MAN会報
韓国テレビドラマ「冬のソナタ」が
日本社会に与えた衝撃


当会 特別顧問理事 宮武 明彦

 私が韓国ドラマ「冬のソナタ」を見るようになったきっかけは、私の診療所へ通院している女性患者さん達の勧めが余りにも大きかったためである。患者さん達が夢中になったと口々に話すこのドラマの人気の秘密が知りたくて、私も定期的にこの「冬のソナタ」や他の韓国ドラマを見るようになった。
 「冬のソナタ」を見て、チュンサン役の主演男優ペ・ヨンジュンは背が高い好青年であるのみならず、全身から溢れ出る男の優しさが、日本女性、とくに中高年層の人達に新鮮な衝撃を与えたのだということが直ぐに理解出来た。また、ユジン役の主演女優チェ・ジウの、日本の女優ではめっきり見られなくなった清潔で清楚な役柄が、私達、中年日本男性の心を掴んだことは疑う余地がなかった。さらに、ドラマの後ろで流されるメロディーが、映像とうまく調和してこのドラマを一層盛り上げている。歌手リュウの熱唱する主題曲「最初から今まで」は切なく私達に訴えかける。このドラマでは随所に泣かし所が散りばめてあり、視聴者は物語が進むにつれて、まるで自分が物語の主人公か、その関係者のような錯覚に陥ってしまう。そして、制作・演出を手がけたユン・ソクホ監督のカメラ・ワークは、ドキュメンタリー・タッチの撮影を随所に用いて、美しい映像を作るための可能な限りの工夫がなされていることが見て取れた。
 「冬のソナタ」をはじめとして、「オールイン」、「美しき日々」、「秘密」等、どの韓国ドラマについてもまず感じることは、役者同士の会話『台詞』がが少ないことである。例えば、「冬のソナタ」のユジン役のチェ・ジウは、涙をながしているか黙っているかのシーンが長く、日本のテレビドラマのヒロインのように、自分の心の内をくどくどと説明させるような場面作りは皆無である。ナレーションなしで黙って涙を流しているだけで、ヒーローやヒロインが置かれている心理状況を遺憾なく表現できる演技力の高さが、視聴者の心に訴えかける。さらに、主演に限らず脇役の若手俳優の演技力も主役に劣らない。このことが作品を昇華させる原動力となり、韓国ドラマの総合的な質の高さが遺憾なく発揮され、私達のJLの琴線にふれる作品に仕上がっている。
 しかし、単に作品のすばらしさだけで、特に、日本の中年以上の女性達に冬ソナ・フイバーなる社会現象をどうして引き起こしたのだろうか。
 一昔前まで映画俳優や役者と世間から認められる人達は、容貌、声の質、性格、カリスマ性等すべてを兼ね備えていることが必須の条件であり、それが当たり前であった。しかしながら、日本ではここ十数年の問に、私達の周りから本物の俳優と言える若い役者がだんだんと屈なくなってしまっていたことに、私も含め多くの日本人は気が付かなかったのである。今、周りを見渡すと役者は男も女も美男、美女の正統派俳優は存在せず、3枚日の役者かタレントあるいは素人集団が幅を効かす世界になってしまっている。その物足りなさに、無意識ではあるが中年女性達が真っ先に気付き始めたのではないか。
 このような状況を導いた一因は、広告中心の短期効果が要求される芸能プロダクション企画や演出、広告代理店販売の戦略としてのドタバタ番組が長らくの問、毎日のゴールデン・アワーを独り占めして来たことが挙げられる。特に、民放については、予算の関係からか粗悪で低級な番組がますます増えているように感じられる。その結果、一般の善良な視聴者は、毎日観るべき番組もなく、ニュース、スポーツ番組かNHKのドキュメンタリー番組でお茶を濁すしかなかったのではないのか。このような状況下で韓国放送公社(KBS)制作の「冬のソナタ」を筆頭として、韓国ドラマが次々とNHK等から配信され、急速に日本人の心を掴んでいったと考えられる。
 韓国においては、金大中大統領政権時代にIMF(International Monetary Fund)より破産宣告を受け、国内の大改革が待ったなしで推し進めれた、その時の政策の一環として1998年「文化大統領宣言」が発せられた。その内容は、その年の韓国自動車産業の総利益よりも、ハリウッドが作った「タイタニック」の興業収入の方が大きかったことを例に挙げ、21世紀の国家基幹産業として文化産業を育成するため、文化産業振興基本法を制定し、2003年までに邦貨換算で500億円を投下するコンテンツ振興ファンドを設立することであった。その中で映画振興委員会は、国際映画祭出品の支援、国際映画祭受賞作品への褒賞制度、港外との合作や共同投資、梅外市場マーケッティングなどの支援、字幕翻訳やプリント制作支擾等を開始した。その結果、2004年、10年を経過せずして、カンヌ映画祭においてパク・チャンウク監督「Old Boy」がグランプリの栄誉に輝いた。それ以外にも、先日「冬のソナタ」のヒロイン、チェ・ジウが日韓交流観光広報大使として、小泉純一郎総理を表敬訪問したのは記憶に新しい。
 韓国映画制作が方向性を国際化、言い換えれば世界化(globalization)を目指したことが成功を導き出したと考えられるが、21世紀という時代は、それぞれの民族が長年にわたって培ってきた文化的特徴を失わず、それを全面に押し出してグローバル化の道を進め、そこで評価を勝ち得ることが成功の鍵となる。分野は異なるが、戦いの最終目標を世界の舞台に置くサッカーは、若い世代から年寄りまでのファンを獲得した。一方、国内にのみに安住している日本プロ野球界が行き詰まりをみせ、衰退の域に差し掛かっているのは象徴的出来事である。
 戦後およそ60年間、日本人の目は太平洋の彼方、米国に向けられ、米国流方式を吸収することがすなわち国際化であると信じて釆た。しかし、現在においては、ヨーロッパが西のアメリカではなく、東に向かって拡大EU形成を目ざし努力している姿を範として、日本は韓国をはじめとするアジアの国々に今まで以上に関心を持っべく、大きく舵を取る時期に来ていると考えるべきである。
 今画の韓国テレビドラマ旋風は、私達、日本人が最も近い隣国を理解するための前奏としての教材であるのみならず、我が国が高度成長を成し遂げる過程において、置き去りにした人の心の優しさを思い出させてくれた。
 「冬のソナタ」は、日本人がアジアの人々との交流や相互理解をさらに深め、アジアの中で努力し、共に生きていく必要性を再認識させている。
参考資料:日本経済新聞2004年7月11日朝刊


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