「こどもの健康と環境」が主要テーマとして取り上げられた。斉藤鉄夫環境相は基調講演で、日本の子どもにみられる異変の実態を報告した。

ぜんそく3倍に

「この20年間で児童のぜんそく発生率は3倍に増加した。30%増ではない、3倍だ」「男児の出生率は40年間縮小傾向で、東京など大都市圏では一層顕著」「人口1万人当たりの先天異常の発生率が25年間で約2倍になった」


 異変の原因は何か。子どもの病気には遺伝的な要因や社会環境、生活週間などが複雑に絡み合っている。原因を探してもすぐに明確な答えが見つかるわけではないが、斉藤環境相は講演の中で「近年、急激に変化している要因として注目すべきものとして、環境中の化学物質の増加があげられる」と指摘した。
 工業的に作られる化学物質は10万種類を越すともいわれ、なお増え続けている。誰もが恩恵を受けている半面、健康や環境に悪影響を及ぼす環境汚染物質が多く存在することも明らかになってきた。
 例えば、ポリ塩化ビフェニール(PCB)は、電気機器の絶縁油などとして普及したが、後に毒性が判明した。主に農薬に使われたジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)も健康に悪影響を与えることが知られるようになった。ダイオキシンが先天異常を引き起こすことも動物実験でわかっている。生殖機能への悪影響が指摘されるトリブチルスズやイタイイタイ病を引き起こしたカドミウムも代表的な有害物質だ。
 こうした物質は製造や使用が中止になっても環境中からなくなるわけではない。土壌や大気、水が汚染されると、食事や呼吸、接触を通じて人間の体内にも入り込む。千葉大学予防医学センター長の森千里教授は「体の中に環境汚染物質が見つからない人はまずいない」と断言する。
妊婦が体内に取り込んだ環境汚染物質は、おなかの中にいる胎児にも影響を及ぼす。日本ではかつて、母親が摂取した有機水銀によって生まれながら水俣病を患う子どもが現れるという悲劇も起きた。

汚染は当たり前

 森教授が新生児のへその緒を調べたところ、PCBの検出率は100%だった。DDTやトリブチルスズも高い確率で見つかった。生まれる前から子どもは複数の物質に汚染されているのが、当たり前と考えざるを得ないようだ。
 体が小さくその機能も未熟な子どもは大人に比べて環境汚染物質の影響を受けやすいとされる。生まれた後も様々な化学物質と接しながら生活を送る。日本では一時期、健在などに含まれる化学物質が原因のシックハウス症候群が問題になった。その後規制が導入されたが、懸念が払拭(ふっしょく)されたかはまだわからない。
 アレルギー性ぜんそくなどの増加は、上下水道の整備などで生活環境が清潔になったため、皮肉にも体の免疫機能が正常に発達しなくなったことが大きな原因と専門家はみる。環境汚染物質に原因があるという根拠はないが、食物アレルギーの発症などでは不明な点も多い。国立育成医療センター研究所の斎藤博久免疫アレルギー研究部長は「(環境汚染物質の影響も)調べてみる必要はある」と語る。

施策に反映重要

 環境省は10年度から6万人の新生児を12年間追跡し、「環境汚染物質の影響はあるのかないのか」「あるとしたらどのようなものなのか」などを調べる。注意欠陥・多動性障害(ADHD)や自閉症を抱えるこどもが増えているとの報告もあり、関連性についても調べていく方針だ。


 子どもの健康と環境との問題は世界的な関心事にもなっている。米国やノルウェー、デンマークなどでも国家プロジェクトとして10万人規模の疫学調査を実施した。環境省は各国政府とも協力し、異変の実態を詳しく分析したい考え。国立育成医療センターの奥山真紀子こころの診療部長は「重要なのは得られた知見を具体的な施策に生かすこと」と話す。(生川暁)
日本経済新聞 2009年6月19日夕刊

菌とつきあう
若者の腸が老化……胎児期の免疫影響
 母親のおなかの中で胎児の状態でいる時には、体内はもちろん、体の表面にも全く細菌は着いていない。出産で母体から離れると同時に、様々な細菌が産道や空気、母乳、手指などを通して体の中に入ってくる。
 産道を通る時についた細菌はそのまま腸管で増殖する。はじめは大腸菌などの悪玉菌といわれる菌が多いが、すぐにビフィズス菌などの善玉菌が多くなる。母乳で育てた場合、腸内細菌のうちビフィズス菌の割合が95〜99%、人工乳の場合には90〜95%となる。母乳で育てた方が病気にかかりにくいというのは、このちょっとした腸内細菌の分布の差からきている。
 乳児期の腸内にあるのは90%以上がビフィズス菌で悪玉菌はごくわずかだ。離乳期になり大人と同様のものを食べ始めると、とたんに悪玉菌が増えてくる。この状態は離乳期から青年期まで続く。
 青年期から老年期にかけて変化をみせる。たくさんいてほしいビフィズス菌の数が減少し、老年期の10人に3人ひは全くビフィズス菌がみられなくなる。代わりにウェルシュ菌など、悪玉菌と呼ばれる細菌が急増する。
 この傾向はあくまでも一般的なものにすぎない。老年期の人でも腸内細菌から見れば、若者とほとんど変わらない人もいるし、逆に20代の若者でも腸内細菌から見れば、老年期の人と思えることがしばしばみうけられる。
 ある20代の女性の便には、腸内細菌の10〜10%を占めているはずのビフィズス菌が0.01%以下しか認められなかった。彼女は食事を作ったことがなく、菓子が主食になっていた。
 今、生まれてくる子どもの約40%がアトピー性皮膚炎や気管支ぜんそくになるようになった。母親の腸内細菌が貧弱で、老年期と同じようになっていたため、胎児期に十分な免疫力を付与することができなかったからといわれる。
 問題は若者の腸が老化していることだ。腸内細菌の餌となる穀類や野菜類、豆類の手作りの食品をバランス良く取ることがとても大切だ。
(人間総合科学大学教授 藤田 紘一郎)
日本経済新聞 2009年5月31日朝刊

ダニ・カビ今から絶つ
ぜんそくや感染症の原因「じめじめ」が来る前に
布団のダニを減らすには
(1)布団のこまめな天日干し、乾燥機の使用、掃除機がけ
(2)シーツや毛布などの洗濯、シーズンオフの布団の丸洗い
(3)防ダニ布団カバーの使用
 あと一ヶ月もすれば、じめじめとした梅雨の季節がやって来る。夏場にかけて気温と湿度の高い日々が続き、室内にダニやカビが繁殖しやすくなる。アレルギー症状や感染症を引き起こすこともあるが、ダニやカビの種類によって対処法も違う。正しく知って用心したい。
 「高温多湿の日本は世界でもダニが多い国。子どものぜんそくの9割、大人も半分はダニが原因だ」。国立病院機構・相模原病院の秋山一男院長はこう注意を呼びかける。ダニは気温がセ氏25度以上、湿度が75%を上回ると発生しやすくなる。
 5万種類以上もあるといわれるダニのうち、死骸やふんを吸い込むと、ぜんそくや鼻炎などのアレルギー症状を引き起こすのが「ヒョウヒダニ」だ。刺されるとかゆみが出るダニとは別の種類で、畳のほかに、乾燥しやすい寝具・カーペットなど幅広い場所に生息する。フローリングの床には少ない。
 ヒョウヒダニは室内のホコリの中にある人間のふけやあか、食品かすを食べている。対策はこまめな掃除と換気でほこりがたまらないようにするのが何よりも肝心。湿度を50%以下に抑えれば増えにくいという。

測定キットを市販

 布団や枕といった寝具にダニがいると寝ている間に吸い込む羽目になるので、とくに念入りに対処すべきだ。布団をまめに干す。掃除機をかけるのもよい。セ氏40度以上なら死滅するため布団乾燥機を使うのも有効な手段だ。
 相模原病院の秋山院長は「防ダニ対策をしてある布団カバーを使うととても便利」とアドバイスする。ダニが通過できない素材で作られており、有効性も立証済み。ただ、布団にダニがいなくなってもアレルギー成分がしみ込んでいることがある。財団法人日本環境衛生センターの橋本知幸課長補佐は「アレルギー成分は水に溶けやすい。掛け布団などはシーズンオフに丸洗いしたらよい」と話す。
 室内のダニアレルギー成分の量を簡単に測定できるキットも市販されている。室内のアレルギー成分をゼロにすることは難しいが、「掃除の前後などに、アレルギー成分がどれだけ減ったか調べる使い方ができる」(橋本氏)。
 刺されるとかゆみが出る室内のダニは「ツメダニ」「イエダニ」など。ツメダニの居場所は畳が中心で自分より体の小さいヒョウヒダニをエサにしている。ヒョウヒダニへの対策をとれば、自然とツメダニも減少するという相乗効果が見込める。
 イエダニの場合は人を刺すだけでなく、血を吸うのでかゆみが強く出やすい。ネズミに寄生して生きているため、室内にイエダニがいれば、近くにネズミがいると考えるのがよいだろう。
 屋外では山林ややぶの中にいる「マダニ」に用心したい。刺されて血を吸われるとかゆみが出るだけでなく、感染症をうつされることもある。野山に行くときは肌を露出しない服装で、虫よけスプレーを使うなどの対策をしよう。  これからの季節、ダニと同じように増えてくるカビにはどのように対処したらよいのだろうか。千葉大学真菌医学研究センターの亀井克彦教授は「まず夏型過敏性肺臓炎に気をつけて対策をとってほしい」と話す。

肺炎になることも

 夏型過敏性肺臓炎は6月から10月に増えるアレルギー性肺炎で、台所や風呂場に発生する「トリコスポロン」というカビを吸い込むことで起こる。中高年の女性が発症することが多い。しつこいせきや微熱が続くが、旅行や出張で家を離れると症状が改善する。進行すると肺が固くなって息苦しさが続き、そのまま治らなくなることもある。
 「アスペルギルス」というカビも水回りなどに多く、胞子を吸い込むと気管支炎を起こす。免疫が落ちている人では肺にカビが感染してアスペルギルス症という重い病気になることもまれにある。
 室内のカビは水分を好む。発生させないようにするには、台所や風呂場といった水回りを、常に清潔に保よう心がける。また、エアコンの中はカビの宝庫となりやすく、こまめな掃除が必要だ。
 梅雨時はパンやモチなどにもカビが発生する。「アフラトキシン」などが含まれている。カビを切り取っても、見えない毒素が染み込んでいるかもしれないので、「もったいない」からといって口にしないことだ。(本田幸久)
日本経済新聞 2009年5月3日朝刊


菌とつきあう
耐性増したピロリ菌……効果的な乳酸菌
 ピロリ菌が太古の昔から世界中の人間の胃にすみ続けてこられたのは、前回紹介したように、宿主である人間の血液型に合わせて胃壁に結合するたんぱく質の型を調整する能力を持っていたからだ。
 昔から人類と共生してきたピロリ菌をただ単に「完全除菌」してしまうと、弊害が出てくることが当然考えられるだろう。
 全く胃の情状がない人の胃からピロリ菌を完全除菌すると、逆流星食道炎を発症することが今、問題になっている。逆流した胃酸によって食道の粘膜が胃の粘膜に変化する「パレット食道」ができることがわかってきた。このパレット食道から、食道がんが頻発するようにもなってしまった。
 日本人はいつの間にか「ほどほど」ができない国民になったようだ。片っ端から誰でも徹底的にピロリ菌を排除すると困ったことになる。
 繰り返し述べているように、慢性胃炎や胃かいようになっている人はピロリ菌を除菌しなければならない。抗生物質を使った三剤併用療法が行われるが、この除菌法には問題もある。二種類の抗生物質を一週間も投与するので、アレルギーや下痢などの副作用を起こす人がいる。
 ほかにも、抗生物質に対する耐性菌が生まれて、除菌率が低下してきた。以前は90%の除菌成功率だったものが、最近、70%まで下がってしまった。また、肺炎などになっても抗生物質が効かなくなることもある。
 そこで考えられたのが、乳酸菌を利用してピロリ菌の胃粘膜への吸着を阻止する方法だ。
 東海大学医学部の古賀泰裕教授は、胃酸に耐えて、かつピロリ菌の“住み家”となっている胃の粘膜細胞に付着してくれる乳酸菌を200種類の中から探し出した。最も効果的だったのがLG21乳酸菌だった。
 ピロリ菌に感染している30人を対象に、LG21入りのヨーグルトを一日一個食べてもらった結果、八週間後にはピロリ菌数が平均十分の一まで減少していたという。
(人間総合科学大学教授 藤田 紘一郎)
日本経済新聞 2009年4月26日朝刊

菌とつきあう
血液型利用し進化……ピロリ菌高率感染
 胃かいようや胃がんの原因の一つとされるピロリ菌だが、太古の昔から日本人だけでなく世界各地の人々の胃の中に生息していた。なぜ、こんなに高率に感染し続けたのであろうか。
 ピロリ菌は深海底の熱水噴出口に生息する特殊な微生物が祖先だったことが、海洋研究開発機構のゲノム解析で明らかとなった。この微生物は熱水に含まれる硫化水素などを栄養源にしており、病原性はないが、貝類などと共生する能力が高い細菌であることがわかった。この菌の感染性に関する遺伝子がピロリ菌と共通していたのだった。
 ピロリ菌は人類が誕生したときから人の胃の中にすんでいたと考えられる。各地の先住民族から採取したピロリ菌遺伝子の変化の度合いを比べてみると、人類が約58,000年前に東アフリカから世界中に広がったことが確認された。その後、30,000年以上前と5,000年前の二度に分けてアジアから太平洋に向けて広がったことも明らかとなった。
 このピロリ菌の感染が人間の血液型と関係していたことも明らかとなった。中澤晶子山口大学名誉教授を中心としたグループが、ピロリ菌は人間の血液型を利用して巧みに進化していることを明らかにしたのだ。
 胃の粘膜の細胞には糖鎖が異なるABO血液型物質が存在する。一方、ピロリ菌は胃の粘膜にとりつくための「接着因子」を持っている。この接着因子が胃の粘膜の血液型物質に付着していたのだ。
 中澤名誉教授らは、採取した373株のピロリ菌について、ABO血液型物質との付着状況を調べたところ、欧州や日本で分離された菌は、95%がABOのどの血液型物質にも付着する万能タイプだった。人口の多くがO型の血液型で占められているペルーなどで分離された南米の菌は62%がほぼO型血液型物質にのみ付着する特定タイプのピロリ菌だった。
 ピロリ菌はペルーなどの人々に感染しやすくするために、自らO型物質に付着しやすい形に変化していった可能性が考えられる。
(人間総合科学大学教授 藤田 紘一郎)
日本経済新聞 2009年4月19日朝刊

菌とつきあう
ピロリ菌除去の判断、負の側面も考えて
 ストレスで胃の粘膜が荒れると、ピロリ菌が吸着し、IL-8という物質を出す。このSOS信号に白血球が集まって炎症を起こす。繰り返すうちに、胃かいようから胃がんになるといわれている。
 病院を訪れる患者で統計をとると「50歳以上のピロリ菌感染者がその余生で胃がんになる確率は10%、しかし、ピロリ菌感染者が胃がんになる確率は0.1%」という結果になる。
 もし、ピロリ菌が胃がんの主原因なら、除菌が最良の予防法になるだろう。
 ピロリ菌は一般的に抗生物質をつかった「3剤併用療法」で除菌する。二種類の抗生物質と胃酸分泌を抑える薬を一日二回、一週間服用する。その後、四週間以上あけてから、ピロリ菌がいなくなったかどうかを判定する。
 胃かいようや十二指腸かいようのあるピロリ菌感染者、あるいは過去にこうしたかいようにかかった人が除菌する場合には健康保険が使えるが、予防のために除菌するとなると健康保険は利かない。
 胃にストレスもなく正常な人からピロリ菌を完全に除菌するとどのような結果になるのであろうか。
 県立広島病院の宮本真樹総合診療科部長らは1998年から6年間、広島北部の住民を対象に追跡調査をした。追跡できたピロリ菌陽性151人の約10%が胃かいようや胃がんを発症していた。それに対して、陰性90人の実に32%が逆流性食道炎を発症していた。
 東京医科大学病院内視鏡センターの河合隆教授も、今まで高齢者にしかみられなかった食道裂孔ヘルニアに20歳代や30歳代の人たちが、かなりの割合で罹患(りかん)していることを認めている。
 ピロリ菌を完全に除菌すると、胃壁がかたくなり、収縮しなくなる。胃酸をどんどん出すようになって、胃酸が食道に逆流し、食道の粘液が胃の粘膜に変わる「パレット食道」ができてしまうからだ。
 ピロリ菌を除去するかどうかは、こうした医療情報を参考に、個人個人が判断するしかないのが現状だ。
(人間総合科学大学教授 藤田 紘一郎)
日本経済新聞 2009年4月12日朝刊

菌とつきあう
腸内環境整える乳酸菌……花粉症など抑える
 花粉症に悩む人は年々増加している。花粉症はアレルギー反応の一種で、原因はスギやヒノキなどの花粉が主である。まれにブタクサやイネの花粉が原因で夏から秋に症状が出る場合もある。
 花粉症を抑える食品として最近注目されてきたのが乳酸菌である。乳酸菌はヨーグルトをはじめ多くの食品に含まれ、種類も大変多い。しかし、大切なことは自分の体質に合った乳酸菌を選ぶことである。一週間食べ続けて、便の様子を見てみよう。便が黒ずんでおらず、黄色に近い色になっていれば、その乳酸菌が自分の体に合っていることを示している。
 なぜ、自分の体に合った乳酸菌が存在するのだろうか。細菌、東北大学大学院農学研究科の齋藤忠夫教授らは、人の血液型を認識する乳酸菌を発見した。
 私たちにとって有効な腸内細菌の中で、最も効力があるとして注目されている乳酸菌はヨーグルトや味噌、チーズ、キムチなどの発酵食品に含まれる。しかし、これらの食品を大量に摂取しても、乳酸菌が一時的に腸内を通過するだけでは不十分である。乳酸菌の機能が発揮され、維持されるためには腸内に長く留まっていなければならない。
 齋藤教授らは多くの種類の乳酸菌の中で、人の腸に長く留まるものとそうでないものとが存在していることに気付いた。そして、腸壁表層部を覆う腸ムチンの中に、乳酸菌が結合している特殊な物質があることを発見した。それが血液型物質だったのだ。
 齋藤教授らはABOそれぞれの血液型に特異的に結合する乳酸菌が存在することも明らかにし、「血液型乳酸菌」と命名。有名な海外医学雑誌み論文投稿した。それぞれの血液型と相性のよい乳酸菌が腸内に長く留まることができ、腸内環境を整え、花粉症などの発症を抑えていることがわかった。
 実は、血液型物質と結合している微生物は乳酸菌ばかりではない。ノロウイルスやピロリ菌など、私たちの胃や腸の中で悪さをする微生物も含まれている。
(人間総合科学大学教授 藤田 紘一郎)
日本経済新聞 2009年3月29日朝刊

菌とつきあう
アレルギー性疾患……寄生虫が反応抑える
 私は毎年、インドネシアのカリマンタン島に通っている。糞(ふん)便が流れる川で遊ぶ子どもたちの皮膚は黒光りして、アトピー性皮膚炎にかかっている子は一人もいなかった。ぜん息、花粉症で悩んでいる子もいなかった。
 なぜ汚い川で遊んでいる子どもたちにアレルギー性疾患がないのか、という疑問が私の生涯の研究テーマとなった。調べてみると、彼らのほぼ100%が回虫などの寄生虫にかかっていた。私は回虫などの寄生虫が、アレルギー反応を抑えているのではないかと考えた。
 40年に及ぶ研究の結果、寄生虫からアレルギー反応を抑える物質を取り出すことに成功した。この物質は寄生虫の分泌・排泄中に存在する分子量約2万のたんぱく質で、人間の免疫系に作用しアレルギー反応を抑えていた。
 つまり、異物である寄生虫が人からの免疫的攻撃を受けないようにする特殊な物質を分泌・排泄しており、その物質が人間のアレルギー反応を抑えていることがわかったのだ。しかし、アレルギー反応を抑えていたのは寄生虫ばかりではなかった。
 昔の子どもは青っぱなをよく垂らしていた。その頃は花粉症はなかった。そして、子どもたちは結核ワクチンのBCGを受けていた。BCGを受けた子どもは、花粉症にもアトピーやぜん息にもなりにくいことを日本赤十字社和歌山医療センターの榎本雅夫・前耳鼻咽喉科部長が米サイエンス誌に発表した。回虫でも、結核でも、人が微生物と付き合っているとアレルギー反応が抑えられることがわかったのである。
 そうすると、なぜいま、日本で花粉症やアトピー、ぜん息などのアレルギー疾患が増え続けているのか、その謎が解けてきた。私たちの体を守っている微生物はたくさん存在する。皮膚には皮膚常在菌がいて皮膚を守っている。腸内細菌はビタミンを合成し、免疫力をつけている。これらを一方的に追い出している「超清潔社会」が、アレルギー性疾患を増やしていると考えるに至ったのである。
(人間総合科学大学教授 藤田 紘一郎)
日本経済新聞 2009年3月15日朝刊

菌とつきあう
味方も化学物質で攻撃……アレルギーを誘発
 現代文明は「より便利に」「より清潔に」「より快適に」と合理性や功利性を追及してきた。その結果、それとは逆のもの、「不便」「不潔」「不快」なものは社会の表舞台から退けられてきた。
 寄生虫や細菌などの微生物は「不潔なもの」、人間に病気をもたらす「不快なもの」として徹底的に排除されてきた。人間にとって「敵か味方か」を区別される前に、せん滅すべき対象とされた。
 しかし、私たちの皮膚には皮膚常在菌がいて皮膚をいろいろな害から守っている。腸内細菌は免疫力をつけたり、ビタミンを合成したりしている。女性の膣(ちつ)内はデーデルライン乳酸菌のおかげで清潔に保たれている。これらの常在菌なしでは、私たち人間は生きられない。ところが、私たちはこうした味方の微生物までせん滅の対象としてしまったのである。
 せん滅に大きな役割を果たしたのが、皮肉にも私たちが苦心して作り出した「化学物質」であった。今では「化学物質」は人間の健康や環境に対して「好ましくなく、うさんくさい物」という考えも出ている。しかし日本社会はその化学物質を使って「きれいすぎる環境」を追及し続けている。
 その結果、45年前にはほとんどなかった花粉症やアトピー性皮膚炎に日本人は苦しむようになった。防腐剤や食品添加物の入った食品を多くとって腸内細菌を弱らせ、日本人の免疫力を低下させてしまった。抗菌グッズの使用や洗いすぎなど、過度のきれい好きがアレルギー体質をつくったと考えられるのだ。
 私が毎年訪れるインドネシアやフィリピン、ベトナムの子どもたちにはアトピー性皮膚炎やぜんそくなどのアレルギー性疾患がほとんど見られない。私たちから見れば相当汚いところで遊んでいるのだが、肌は黒光りして瞳は輝き、とても元気である。
 彼らの周囲に殺菌剤や消臭剤などは見当たらない。抗菌性のグッズもない。彼らは採りたての魚や野菜、穀類などの手作りの料理を一家だんらんで楽しくたべているのだ。
(人間総合科学大学教授 藤田 紘一郎)
日本経済新聞 2009年3月8日朝刊

脳の健康法
肯定から始める-------ストレスの支えに
 医療現場では病気にかからないように、病気を悪くしないようにと患者を指導する。患者のしていることを否定し、「これをしてはいけない」「こうしなさい」と禁止と強制で指導を始めることが多い。病気にかからせたり、悪化させたりしたら責任重大と考えるからである。
 これに対し、脳の健康法の基本にあるのはあくまでも「禁止することを禁止する」「快を大切にする」の二つの法則だ。すべてを受け入れ肯定することから始める点が、従来の医療で実施されてきたことと根本的に違う。ストレスがあるから過食や偏食になり、喫煙も飲酒もする。それを受け入れずに否定すれば、ストレスに対して自らを支えきれずに倒れてしまう。
 人は本来、「ごく当たり前に」生まれ、成長し、病気にかから、年をとり、そして死ぬ。脳は、この一連のプロセスをコントロールしている。自分の行動を否定したり禁止したりすることは、ごく当たり前のプロセスと相いれない。制約を取り払った方が脳は健康に働くはずで、それができれば健康の知識も「理性脳」で意識した健康づくりもほとんど必要ではなくなる。
 何度か紹介してきた快食療法を不思議に思った読者もいるかもしれない。しかしこれは決してとっぴな方法ではなく、視覚、聴覚、嗅覚(きゅうかく)、触覚、味覚という五感を十分に働かせてごく当たり前に生きるための方法の一つである。脳に心地よさを与えることによって、ストレスに押し倒されない良い支えを提供することもできる。
 脳が春夏秋冬の自然や自分の体調を五感でキャッチして、自然な生活リズムを営むのが人間本来の姿だ。ところが現代の健康づくりでは、生きるためのテクニックばかり教えている。
 私たちが毎日営んでいる日常生活の中にこそ健康の根っこがある。さらに言えば、ごく当たり前に生きることが健やかな死にもつながるのではないか。以前に勤めていた病院の院長の「健やかに生きることは、健やかに死ぬこと」という言葉が忘れられない。
(横倉クリニック院長 横倉 恒雄)
日本経済新聞 2009年2月15日朝刊

ファーストエイドのくすり箱
エネルギー不足を感じたら
熱性・寒性、両方の食べ物を

 寒さもいよいよ本番、風邪もインフルエンザもかなりはやってきた。毎日診断現場に立っていると、今年の風邪は高熱より咽頭(いんとう)痛と咳が主症状。一週間は辛いようだ。
 嘔吐(おうと)や下痢をもたらすノロウイルスや腸炎ウイルスによる風邪もちょっとはやっている。外から帰ったら手を洗い、お茶でうがいをして、きちっとお風呂に入って早めに寝る。睡眠時にマスクをし、肌着を一枚増やして外出したりなど予防が大切だ。
 ところで、寒い冬には体を暖める「熱性食材」と、体を冷やす「寒性食材」がある。熱性食材には興奮作用があり、冷え性や血液循環が悪い人、貧血気味の人に適した冬の食材といえる。野菜ではカボチャやカブ、キャベツ、タマネギ、ニンニクなど。肉類では牛肉、鶏肉、アナゴ、フグなどが該当する。黒砂糖やみそ、酢、もち米も体温を上げる。
 逆に寒性食材とされるのは野菜ではキュウリ、セロリ、レンコンなど。肉類ではカモ肉やアサリ、シジミ、カニやタコなど。小麦やソバ、それにグレープフルーツなどの熱帯性果実も体温を下げる。
 体が冷え、疲れて帰ってきた家族は熱性食材で迎えるとよい。生野菜や冷えた果実より、温野菜を選ぶなどの工夫をするのだ。ただし熱性食材を食べすぎると、のぼせたり血圧が上がったりして熱がたまる。体調を考えながら食材を選ぶことが大切だ。
 冷え性の人は師走の時期、気分が落ち込んだり、だるさや眠気を感じるようになったりしがちだ。原因の一つはエネルギー不足。うまくエネルギーを取り入れるには熱性と寒性両方の食材を使って、お腹などを冷やさないことが大切だ。
 鍋は最適だが、それ以外にもたとえばワサビを含んだ鮨(すし)や、ネギ、ニンニク、ニラで作ったギョウザはバランスが良い。旬の食べ物を中心に、風邪のシーズンを乗り切りたい。
(平石クリニック院長 平石 貴久)
日本経済新聞 2008年12月20日朝刊

病を知る ワクチン(11)インフルエンザ
事前接種効果は7〜8割
重症化・合併症を防ぐ
 冬の始めから春先にかけて流行するインフルエンザ。最近では新型のインフルエンザウイルスによるパンデミック、いわゆる世界的な大流行も予想されている。国立病院機構東京病院の永井英明外来診療部長は「ワクチンを事前に接種することで、重症化や合併症を防ぐことができる」と言う。
 ――ワクチンを接種していたにもかかわらずインフルエンザにかかった、という声をよく聞きます。
 「かかると38度以上の高熱や筋肉痛、関節痛などの症状がみられます。主に、インフルエンザウイルスに感染している人のせきやくしゃみなどの飛沫(ひまつ)によってうつります。接触も感染の原因になります。
 「インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型があります。A型が最も大流行を起こしやすく、C型はあまり大きな流行を起こしません。A型もB型もいずれも小さな変異をするので、毎年ワクチンを作らねばならず、世界保険機構(WHO)の専門家会議がその年に流行するウイルスの型を予測し、ワクチンを作ります。ワクチンはA型株とB型株をそれぞれ鶏卵で培養し、増殖したウイルスを精製し不活性化した後に混合したものです。
 「ワクチン接種によってインフルエンザを完全に防ぐことはできません。ワクチンの発病阻止効果は7〜8割でしょう。しかし、重症化や肺炎、気管支炎などの合併症を起こして入院したり死亡したりするのを防ぐことは可能です。1997〜99年に厚生省(当時)の研究班が65歳以上の高齢者を対象に調査したところ、ワクチンを接種していると死亡者数が82%減ったことが判明しました。
 ――ワクチンはどういった人が接種対象でしょうか。
 「重症化や合併症のリスクのある人がまず対象になります。65歳以上の高齢者、呼吸器や心臓の疾患、糖尿病など慢性の病気を持っている人が該当します。年齢の低い乳幼児は発症数も多く、熱性けいれんや中耳炎、インフルエンザ脳症などを併発することもあるので、接種したほうがよいでしょう。一方、ワクチンを作る際に鶏卵を使いますから強い卵アレルギーのある人は注意が必要です。
 「副反応としては、接種したところが赤くなったりはれたりしますが、今は精製技術もよくなっていますので大きな副反応はないと言ってよいでしょう」
 ――高病原性鳥インフルエンザが人に感染死、それが別の人にうつってパンデミックを引き起こすことが恐れられています。
 「今のところ高病原性鳥インフルエンザは人から人へ容易に感染する状況ではありません。ただ、高病原性鳥インフルエンザウイルスが変異して人に感染しやすくなる可能性があります。人間はそれに対する抗体を持っていませんので、パンデミックになりかねません」
 「ベトナムやインドネシアなどで鶏から人へ感染した場合の死亡率は60%以上と高率です。ただ、パンデミックになると、1918年に流行したスペイン風邪並の2%ほどの死亡率と予測されています。それでも毎年のインフルエンザの死亡率は0.05%ですから新型の死亡率は高いといえます」  「ワクチンでパンデミックを防ぐには、実際に流行したウイルスを用いてワクチンを作らなければなりません。流行してからそれにあったワクチンを作り始めても6ヶ月以上かかります。今、人に感染している鳥インフルエンザウイルス株をもとに、プレパンデミックワクチンを作り、備蓄しておき初期の対応をとっているわけです」
東京病院外来診療部長 永井 英明氏
(聞き手は編集委員 中村雅美)
日本経済新聞 2008年12月9日夕刊


ぜんそくのもと「気道過敏症」
リンパ球の一種が原因
 理化学研究所は17日、アレルギー性ぜんそくの発作を起こすもとになる「気道過敏症」の発症の仕組みを動物実験で解明した、と発表した。アレルギー物質の吸引で生じるたんぱく質に、リンパ球の一種が反応し、気道収縮を引き起こすという。国内に約300万人いるアレルギー性ぜんそくの治療法開発につながると期待している。
 研究成果は17日つけの米科学誌に掲載された。
 ぜんそく患者の大半が様々な外部刺激に反応しやすく、気道が収縮する気道過敏症になっており、症状が続くと発作につながるとされる。ただ、その詳細な発症メカニズムは未解明だった。
理研は、リンパ球の一種「IL-17RB」という構造のたんぱく質を持つ細胞が、気道過敏症の原因になっていることを突き止めた。遺伝子操作でこのNKT細胞をなくしたマウスでは、アレルギー物質を投与しても気道収縮などの症状が起きなかった。
 体内にアレルギー物質が入ると特殊なたんぱく質分子ができ、IL-17RBと結合。その後、気道の炎症などを起こす細胞の働きが活性化するという。IL-17RBの働きを抑える物質の投与で発症を抑えられた。
 研究チームは人間の場合でも同様に気道過敏症を抑えられる可能性があるとみている。
日本経済新聞 2008年11月18日朝刊

健康気象学入門
秋の花粉症・・・・スギにも注意して
 花粉症というとスギ花粉による春の病気と考えがち。しかし、日本で初めてみつかった花粉症は秋のブタクサ花粉症で、1961年に学会報告がされている。それ以降、現在までに50種類以上の花粉症が明らかになっている。
 秋にはブタクサのほかヨモギ花粉症もみられる。地域によっても異なるが、9月から10月にかけて目や鼻のアレルギー症状が出たら、どちらかを疑った方がよい。
 ヨモギは春の草もちやおきゅうの材料にもなる植物で、昔から日本人には親しまれてきた。しかし、秋には背丈が1メートル近くに伸び、たくさんの小さな花から花粉を飛ばす。ブタクサは北米原産。戦後日本に帰化した植物で、同じ種の仲間にオオブタクサがある。
 ブタクサの仲間は飛行場周辺、手入れのされていない空き地、高速道路の斜面などに多い。ヨモギやブタクサはスギに比べれば背丈が低いので、数10キロメートルも花粉を飛散させることはない。したがって、花が咲かないうちに除草すれば花粉症を防げる。
 ヨモギやブタクサ花粉の飛散が終わる10月後半から11月にかけて、新たに花粉症になる人もいる。この場合の原因はスギ花粉である。スギは本来、春に花粉を飛ばすが、晩秋に少量の花粉を飛散する木がある。花粉を作るスギの雄花は7月ごろに成長を始め、10月ごろには完成して休眠に入る。そころが寝つきの悪い種類があるのか、毎年、他のスギが休眠に入る時期に花粉を飛ばすものがある。
 秋に観測されるスギの花粉は、東京都心では一平方センチメートルあたり数十個以内。ほとんどの人はちょっと鼻が変だと感じる程度で終わるが、花粉に敏感な人ははっきりと症状が出てしまう。
 秋のスギ花粉の数は、その年にできたスギの雄花の量に比例するため、秋のスギ花粉症患者の症状や花粉数から翌年春のスギ花粉が多いかどうか見通しを立てるころができる。秋のスギ花粉症で症状がでてしまう人は極めて花粉に敏感なので、春の本格的なシーズンに備えて最も早くから花粉症対策をとる必要がある。
(気象業務支援センター専任主任技師 村山 貢司)
日本経済新聞 2008年9月28日朝刊

健康気象学入門
ぜんそく、秋に多発・・・・発作の誘因重なる
 秋はぜんそくの季節である。発作は発作は季節を問わずに起きるが、特に9月後半から10月にかけて苦しむ人が非常に多い。筆者も小児ぜんそくの経験があり、秋に発作が多かったのを思い出す。
 ぜんそく患者は世界に約3億人いる。厚生労働省の調査によると、日本の患者数はおよそ230万人で、毎年3000人以上がぜんそくが原因で死亡している。
 ぜんそくはアレルギーや細菌の感染によって、気管支が慢性的な炎症を起こした状態である。花粉やハウスダストによるアレルギー、細菌やウイルス、たばこなどの刺激、アルコール、運動および過労、ストレス、気温の低下など様々な原因で起きる。
 これらが引き金となり、せきやぜんそくが突然、激しくなるのが発作である。秋にぜんそくの発作が多発するのは、アレルギー性のぜんそくが多くなるためである。
  今の季節、アレルギーの原因物質であるアレルゲンの多くはハウスダストに由来する。家のほこりやちりをイメージしがちだが、医学でいうハウスダストは目に見えない細かい粒子を指し、この中に多くのアレルゲンを含む。
 夏の間に家屋で繁殖したダニは、毎年気温の低下する9月末から活動が鈍り、死亡したダニの死骸のかけらがハウスダストになる。これを吸い込むことによってぜんそくの発作が多発する。
 気象も発作に大きく関係している。9月後半になると朝晩の気温が低くなる。短時間に気温が3度前後下る場合にぜんそくが多発することはよく知られている。
 さらに、「逆転層」が発生すると発作の頻度は2倍以上になる。逆転層とは、上空の気温より地上付近の気温が低くなることで、地上付近の大気汚染物質が上空に拡散しなくなる。つまり、この時期には気温の低下と大気汚染の悪化が同時に起きるのである。
 また、秋は天候の変化が速く、気温変動が大きくなる。特に雨の日は昼間の気温が朝より低くなる場合があり、体のリズムが崩れて発作につながることが多い。
(気象業務支援センター専任主任技師 村山 貢司)
日本経済新聞 2008年9月21日朝刊

健康気象学入門
台風と持病の関係・・・・症状悪化は限定的
 日本の気象で最も激しい現象は台風である。9月は8月と並んで台風が多く、しかも大型のものが日本に接近、上陸しやすい。よく、低気圧が近づくと、ぜんそくなどの持病が悪化するという人がいる。昔から、台風が近づいた場合でもぜんそくが悪化するといわれてきたが、調べてみると意外な結果になった。
 東京消防庁による救急搬送の10年分のデータを調べると、台風の通過時にぜんそくが悪化している事実はなかった。通過から三―四日たってから悪化している例はあったが、台風の強さや通過した位置と症状との間に関係は認められなかった。他の病気でも、関節痛やリウマチなどを除き、台風の通過によって明らかに悪化するという関係性は見えなかった。
 なぜ、台風では低気圧や寒冷前線の通過時のように持病が悪化しないのだろうか。それは、普通の低気圧の性質が、台風と違うからである。日本付近を通過する低気圧は「温帯低気圧」と呼ばれ、北側に冷たい空気、南側に暖かい空気を伴う。性質の異なる二つの空気の境目は前線になっている。これらが通過すると気温や湿度が大きく変化し、体調を崩す原因になる。
 一方、台風は暖かい空気だけでできた「熱帯低気圧」である。台風が近づくと気圧は急激に変化するものの、冷たい空気は伴わないので、気温や湿度の変化は小さい。気圧が影響するリウマチや関節痛は台風の接近で悪化することがあるが、気温や湿度が影響する病気の症状はあまり変わらないことがわかってきた。通過から何日かしてぜんそくが悪化することがあるのは、台風そのものではなく別の要因で空気が入れ替わったことなどによるものであろう。
 昔の台風情報は予測の精度が悪く、自分に住む地域への影響などがわかりにくかった。その不安感がストレスとなり、ぜんそく発作の原因にもなったようだ。現在はテレビやパソコンで台風の位置や、近くに来るかどうかが一目でわかるようになった。心理的なストレスが減り、持病の悪化が減少したのかもしれない。
(気象業務支援センター専任主任技師 村山 貢司)
日本経済新聞 2008年9月14日朝刊

患者の目
くすりのリスク知って
「スティーブン・ジョンソン症候群」患者会代表
湯浅 和恵氏

 スティーブン・ジョンソン症候群(SJS)をご存知だろうか。薬の副作用で皮膚の粘膜がやけどのように腫れてめくり上がり、目や内臓に後遺症を残す。重症化すると死に至ることもある。薬のほか、ウイルスや細菌によるものや原因不明のものもある。  私は歯学部を卒業して歯科医となり、薬剤師の夫も教育の現場にいる。しかし、1991年に発症したとき、私たちはSJSを知らなかった。現在も発症のメカニズムは解明されておらず、発症を防ぐことはできない。
 早期診断、早期治療が最も有効とされるが、医療機関で正しく診断されることはまだ少ない。風邪をひいて薬を飲んだ後に発症し、症状を改善させようと、さらに薬を飲んで悪化させる人がいる。発疹(ほっしん)を水ぼうそうやはしかなどと誤診されるケースもある。
 頻度こそ低いが薬でこうした副作用が起きることを、せめて医師や薬剤師は知ってほしい。最近では、薬を服用して発疹が出た患者をほかの疑いがあるにもかかわらずSJSと診断する例も少なくない。いずれにしても正しく理解されていないのである。  「くすり」は反対から読むと「りすく」。どんな薬にも効能がある半面、リスクもある。長い間リスク面は忘れられてきたが、近年ようやく様々な対策がとられるようになった。2年前、国は「医薬品による重篤副作用疾患別対応マニュアル」を作成して、ようやく対策に乗り出した。医療現場でどう活用されているかが大切だ。
 薬害スモンの解決を契機に医薬品副作用被害の救済制度が80年にできたが、医師の間にすら周知されておらず。患者の利用は必ずしも進んでいない。さらに、80年以前に発症した患者は人生が180度変わってしまったにもかかわらず、制度の対象になっていない。今年5月、患者会はこうした患者の救済などを求めて舛添要一厚生労働大臣に要望書を提出した。
 SJSは総合感冒薬のほか、抗生物質や解熱鎮痛剤など、ごく身近な薬で発症する恐れがある。薬を飲んだ後、高い熱とともに発疹が出たら、薬を持って総合病院の皮膚科を受診してほしい。
ゆあさ・かずえ 1978年、鶴見大学歯学部を卒業。勤務医を経て84年都内で歯科医院を開業。91年SJSよりさらに重いTEN(中毒性表皮壊死症)を発症。93年視力障害となったため医院を廃業。2003年から現職。
日本経済新聞 2008年8月17日朝刊


健康気象学入門
梅雨時のカビ・ダニ 換気・掃除こまめに
 梅雨時はカビやダニが増加する季節である。年齢別にアレルギーを持つ人の比率を調べると、乳幼児から小学生まではアトピー性皮膚炎が最も多く、次いで気管支ぜんそくとなっている。多くの日本人が最初にかかるアレルギーがアトピーで、その原因の多くがハウスダストと呼ばれる家庭内のほこりである。
 中学生以上では花粉症の人の比率がアトピーやぜんそくより高くなる。実は、一度何かの原因でアレルギーになると、花粉など他の物質でもアレルギーを起こしやすくなる。つまり、乳幼児の時にハウスダストによるアトピーを予防することが、その後の花粉症予防にもつながる可能性が高い。
 いわゆるハウスダストにはダニやカビの他にペットや人間のフケも含まれるが、アレルギーの主な原因はその中のダニのふんや死骸だ。ハウスダストによるアレルギーはダニアレルギーと言っても過言ではない。ダニは世界に2万種類以上いる。日本でアレルギーの原因になるのはほとんどがチリダニの仲間のカナヒョウダニとヤケヒョウダニで、室内の様々な場所に生息する。
 ダニは気温が20度以上、湿度が50%以上になると発育が活発になり、特に気温が25度以上、湿度が60〜80%の環境で盛んに繁殖する。東京の場合、一日の平均気温が20度を超えるのは6〜9月だ。この期間は湿度も70%を超え、ダニの繁殖に最も適した気象条件になる。
 ダニを減らすには繁殖に適さない環境をつくることである。一番大事なのは湿度を60%以下にすることで、晴れた日には窓を全開にして室内を乾燥させる。エアコンで室温を下げると湿度は高くなってしまうので、除湿器を併用するのが効果的だ。  もう一つは清掃。室内にホコリをためないこと、布団やカーペットにはゆっくりと何度も掃除機をかけることである。ダニのアレルギーの元になる物質は水によく溶ける。ぬいぐるみや毛布など水洗いできるものは洗濯し、その後十分に乾燥させるのがよいだろう。
(気象業務支援センター専任主任技師 村山 貢司)
日本経済新聞 2008年6月15日朝刊

風邪治ったのに…ゴホゴホ
せきぜんそく 早めに治療
気管支ぜんそく移行のリスクも
風邪が治って何週間もたつのに、なぜか、せきだけがなかなか治らない―。そんな人は「せきぜんそく」を疑ったほうがよいかもしれない。時には厄介な気管支ぜんそくになることもあり、早めに治療をしたい。
 都内在住の会社員Aさん(40)は、昨年11月に風邪をひいた。のどの痛みや熱はすぐになくなったが、せきだけが取れない。むしろ日増しにひどくなっていき、せきの勢いで吐いてしまうようになった。いったんせきが出だすと止まらず、明け方に何度も目を覚ます。ひどい寝不足になって、1月初めにクリニックに駆け込んだ。
 診断は「せきぜんそくの疑い」。吸入薬などぜんそくの治療を受けたところ、2ヶ月近く続いていたせきが1週間で軽減。3週間でぴたりと治まった。
 治療した中田クリニック(東京・千代田)の呼吸器専門医、中田紘一郎院長は「風邪は普通、三日もすれば治っていく。空せきが何週間も続くのなら、せきぜんそくの可能性がある」と話す。
 せきぜんそくはAさんのように風邪をきっかけに発症するケースが多い。風邪が治った後も、たんがまったく出ないか、黄色くない透明なたんしか出ない空せきが、3―4週間、時には数ヶ月も続く。就寝時や明け方にひどくなることが多い。会話や急な気温の変化、線香やたばこなどをきっかけにせき込んでしまう。感染症ではないので、人にはうつらない。

ステロイド吸入
 せきぜんそくは通常のせき止めは効かない。ぜんそくと同じように気道に炎症が起きているため、これを抑えるステロイド薬の吸入と、気管支拡張薬の吸入や内服が治療の基本となる。抗ヒスタミン剤もしばしば用いられる。症状がひどくなると、1週間ほどステロイドの飲み薬を併用することもある。
 原因ははっきり分かっていないが、多くはアレルギー性と考えられている。ハウスダストやダニなど、アレルギー検査によって、せきを引き起こす抗原がわかったら、寝具などにていねいに掃除機をかけると症状が改善する。
 呼吸時に「ヒューヒュー」という音がしたり息苦しくなったりしない点が気管支ぜんそくと違う。ただ、せきぜんそく患者の1―3割が1、2年で気管支ぜんそくに移行するとみられている。
 昭和大学の足立満教授は「早期にステロイド吸入を開始すれば、気管支ぜんそくになるりすくをある程度抑えられる」と説明する。
 治療を開始すれば数週間でせきがおさまり、薬もやめられる。ただ、風邪や季節の変わり目をきっかけに再発することも多い。  あまり頻繁に再発を繰り返すような場合は、吸入の継続で発症を抑えることは可能。ステロイドには「副作用が怖い」というイメージがあるが、吸入タイプは血中に入らないので副作用はほとんどない。

専門医の診断を
 足立教授自身もせきぜんそくの患者だ。学会の司会をしている最中にせきが止まらなくなり、往生した経験から「今は普段から毎晩ステロイドを吸入して症状を抑えています」という。
 せきぜんそくが認識されるようになったのは、比較的最近だ。どの医師でも病気を熟知しているわけではない。「せきぜんそくかも…」と思ったら、呼吸器やアレルギーの専門医に診てもらうのがよいだろう。各地域の専門医は、日本呼吸器学会や日本アレルギー学会のホームページで調べることができる。
日本経済新聞 2008年3月4日夕刊

インフルエンザ、月内にも全国的流行か
記録的な早さに
 インフルエンザの患者報告数が急増し、今月中にも全国的流行が始まる可能性が高いことが27日、国立感染症研究所のまとめで分かった。
 流行が始まれば、1987年以降で最も早い開始となるという。
 全国約4700の定点医療機関一ヶ所当たりの報告数が、一週間で全国平均1.0人を超えると全国的な流行開始とされる。
 感染研によると、今月18日までの一週間は0.94人(前週は0.50人)で、次週の報告で1.0人を超える可能性が高い。
 18日までの一週間の報告数は4415人。都道府県別の定点当たりの報告は、急激な増加が続く北海道が8.1人と最多で、沖縄3.1人、神奈川1.8人、和歌山1.7人と続く。
 厚生労働省によると、10月28日から今月17日までに休校や学級閉鎖をした保育園、幼稚園、小学校、中学校は計220施設。17日までの一週間だけで139施設に上がる。
日本経済新聞 2007年11月27日夕刊

検査値ここに注目
▼インフルエンザ検査
●Q● 68歳の男性です。昨冬、インフルエンザにかかり苦しみました。今年はかからないようにしたいのですが、インフルエンザは早期に診断できますか。
●A● インフルエンザはインフルエンザウイルスが呼吸器粘膜などに感染して発症します。とくに冬期に多く、高齢者や小児では重症になることもあります。インフルエンザでもっとも大切なのは、ふだんからよく手を洗ったり、インフルエンザワクチンを早めに打っておくなど、予防することです。
 インフルエンザウイルスに感染した場合には、安静にして、抗ウイルス薬を服用するようにします。
 インフルエンザの初期には、ほかのウイルスや細菌による風邪としばしば区別のつきにくいことがあああります。鼻水やくしゃみだけでなく、高熱が出て、筋肉痛があれば普通の風邪よりもインフルエンザが疑われます。
 インフルエンザは風邪と治療法が異なり、また、ほかの人への感染を防ぐようにしなければなりません。早期に正しく診断することが大事です。
 早期に確実に診断するには、綿棒で鼻粘膜をこすり、鼻の粘膜にインフルエンザウイルスがついていないかを調べます。インフルエンザにかかったかなと思ったときには、早めに病院で検査を受け、適切な治療を受けるようにしてください。
(東京医科歯科大学大学院教授 奈良 信雄)
日本経済新聞 2007年11月13日夕刊

母が喫煙→子はメタボ
医師ら調査・ニコチンの影響大
 母親が喫煙する子どもは体内のニコチン分解物質の値が非常に高く、将来メタボリック症候群(内蔵脂肪症候群)になる恐れもあることが、埼玉県熊谷市の医師らが小学四年生を対象に行った調査研究で分かった。ニコチンの影響は、父親が喫煙者の場合の4.5倍に上がっていた。
 調査は、井埜利博群馬パース大客員教授らのグループが実施。小児生活習慣病検診の際、希望者に対し両親の喫煙アンケートと、ニコチンが分解されてできる「ニコチン」の尿中値の測定を行い、2002年から06年までの計1048人分を分析した。
 母親が喫煙者だった子どもは、尿中ニコチン値が両親とも吸わない子の10.5倍に上り、父親が喫煙者の場合と比べても4.5倍高かった。
 一方、尿中ニコチン値が高いほど、動脈硬化を抑制する「善玉コレステロール」の値は低かった。また、肥満や高血圧などメタボリック症候群の予備軍と考えられる子の尿中ニコチン値は、そうでない子の約3倍だった。
 こうした結果を受け、熊谷市は今月から、小学四年の希望者を対象に、公費負担で両親の喫煙アンケートと尿中ニコチン測定による「受動喫煙検診」を実施する。 日本経済新聞 2007年10月20日夕刊

検査値ここに注目
▼呼吸機能検査
●Q● 70歳の男性です。この50年間、毎日たばこ一箱吸っています。約半年前からせきとたんが続くので内科を受信すると、肺がんではないが、呼吸機能検査を受けるように指示されました。これはどのような検査ですか。
●A● たばこの健康被害としては肺がんが有名です。しかし、肺がんのほかにも慢性気管支炎や肺気腫などの肺疾患、動脈硬化症など、いろいろな病気の発症に関係しています。喫煙者本人だけでなく、周囲の人にも迷惑をかけることになります。
 慢性気管支炎や肺気腫などの肺疾患になると、空気を思いっきり吸った後、勢いよく吐き出せなくなってきます。このような状態を慢性閉塞(へいそく)性肺疾患と総称します。
 主な呼吸機能検査に、肺活量と一秒率があります。
 肺活量は、思いっきり空気を吸った後で思いっきり吐き出し、全体の呼吸できる容量を測定します。肺線維症などでこの値は低下します。
 一秒率は、空気を思いっきり吐き出すうち、最初の一秒間に出す容量を肺活量で割り算したものです。慢性閉塞性肺疾患で低下するのが特徴です。
 質問の男性は、おそらく慢性閉塞性肺疾患が疑われるため、呼吸機能検査を受けるように指示されたものと思います。とにかく禁煙を励行してください。
(東京医科歯科大学大学院教授 奈良 信雄)
日本経済新聞 2007年7月24日夕刊

検査値ここに注目
▼麻疹ウイルス
●Q● 25歳の男性会社員です。大学などではしか(麻疹、ましん)が流行しているようですが、ワクチンを受けた方がよいかどうかを見きわめる目安はありますか。

●A● 麻疹は麻疹ウイルスによって発病する感染症で、感染後10〜12日の潜伏期間を経て、発熱、せき、鼻水、結膜炎などの症状が出ます。
 いったん熱が下るのですが、3〜4日して再び高熱が出て全身に発疹(ほっしん)がでます。通常はその後に解熱して治りますが、肺炎や脳炎などの合併症を併発することもあります。
 風疹に比べて麻疹ウイルスの感染力は強く空気感染します。万が一発病した場合には、自宅で安静にすることが重要です。
 麻疹ウイルスも、体に入ると抗体が作られてウイルスが除去されます。一度感染した人では、ほぼ生涯にわたって抗体が残るので、この抗体を検査すれば、ウイルスにかかったことがあるかどうか判断できます。  小児期にワクチンを受けた人でも抗体は作られます。ただ、作られる量には個人差があります。ワクチンを受けた人でも感染する可能性がないとは言えません。
 麻疹にかかったことがあるかどうか不明な人は、抗体検査を受けて、体に十分な抗体があるかどうか調べておくとよいでしょう。
(東京医科歯科大学大学院教授 奈良 信雄)
日本経済新聞 2007年6月5日夕刊

体のシグナル
インフルエンザのなぞ
気道粘膜の酵素利用し侵入

 ウイルスは細胞に侵入して初めてその病原性を発揮する。インフルエンザウイルスも例外ではない。  インフルエンザウイルスは細胞に侵入するためのかぎ(フック)のような装置を持っている。平素は覆いかぶされた状態で存在し、狙った細胞に近づくと覆いを外し細胞にフックを掛け取り付く。カリブの海賊船が獲物の船にフックを掛けて船をたぐり寄せ海賊が侵入してくるよようなものだ。
 フックを持つウイルスは普通、覆いを外す装置(たんぱく分解酵素)を自前で持つが、インフルエンザウイルスにはない。これでは狙った細胞に侵入できない。彼らはどのように覆いを外すのか。
 この謎を解明したのが徳島大学の木戸博教授のグループ。インフルエンザウイルスは、人の気道粘膜にあるトリプターゼクララやトリプシンという酵素を利用しフックの覆いを外し、細胞に侵入する。ウイルスではなく狙った細胞自身が持つ酵素を利用するので、タイミングを間違うことはない。狡猾(こうかつ)で効率の良い方策である。
 近代微生物の開祖パスツールは、感染症は病原体の存在のみが重要ではなく、人や環境との関係にこそ感染症発生のメカニズムがあると考えた。インフルエンザ発症のメカニズムもパスツールの洞察の正しさを裏付けた格好だ。
 手洗いやうがいの励行は、ウイルスが細胞に侵入する前に洗い流す作戦。基本的でかつとても有効な感染の予防法だ。
(東京医科大学教授 行岡 哲男)
日本経済新聞 2007年3月20日夕刊

●以前のデータはこちらをご覧ください●