閉経後のBDP吸入気管支喘息患者における
骨塩量の検討

アレルギー・免疫(1999年12月号)別冊より

藤田 きみゑ 滋賀県立大学看護短期大学部教授
宮武 明彦  医療法人宮武内科院長

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はじめに
気管支喘息は気道の好酸球性炎症であり、この炎症軽減のためにglucocorticoid投与は必須である。しかし、glucocorticoidを継続的に全身投与されている喘息患者の骨塩量が低下することは周知の事実であり、このことがglucocorticoidが最も喘息治療に有効な薬剤であるにもかかわらず、喘息患者に対して出来得る限り全身投与を控える一因となっている。1995年にNHLBI/WHO GINAおよびJapanese Guidelinesの指針が発表されて以来、glucocorticoid吸入が慢性気管支喘息治療の根幹とされ、近年、高容量beclomethasone dipropionate(BDP)吸入療法は、欧米および日本における多くの医療機関で広く用いられるようになった。このことより、成人BDP吸入患者の骨塩量への影響に対する研究も多数報告されたが、これら結果の多くは、BDP吸入療法は骨塩量に影響を与えないというものであった。しかし、これまでの研究の殆どは男女を一緒に取り扱って検討されたり、あるいは年齢構成別に検討されておらず、特に、閉経直後より顕著に骨粗鬆症を発症しやすい女性患者に対する検討、即ち生理の有無については一切考慮されていないため、閉経後女性の骨塩量2対するBDP吸入法の影響の有無については定かではない。そこで筆者らは研究対象となる患者群および対照群を以下のように厳密に限定した。

-1- 厳選された患者群及び対照群
1. 患者群
1)1年以上BDP吸入療法が実施されている女性喘息患者。
2)1年以上全身的glucocorticoid剤投与が行われていない女性喘息患者。
3)Bone Mineral Density(BMD)測定に際し、加齢現象による骨への影響除外のために対象年齢を40〜50歳台に限定。
4)現在および過去にホルモン補充療法を実施されたもの、内分泌代謝疾患、腎疾患、骨変性疾患を合併する者は除外。
5)BDP800μg/day以上の吸入量を高容量群、それ以下を低容量群として分類。
医療法人宮武内科に通院中の1,451名の喘息患者の内、1)から4)迄の条件全てに合致する女性患者は、全体の2.5%に当たる36名であり、その内訳は閉経前女性患者17名(低容量14名、高容量6名)、閉経後の女性患者19名(低容量14名、高容量5名)であった。
2. 対照群
次の対照群を上記の3)4)に加え、以下のように選定した。
1)病気の無い健康な40〜50歳代の女性(閉経前・閉経後)。
2)健康対照群の年齢構成をできるだけ患者群と一致させること。
この4つの条件全てに合致した健康ボランティアは、閉経前女性24名、閉経後女性22名であった。

-2- 方法
以上の患者群および対照群に対して骨塩量(BMD)測定をDEXA法(Hologic QDR-2000)にて行った。また、骨形成マーカーとして血中Intact Osteocalcin(BGP)、骨吸収マーカーとして尿中Free Deoxypyridinoline(F-DPD)の測定を行い、各々の結果を、図1〜3として表した。また、この対照群と患者群の年齢、閉経年齢、骨粗鬆症と関連があるとされる閉経後年数、Body mass index(BMI)、気管支喘息罹病期間(yr)、BDP吸入量(μg/day)、との比較検討を行い表1に表した。表1より閉経前対照群、閉経前低容量および高容量群の三群間での平均年齢、BMI、罹患期間、ともに有意差を認めない。また、閉経後対照群、閉経後低容量および高容量群の三群間でも平均年齢、閉経年齢、閉経後年数、BMI、喘息罹病期間のいずれにも有意差を認めず、閉経前・閉経後群、いずれにおいても比較対照結果が近似していることが理解される(表1)。



-3- 閉経前群における結果
BMD測定結果より、閉経前対照群と閉経前低容量群・高容量群、三群間では差異を認めない(図1)。また、血中BGP結果および尿中F-DPD結果のいずれにおいても、閉経前対照群と閉経前高容量群・低容量群の三群の比較で全く変化を認めない(図2、3)。







-4- 閉経後群における結果
閉経後群におけるBMD測定結果の比較検討では、低容量群・高容量群は対照群に対して、容量依存的にBMDの有意な減少を認めた(図1)。また、BGP結果については、閉経後対照群は閉経前対照群と比較して有意に増加を示し、さらに、閉経後低容量群および閉経後高容量群は閉経後対照群より低値を示した(図2)。一方、F-DPDの結果でも閉経後対照群は閉経前対照群との比較での有意の増加を認め、閉経後高容量群は閉経後対照群と比較して有意に高値を示した(図3)。

-5- Estrogenの重要性
今回、骨塩量の検討で、閉経前においてはBDP吸入喘息患者の骨塩量は対照群と比較して変化を認めなかったが、閉経後のBDP吸入患者の骨塩量は容量依存的に有意に低下した。一方、骨代謝マーカーであるBGPとF-DPDにおける閉経前対照群と閉経後対照群との比較では、閉経後で有意にその濃度の上昇を認められた。この結果は、正常女性においては、閉経後早期に骨代謝回転が亢進していることを示している。さらに閉経前BGPおよびF-DPD値は、三群間で変動を認めなかったが、閉経後における、BGP値は、対照群に比較して低容量喘息群で有意に低下し、また、高容量喘息群においても低下傾向を認めた。重ねて、閉経後におけるF-DPD値は対照群に比較して高容量喘息群で有意に増加した。この事より、閉経後早期のBDP吸入喘息患者において骨塩量の容量依存的低下および骨形成低下と骨吸収亢進が認められるのは、BDP吸入療法の副作用と考えられた。
Toogoodらは1)、ホルモン補充療法を受けている喘息患者は、吸入療法による骨塩量の低下を認めないことを報告しているが、今回の結果においても、閉経前低容量・高容量群で吸入BDP療法に対して骨塩量、骨代謝マーカーのいずれにおいても変動が無く、閉経後群のみに骨塩量、骨代謝に対する影響が認められたことにより、閉経前喘息患者においては、内因性estrogenのBDP吸入療法に対する防御効果が示唆された。これら結果を踏まえて、閉経後女性患者に対してBDP吸入療法を行う場合には、骨塩量に対する影響を考慮すべきであり、同時に骨粗鬆症に対する対策が必要であると考えられた。

文献
1)Toogood JH, Baskerville JC, Markov AE, et al. : Bone mineral density and risk of fracture in patients receiving long-term inhaled steroid therapy for asthma. J Allergy Clin Immunol 96 : 157-166, 1995