MAN会報
骨粗鬆症について
理事 宮武 明彦

はじめに

 近年、先進国を中心に高齢化が急速に進み、骨粗鬆症による骨折などで寝たきりとなる患者が増加している。これによりWHO(世界保健機構)は、骨粗鬆症を重点的な疾患として対応を認識し、診断基準を作成した(1994年)。また、日本の厚生省の研究班も「骨粗鬆症の治療に関するガイドライン」を作成し(1998年)、現在は「骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン」(2011年度版)が使用されている。

骨粗鬆症とは

 骨粗鬆症は全身的に骨折リスクが増大した状態であり、「骨粗鬆症は、低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増大する疾患である」と定義され(WHO)、わが国においては、腰椎、大腿骨頸部のいずれかで骨粗鬆症と診断された患者数は、1280万(女980万、男300万)人と推計されている。(図1)

骨質とは

 骨質は骨の素材としての質である材質特性と、その素材を元に作られた微細構造より成立し、閉経後に見られる女性ホルモン欠乏、加齢や生活習慣病があることが、骨密度や骨質に対して悪影響をもたらす。(図2)
 最近は、骨密度のみならず、骨強度の重要性が認識され、この骨強度は、骨強度(Bone strength)=70%骨密度(bone mineral density=BMD)+30%骨質(微細構造、骨代謝回転、微小骨折、石灰化)で示されている。

続発性骨粗鬆症

 続発性骨粗鬆症の代表例は、ステロイド性骨粗鬆症であり、経口あるいは点滴静注による全身性投与によって引き起こされる。これは1日当たりプレドニゾロン2.5〜7.5rの継続内服3ヵ月投与にて骨粗鬆症が起こることが明らかにされている。従って、慢性関節リウマチや膠原病等の疾患に対してプレドニゾロンを長期内服している場合には、ビスホスフォネート製剤をはじめとした骨粗鬆症治療薬の内服が必須である。

なぜ喘息患者に対して骨粗鬆症への取り組みを開始したのか

 内服ステロイド(グルココルチコイド)薬の長期使用による主たる副作用は、ステロイド性糖尿病、ステロイド性骨粗鬆症、高コレステロール血症等であるが、その中でもステロイド性骨粗鬆症は、易骨折さらに寝たきりの原因になることから重要視される。
 気管支喘息の治療にはステロイド薬の使用は不可避であり、喘息発作の寛解には、内服あるいは点滴による投与が必要である。このため、如何にステロイド使用量を少なくして、喘息症状のコントロールが可能なのかが世界の研究者の課題であったが、様々な研究が積み重ねられた結果、吸入によるステロイド薬の投与は、長期間に亘り継続しても、副作用を最小限に抑えることが可能であるとされていた。
 しかし、毎日の診療の中で、抗炎症作用の強い吸入ステロイド薬を高容量で、さらに毎日使用して、本当に骨に対する副作用を生じないのかと疑問に感じ、さまざまな海外の文献検討を行った。それによれば、小児喘息に対する吸入ステロイド薬投与は、身長の伸びに対して影響がないとの結果をヨーロッパの小児科医が発表しており、一方、成人喘息においても、吸入ステロイド薬は骨に対して悪影響がないとの文献が数編認められた。しかし、これら論文を詳細に検討すると、論文の対象患者はいずれも性別、年齢が全く考慮されずに扱われており、その結果、骨への影響がないとの結論が導き出されていた。
 そこで、大阪大学の倫理委員会の承認を経て、当院の喘息患者さんに協力を依頼し「吸入ステロイドと骨密度の関係について」の検討を開始した。また、この研究のプロトコールに問題がないか否かを検討するため、当時、大阪大学第三内科講師であった笠山正宗先生、近畿大学医学部呼吸器・アレルギー科助教授長坂行雄先生、大阪厚生年金病院整形外科橋本淳先生に相談し、研究協力を依頼した。
 対象患者の比較には年齢、性別、生理の有無が重要であると考えた。即ち、内因性女性ホルモン(エストロゲン)は骨代謝に対して大きな影響を及ぼすため、その多寡(生理の有る無し)は重要な要素と思えた。そのため対照患者を女性に限定し、40歳代の閉経前喘息群と閉経後5年以内の喘息群との2群に分類し、さらに対照群として、喘息を持たない、年齢およびBMI(Body Mass Index)を、上記各2群にマッチさせた健康な閉経前、閉経後の健常群、合計4群について比較検討を行った。
 喘息群においては、2群間で1日の平均ステロイド吸入量がほぼ同じで、1年以上、経口ステロイド薬の使用がない患者を選択した。その上で、これら4群、合計約100名の女性ボランティアーの骨密度測定と骨代謝マーカの測定を行った。この骨密度検査については、当時、愛染橋病院院長 森本靖彦先生にDXA法による検査をお願いした。
 研究結果の詳細は紙面の関係で省略するが、結論はわれわれが予測していた通り、閉経前の喘息群と健常群の間では、骨密度および骨代謝マーカに有意差を認めなかったが、閉経後の喘息群と健常群の比較では、喘息群の骨密度は有意に低下し、さらに骨形成マーカーであるオステオカルチン値が、喘息群で有意に低値を示した。以上の結果から、閉経前の喘息患者に対する吸入ステロイド療法には全く問題がないが、閉経後の喘息群における吸入ステロイド薬の治療では、骨密度を低下させることが示された。この結果は、生理が無くなった喘息患者に吸入ステロイド薬を使用する場合には、骨密度に注意を払う必要があることを、世界に先がけて示すことになった。
 この研究結果は1998年、Washington D.C.で開催された第58回米国アレルギー喘息免疫学会(American Academy of Allergy Asthma & Immunology)年次総会ミニシンポジウムにて発表する機会に恵まれ、さらに2001年の米国骨代謝学会誌(Journal of Bone and Mineral Research 2001;16:782-787)にInhaled Corticosteroids Reduce Bone Mineral Density in Early Postmenopausal but Not Premenopausal Asthmatic Womenという論文名で掲載された。
 この結果を踏まえて、宮武内科では骨粗鬆症予防に対する取り組みを開始した。

健康寿命

 世界一の長寿国である日本においては、最近、健康寿命の重要性が再認識されている。健康寿命という言葉は、WHOが2000年に提唱した概念で、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間を指す。すなわち介護の世話にならず、自立した健康な日常生活を送れる期間のことである。
 一方、平均寿命は0歳の人がその後何年生きるのかを示している。2012年の厚生労働省の報告によれば、日本人の平均寿命は女性86.3歳、男性79.6歳、一方、健康寿命は女性73.6歳、男性70.4歳と健康寿命と平均寿命の差は、各々女性12.7歳、男性9.2歳であり、諸外国と比較しても特に女性の健康寿命と平均寿命の差が際立って大きい。
 2010年の国民生活基礎調査による要介護となる原因では、脳卒中と認知症が全体の44.6%を占めている。これを性別で検討すると、男性では脳卒中が最多で、女性では骨折、転倒と関節疾患を合わせた運動器障害が最多となっている。  運動器障害により要介護になることをロコモティブシンドローム(運動器症候群:Locomotive syndrome)と呼び、この中で、骨粗鬆症と変形性関節症の患者数は4700万(女2600万、男2100万)人と推定されている。
 以上から、女性では閉経後に骨粗鬆症の薬を始めることが、健康寿命を延長させる鍵になると考えられる。

なぜDXA (dual-energy X-ray absorptiometry)法による検査が必要なのか

 WHOおよび日本のガイドラインも、正確性を期するため、骨粗鬆症の診断にはDXAを用いて腰椎と大腿骨近位部の両者を測定することが望ましいと記載している。さらにWHOは、DXA法以外による測定結果を正式な診断および治療評価の判定に使用することは望ましくないとの見解を示している。
 すなわち、正確な診断と測定結果による治療のためには、DXA法による検査が欠かせない。これらガイドラインを基に当院では、DXA法検査が実施でき、正確な測定結果が得られ、できるだけ当院に近く、患者の便宜のためにでき得る限り短時間で検査ができる病院を探した結果、愛染橋病院に行き着いた。この病院では当院の主旨を理解して頂き、現在も検査協力を頂いている。

骨粗鬆症の予防のために

 現在、10種類近い吸入ステロイド薬がわが国においても使用可能となっているが、当院では、閉経後の喘息患者さんの骨密度を1年に一度測定し、骨密度が低下、あるいは境界域にある場合には、ビスフォスホネート製剤をはじめとした骨粗鬆症の治療を積極的に実施している。その結果、腰椎、大腿骨頸部骨折で入院手術を受けた患者さんは極端に少ない。また、NPO法人御堂筋アズマネットワークの勉強会に出席された先生方から「宮武内科の喘息患者さんは高齢でも皆さんお元気ですね」とよく言われる。実際に、NPO会長の92歳を始め、90歳以上でも元気で一人で通院して来る患者さんも数名おられる。御堂筋アズマネットワーク会員の平均年齢も80歳に届かんとしている。
 その元気の源は、長期間に亘る喘息治療のみならず、骨粗鬆症の治療を継続していることであり、長生きの秘訣であると考えている。

【参考文献】
1)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011年度版
2)http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/chiiki-gyousei


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