◆喘息・最近の話題◆
御堂筋アズマネットワークの
活動と喘息患者教育の実際

このHPは「International Review of Asthma Vol.10 / No.4 / 2008」
に掲載されたものを再編集したものです。


 NPO法人御堂筋アズマネットワークは,大阪のメインストリート御堂筋,心斎橋にある宮武内科に通院する気管支喘息の患者が運営する患者会である.発足から12年目となる現在も,活発な活動を続けている.今回は,発足時から会長および理事長を務める上嶋幹子さん,事務局長の高峯秀樹さん,理事の大和健さん,特別顧問医師である宮武明彦先生,顧問医師の藤田きみゑ先生にお集まりいただき,会の活動内容や患者指導の実際を伺った.


NPO法人御堂筋アズマネットワークとは
医療法人宮武内科院長の宮武明彦氏を特別顧問医師とし,勉強会や会報などを通じ,親睦と啓発を目的に活動している気管支喘息の患者団体.1997年3月に発足,2000年10月から特定非営利活動法人(NPO法人)となった.2008年2月時点の会員数は125名.総会や勉強会の開催,会報の発行のほか,定例懇談会や医師同行のバスツアーなども行っている.


宮武明彦
特定非営利活動法人御堂筋アズマネットワーク特別顧問医師/医療法人宮武内科院長



■御堂筋アズマネットワークの活動目的

 ―まず御堂筋アズマネットワークの活動目的についてお聞かせください.

高峯
 会の主な目的は,親睦と啓発です.専門医のご支援のもと,気管支喘息やアレルギーなどの疾病について正しい管理と治療を学び,会員同士が助け合い,励ましあって,医療または福祉の増進を図ること,また広く喘息で苦しんでいる人達に喘息治療についての情報を提供することを会設立の主旨としています.

 ―設立のきっかけはどのようなものだったのでしょうか.

宮武
 開院時より宮武内科勉強会を定期的に開催していましたが,患者さんから喘息患者会の設立を希望する声が上がりました.当初,私は患者会の意義について十分理解できていなかったため設立を躊躇していたのですが,1996年9月に大阪で開催された「第4回喘息デー」に参加するなど,いくつかの患者会のあり方を拝見することで,改めて患者会の重要性を感じました.会の名前は,医院がある場所の御堂筋,喘息のasthma(アズマ)と,そして医師と患者のネットワークをあわせ「御堂筋アズマネットワーク」(MAN)としました.

高峯
 設立にあたっては,世話人会を設けて何回も集まって議論し,半年ほどかけて準備をしました.すでに患者会として活動していた「和歌山ぜんそく友の会」への見学やご相談もさせていただき,その中で患者会の運営はあまり無理をせずに“ボチボチ”いった方がいいとの助言をいただきました.最初にその言葉を伺ったおかげで,これまで続けることができたのだと思います.

    

上嶋
 第1回患者会と設立総会を1997年3月1日に開催しました.当日の入会希望者は85人,今では会員数は120名を超えています.私達会員のほとんどは,長い間,気管支喘息のつらい発作に苦しみ,日常生活でさまざまな制約を受けて参りました.会員のほとんどは中等症や重症の喘息でしたが,宮武内科を受診してから元気になり,ボランティア活動ができるほど日常生活が豊かになったのです.

■継続して勉強会に参加するため,患者さんは知識が豊富

 ―現在の活動状況についてお聞かせください.

大和
 総会と勉強会を年に2回開催し,会報を年に2回発行しています.最近では,2008年4月に第36回勉強会を開催しました.プログラムは,再生医療総論,心臓外科医に残された課題,最後に,心臓病に対する再生医療の応用といったもので,喘息にこだわらず幅広くテーマを選定しています.今回の参加者は168名でした.毎回,日本のみならず海外でも有名な先生方の講演を聞く機会を与えて下さる宮武先生のご尽力に感謝しています(表).

上嶋
 私は第1回から一度も欠席せずに勉強会に参加しております.その中でも,昨年,2007年11月のMAN設立10周年記念行事である講演会が大変印象に残っています.講演会には239名,その後の記念のパーティーにも80余名もの方々にご参加いただきました.

 ―10周年記念講演会では,宮武先生の「喘息の歴史について」,その後,東京大学医科学研究所中村祐輔教授の「オーダーメイド医療の実現に向けて」という特別講演があったのですね.「気管支喘息治療の歴史」の講演はどのようなものだったのでしょうか.

宮武
 「Asthma」という用語自体は紀元前450年にギリシャのヒポクラテスによって始めて使われました.東洋では,紀元前200年の中国において喘息の概念が確立されていたようです.一方,喘息の治療そのものは,それをはるかにさかのぼり,紀元前2000年のインドにおいてチョウセンアサガオの気管支拡張作用を利用した吸入療法が行われていたとの記載があります.
 わが国では平安時代の帰化人 丹波康頼によって中国医書の引用書「医心方」(984年)が著され,喘息は発作的に気道が腫脹して呼吸困難をきたす病気であることを示したのが始まりのようですが,このときすでにエフェドリン作用のある麻黄が使用されています.  19世紀以降になってようやく現在使用されている気管支拡張薬やテオフィリンが登場します.また,吸入ステロイド薬(ICS)が開発されたのは1970年代であり,1972年に英国のグラクソ社が世界に先駆けて開発したのが始まりです.ICSが喘息治療の基本薬になったのは気管支喘息の疾患概念が気道の慢性炎症性疾患と定義されたここ20年足らずのことです.
 気管支喘息治療を中心とした約4000年の歴史を振り返りますと,医学は医学以外の科学の理念や技術の進歩と歩みを同じくして進歩しているということがわかります.例えば,1979年のレントゲンとコンピュータの合体によるCTの開発,さらに1980年代のMRI(磁気共鳴映像法)の普及などによって診断技術が飛躍的な進歩を遂げたことです.直近では,2003年4月にヒトゲノムの全遺伝子情報が解明され,医学は遺伝子解析を用いたオーダーメイド医療の実現に向かっているといった要旨でお話しをいたしました.

上嶋
 毎回難しいテーマではありますが,先生方は非常にわかりやすく楽しくお話をして下さいますので,いつも自然と引き込まれてしまいます.ちなみに,宮武先生のご講演は会報誌ならびにMANのホームページにも掲載しています.

 ―昨年の会報は「10周年記念号」となったのですね.会報には毎号どのようなことが掲載されているのでしょうか.

藤田
 会報には毎号,患者さんの経験談や闘病記,各理事や監事さんのコラム,そして宮武先生には患者さんが関心をもつような内容の記事を書いてもらっています(写真1).

会は親睦と啓発を目的としていますので,その一環として,参考になる本を出してほしいとのご要望が以前よりあり,2008年3月,やっと作ることができました(タイトルは「ぜんそくはここまで治る!」藤田きみゑ著,宮武明彦監修).これは,当院でのこれまでの喘息に関する研究結果や勉強会の内容を網羅したものですが,患者さんのための啓発本とは言いながら難易度の高いものになっています(写真2).

宮武
 そうですね.患者さんは継続して勉強会などに参加されているので,知識が非常に豊富です.皆さん,勉強熱心ですので,一般的な患者向けの本では物足りないと思い,かなり詳しい内容にしました.

藤田
 喘息の治療管理を成功させるためには,患者さんをメンバーとしたチームを作る必要があると言われています.ですから,御堂筋アズマネットワークは宮武内科での間接的情報提供源としての機能も大きく担っていると感じています.

 ―会報を拝見したところ,楽しそうな集合写真がありましたが.

大和
 実は患者会では,親睦を図るためのバスツアーや新年会,カラオケ大会も行っています.写真は,宮武先生と藤田先生にご同行いただいたバスツアーのものです(写真3).

2000年から始まり,現在までに6回開催しました.私を含め参加者がみな喘息患者であるという不安も,先生方にご同行頂くことで不安が消え,何のトラブルもなく実施してきています.

藤田
 2000年に淡路島の花博に行ったバスツアーは印象的でしたね.在宅酸素療法を行っている患者さんを,会員の方々が交代で車椅子を押しながら見学をしました.皆さん,自分ひとりでは出かけられないところにバスで行けたと喜んで下さいました.

宮武
 韓国のソウルやタイのチェンマイにも皆さんと行きましたね.それぞれ10名程度が参加され,ソウルでは韓国テレビドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」の料理指導を担当した方が経営するレストランに行ったり,民族衣装を着たりしました.

上嶋
 私は70歳を過ぎて初めてパスポートを作ったのですが,長年,一度も使うチャンスがなくて,そのとき初めて役に立って本当によい思い出になっています.

 ―その他に,患者会で行われている活動はありますか?

大和
 先生方に,治療に関する疑問などを直接お話しする機会を設けてほしいとお願いいたしまして,宮武先生を中心に定例懇談会を2ヵ月に1回開催しています.

藤田
 他に,患者の治療内容や注意事項などを記載した緊急時対応のためのアズマカードも発行しています.

宮武
 アズマカードの具体的な内容は,患者さん本人の喘息重症度,薬剤アレルギーと鎮痛解熱剤喘息の有無,合併症の種類および現在の治療内容,さらに各患者さん個々の発作時の緊急処置についても記載してあります.最終的にはすべての受診患者さんへ作成したいのですが,時間的制約から,現状では患者会会員に限らせていただいています.

■吸入指導を繰り返し行うことで
 患者さんのアドヒアランスも向上

 ―患者会を通して,患者さんはかなり勉強をされているわけですが,普段の診療ではどのような指導をされているのでしょうか.

宮武
 治療にあたっては特に吸入指導に力を入れています.喘息と診断のついた方が初診で来られても,すぐに薬を出すのではなく,まず十分に問診をし,呼吸機能やアレルゲンプリックテストなどの検査をし,それを踏まえて病因論から治療法まで,喘息にかかわるすべてを40分ほどかけて説明しています.その後,看護師がICSや吸入β2刺激薬使用頻度の確認,吸入器具の使用法,さらにピークフロー(最大呼気流速度;PEF)メーターの使い方など,これも30分以上かけて説明します.

 ―初診に2時間近くかけていらっしゃるようですね.

宮武
 2回目に来られたときは,吸入器具を正しく使用し,使い方を本当に習得しているか,吸入指示回数が守られているかを看護師が確認します.その後も,調子の悪い患者さんには,抜き打ち的に看護師による吸入アドヒアランスの確認と指導を行います.指導が厳しいので,患者さんは結構大変だと思いますね.
 PEFモニタリングの実施率がおよそ40%と高いのも当院の特徴です.10年以上継続している方が多く,大和さんもPEF値は長年フラットで安定していますが,続けて下さっています.また,インチェックを使用してフルチカゾンプロピオン酸エステル(FP)の吸入気流量が正確かどうかをときどきチェックします.病歴が長い方ほど慣れがきてしまい,正確に吸入していない可能性があるためです.

藤田
 吸入指導は繰り返し行うことが大切で,それによって患者さんのアドヒアランスも高くなってきます.

 ―治療の効果はどのようなときに一番実感されますか?

上嶋
 宮武内科に通院するようになって30年以上が経ちます.当時は苦しくて10メートルも歩けませんでした.外出もままならず,デパートに行くことができたときは本当に嬉しかったことを覚えています.

宮武
 上嶋会長が発病された30年以上前は,ステロイド薬は主に内服と注射だけで,効果のあるICSなどの治療薬がなかったのです.当時の喘息死は全国で毎年約10,000人,90年代で6,000人,96年以降,喘息死は減少し,現在は,年間3,000人を切るところまで下がって来ました.これはICS薬の普及によるところが大きいのです.

  

大和
 私も30年前に宮武内科を初めて受診したときは,重症度でいえばステップ4(重症持続性)でした.現在ではステップ2(軽症持続性)になっています.ステップ2になってから10年経ちますが,ICSのFPも夜1回だけで済んでいます.今は月に1回診察を受けている程度で,受診している患者さんの中でも一番元気なのではないかと自負しています.

宮武
 大和さんの場合は禁煙に成功してからずっと調子がいいですね.以前,当院でアンケート調査を行ったところ,喘息患者さん517名のうち,喫煙者が24%,過去に喫煙暦のある方が27%でした.そこで藤田先生と協力して徹底した禁煙指導を行ってきました.その成果を検討するために,禁煙指導に承諾された喘息患者53名について追跡調査を実施いたしましたが,その結果,1年後に男性の禁煙率が32%,女性が31%,節煙率は53%となり,3年以上の禁煙成功率は24%でした.禁煙指導についても,看護師と協働し,繰り返し患者さんを指導することが大切だと実感しています.

■今後の専門医の治療対象は難治例が中心に

 ―最後に,会として今後の課題や展望について,どのようにお考えですか.

宮武
 かつて気管支喘息は入院が必要な病気でしたが,今では外来での管理が可能な病気になりました.喘息死の減少で表されているように,圧倒的によくなった方が多くなっていますので,患者さんの病気への意識は大きく変わってきています.ですから,これからの10年は,専門医が診なくても,一般医で8割の患者さんは治せる病気になるだろうと考えています.専門医の仕事は,難治性の喘息患者の治療が主になるでしょう.

藤田
 FP吸入薬のようなよい薬が出てきて,喘息症状がコントロールしやすくなってきています.このため喘息は難治の病気という概念が薄くなり,私たちの会だけでなく,全国的に患者会の方たちの感覚も変わってくるだろうと思います.

宮武
 FPのようなICSを開始すれば,症状がすぐに改善してしまうので,特に若い人たちは患者会に入ろうというモチベーションが低くなるかもしれません.患者会の意義づけや必要性が変化しつつある今,患者会にも新しい時代が近づいていると感じています.

上嶋
 これからは,単に会員同士の親睦にとどまらず,私たち会員以外の,まだ喘息で苦しんでおられる数多くの方々に対して,喘息を経験した者にしかわからない適切な助言と手助けを行い社会に貢献させていただきたいと思います.

 ―皆様,お忙しい中誠にありがとうございました.