MAN会報
アレルギーマーチについて
斎藤博久(国立成育医療研究センター)
第46回御堂筋アズマネットワーク勉強会にて講演されたものです。

アレルギー慢性炎症病態の解明にとともに吸入ステロイド薬などの抗炎症治療方法の開発や治療ガイドラインの普及により、喘息死や喘息での入院数は激減した。しかし、この50年で花粉症などのアレルギー患者は急増し、今や4分の1の国民がスギ花粉症に罹患するようになった(J Allergy Clin Immunol. 2014;133:632-9)。世界的なアレルギー疾患患者の増加に伴い医療費は年々膨大なものとなり、米国での喘息治療に係る医療の経済負担は年間560億ドルとの見積りもある。今後、世界的な医療の均`てん化に伴いアレルギー疾患診療に関する医療費はさらに膨大なものとなる。

アレルギーマーチとは日本小児アレルギー学会初代の理事長である故馬場実先生が1970年頃に提唱した概念である。乳児期に食物アレルギーに罹患した子どもが、その後、アトピー性皮膚炎や喘息、花粉症に罹患していく経過がマーチのようであることから名付けられた。最近、このアレルギーマーチを証明する研究成果が出ている。例えば、1歳児の卵アレルギー(IgE抗体陽性)は3歳になってダニアレルギー(IgE抗体)となるリスクが27倍であることである。ただし、食物アレルギーとアトピー性皮膚炎に関しては順序が逆であり、乳児期でアトピー性皮膚炎になった子どもは、その後食物アレルギーとなることが多い(リスク比は3倍〜8倍)。このような経皮感作については、最近になり小麦蛋白入り石鹸使用による小麦アレルギーの発症など多くの事例が報告されている。

ダニなどのありふれた抗原に対して感作されIgE抗体をもつようになるのは通常、乳児期で、感作が成立すると免疫記憶が徐々に形成されるので、学童期以降に、このIgE抗体陽性というアレルギー体質を転換するのはほぼ不可能である。したがって、次世代のアレルギー診療に係わる医療経済を考慮する場合、乳児期においてアレルギーマーチを食い止める必要がある。

国立成育医療研究センターではすでに報道されている通り、アレルギーマーチの最初の入り口であるアトピー性皮膚炎の発症を保湿剤塗布という簡単な方法で予防できることを証明した。本講演では、この研究成果をなるべくわかりやすく紹介するとともに、次世代の国民、人類に対して、私たちができることを考察してみたい。


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