MAN会報
栄養学講座―脂質
その1


当会 顧問理事 藤田 きみえ

 今回は脂質についてのお話をいたします。脂質は皆様よくご存じのように、水に難溶性であるという性質を持っています。一般的に、脂質は動脈硬化を生じさせる悪役のようなイメージを持っ方が多いように思いますが、脂質は細胞を構成する細胞膜や血液の重要な構成成分であります。また、脂溶性のビタミンであるビタミンE瀬となるばかりでなく、脂溶性ビタミンの吸収を助けます。さらに、体内で重要な役割を果たすステロイドホルモンなどを合成します。このように、脂質は人体の代謝のために不可欠な物質であるために、食事から摂取する以外に、1目的1000mg程度のコレステロールが肝臓において合成されています。しかしながら、脂質は1g当たり9Calのエネルギー源となるため、この脂質を過剰に摂取すると、摂取エネルギーが増加し肥満を招きます。また、飽和脂肪酸を多く含む脂質を摂りすぎると、コレステロールや中性脂肪が増加し、動脈硬化の原因となってしまいます。
 人体において脂質は大きく分けて単純脂質、複合脂質、誘導脂質の3つに分類されます。単純脂質には食物中に最も多く含まれるトリグリセリド(中性脂肪)が、複合脂質にはリン脂質やリボタンパク質が、誘導脂質には脂肪酸やコレステロールが含まれます。この内の脂肪酸は、多くの脂質の共通な構成成分でありますが、炭素鎖中のこ重結合の有無で、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられます。飽和脂肪酸にはパルミチン酸やステアリン懐があります。一方の不飽和脂肪髄は体内で合成することができないため、必須脂肪餞と呼ばれ、n−3系のα−リノレン酸、EPA(イコサペンタエン酸)、DHA(ドコサへキサエン懐)、n−6系のリノール酸、n19系のオレイン1酸などが含まれています。
 食物の中には各種の脂肪簡が各々異なった割合で含まれています。例えば、牛肉や豚肉などの獣肉脂肪には飽和脂肪酸や単純不飽和脂肪酸が、魚類の脂肪にはn−3系の多価不飽和脂肪酸が、種実や穀類(特にぬか層)は種類によってさまざまな脂肪酸を含んでいますので、偏りのないように様々な食品をバランスよく摂取することが大切です。



 厚生労働省は、望ましい脂質ェネルギー摂淑率を全摂取エネルギーの20〜25%とし、これを超えないことが望ましいとしています。また、脂肪摂取の比率として、動物性:植物性:魚類の比率が4:5:1が、また、飽和:単価不飽和:多価不飽和の比率は1:1.5:1が、n−6系脂肪酸:n−3系脂肪酸の割合は4:1が望ましいとしています。さらに、高コレステロール血症の人は、摂取コレステロール量を1日300mg以下にすることを推奨しています。この数値は欧米と比較して肥満や生活習慣病(かっての成人病)が我が国に少ないことから、過去20年間における日本人の脂質摂取量を基準として決められました。しかしながら、近年のファーストフードならびにポテトチップスやポテトフライに代表される揚げ物や揚げ菓子の多食の傾向により、この比率は崩れ、若年者の肥満傾向が高まっています。最近、海外のある映画監督がファーストフードの弊害を告発するために、自ら3食ハンバーガーを食べ続け、確実に肥満が発症することをフィルムに記録し証明しました。日本においても、生活習慣病予備軍を阻止するために、「食育」が成長期や思春期の児童や学生にとって何よりも大切であることをやっと「健康日本21」で政府は謳い始めています。
 現在の日本人の食生活においては、肉やその加工品が多く摂取されるようになっているため、飽和脂肪駿の摂取量が増加し、殆どの人が飽和脂肪酸を減らす方がよいと考えられています。特に、摂取量にもよりますが、肉類が1週間の内、5回以上となっている人や外食が多い人、肉食が好きな人は肉類を魚に変える工夫が必要です。また、飽和脂肪酸であるパルミチン酸を、ラード(豚脂)やへット(牛脂)より2倍近く多く含むパーム油を使用した加工食品は要注意です。バターはへットに次いでパルミチン酸を多く含み、ショートニングや綿実油も比較的パルミチン酸を多く含んでいます。
 n−6系脂肪酸:n−3系脂肪酸の割合が4:1と限定されているのは、n−6系であるリノール酸はコレステロール値を下げる働きがあるものの、その一万で、多く摂りすぎると免疫力を低下させ、癌やアレルギー症状(特に、アトピー性皮膚炎)、心疾患、老化などを促進させてしまうからです。この理由は、リノール酸は酸化されやすく、体内で過酸化脂質を生じ、この過駿化脂質が癌の促進物質となるからです。また、リノール酸から合成されるアラキドン酸にはアレルギーを強める作用のあることが知られています。一時期、リノール酸がコレステロールを減らし、動脈硬化を予防すると広く喧伝されたため、リノール酸を多く含む油(サフラワー油、ひまわり油、コーン油、サラダ油)が多く拐取されました。その結果、肥満やアレルギー症状が強くなった人が出現しました。リノール酸の摂りすぎがエネルギー過剰を招き、n−6系、n−3系各々で作られるプロスタダランジン(ホルモンの一種:体内で様々な働さの調節を行う)に偏りを生じさせたのです。このような弊害を予防するためには、n−3系のα−リノレン酸を適切に摂取することが必要とされています。
 しかしながら、α−リノレン酸も摂りすぎればェネルギー過剰を招きます。食養のためには、バランスよく油脂を摂取することが大切です。



(滋賀県立大学人間看護学部教授)
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