MAN会報
食物礼賛 その11
― 妊娠後期と産後の食養と手当 ―


理事 藤田 きみゑ

 エルニーニョ現象のせいなのか、五月に入って真夏を感じさせる程の温度の上昇と、夕方以降の日差10℃を超える温度の低下、六月は洪水のような大雨で、早々と梅雨入りとなったものの、しとしとそぼ降る雨では無く、スコールのような雨の後に嘘のような晴天と、まるで熱帯地域のお天気です。その一方で、例年と異なり今年は北日本で冷夏が心配されています。快い春の終わりの早さにため息が出そうです。
 前回は産前の食養と手当についてお伝えしましたが、今回も引き続き妊娠後期と産後の注意と手当をお伝えします。

1.妊婦に良い食べ物
 前回お伝えしたように、妊娠後期や産後においてもカルシウムを十分に摂取しながら菓子類や清涼飲料水など急激に血糖値を上昇させる砂糖製品を控えます。また、カフエインを多く含むコーヒーや紅茶、濃い緑茶、興奮作用のあるチョコレートなども控えるようにします。
 卵や肉類を控えめに、植物性タンパク質である大豆製品や他の豆類、野菜、海藻類、こんにゃく類などを多く摂って下さい。妊娠後期は胎児の生育により腸が圧迫されるため、どうしても便秘に傾きやすくなります。この便秘対策としても普段からゆで小豆やきんぴら牛蒡、豆乳の飲用、蓮根、大根、ふき、よもぎ、トウモロコシ、海藻、こんにゃくなど繊維の多い品目が用いられてきました。しかし、それでも排便が困難になる時は、硫酸マグネシウム(カマグ)を主治医から処方してもらいましょう。前編でもお伝えしましたが、韓国では産前産後に牛肉で出汁を取った大量のわかめ入りスープを飲むというより食べさせます。これはミネラル、食物繊維、動物性アミノ酸の補給を目的とした食養の一種で、便秘対策にもなります。
 産後の3日間は体力の衰えを回復する炒り玄米のおかゆをお勧めします。これは軽く洗った玄米を、素焼きの土鍋などで焦げ茶色の焦げ目が付いて、少しはじけるまでゆっくりとろ火で炒めたものに水を加え、割り箸がかろうじて倒れない程度のおかゆにして、薄塩の味で整えたものです。このおかゆはとても体力が付きます。これを裏ごしにした玄米クリームは、体力の衰えた病人の起死回生の食べ物として古くから伝えられてきました。また、おかゆに使用する玄米は、無農薬のものが更に効果が期待されます。これ以外にも、薄味の味噌汁に焼き玄米餅を入れて食べたり、具だくさんのお雑煮に焼き玄米餅を入れたものも効果があります。体力の落ちた方は是非お試し下さい。

2.むくみの対処法
 妊娠後期となり腹部が大きくなると、静脈やリンパ管が圧迫され静脈血の還流やリンパ流の流れが遅くなるため、むくみが発生し易くなります。これは生理的なもので病的浮腫ではありませんが、立ち仕事が多いと夕方以降にむくみが強くなり、足が重く立つのが辛くなりったりします。このような時には膝下を全体的に締め付ける弾性ストッキング履いたりしますが、それでもむくみがある時には、両手で 膝から足先に向かってさするように5分ほどマッサージを行い、足のだるさが取れるまでクッションや座布団などで軽く足を挙げ、しばらく横になります。繰り返す強いむくみには太けい(たいけい:足の内側、内果後方、内果後縁とアキレス腱の間で内果の先端と同じ高さ)や、湧泉(ゆうせん:足底部にある。足底を屈曲してできる陥 凹部で、第2・3指横紋頭と踵を結ぶ線の前方より3分の1の所)などのツボを5秒間、2〜3回ほど押さえます。但し、三陰交(さんいんこう)や崑崙(こんろん)のようなツボは子宮収縮を促す恐れがあるため、産後には用いて大丈夫ですが、妊娠後期には用いないで下さい。
 また、食事で気を付けることは塩分を取り過ぎないことです。調理は塩分控えめとし、暑い時にはトマトやきゅうりなどの生野菜を適度に摂取します。ゆで小豆の煮汁や小豆ご飯なども利尿作用がありむくみの改善に役立ちます。

3.腰痛などの痛みの対処法
 妊娠後期には腰痛、背部痛、足の痛みやしびれ、座骨神経痛、恥骨部分の痛み、仙骨痛、股関節痛などが生じる場合があります。この痛みは胎児の重量負荷によるものなので、生理的なものと言えますが、妊娠が進むにつて痛みも増加することが多いため、妊婦にとっては辛いものです。妊娠期には消炎鎮痛剤が使用できない、またなるべく使用しないため、どうしても使用しなければならない時には医師の管理が必要です。これら痛みの原因の一つとして、妊娠前における筋肉や体躯の骨の弱さがあります。妊娠に備えて筋力を付けたり、膠(にかわ)質やカルシウムなどの補給を十分に行うことも大切です。また、痛みが起こってからの腰痛や背部痛の対処法としては、妊娠前期の稿でも触れましたが、腹帯をしっかりと巻いて保温すること、膨らんだお腹を持ち上げるようにして、晒し木綿で少し強い目に巻くことが大切です。さらに、腰痛や背部痛がある場所にこんにゃく温湿布を行います。
 こんにゃく湿布は市販の四角い白こんにゃく2枚を沸騰させたお湯で温め、通常サイズのタオル2枚で包み、背部の両側腎臓の位置にそれぞれ縦向きに並べ、その上から晒し木綿でお腹を一周するように巻いてこんにゃくを固定します。この時、こんにゃくが熱すぎて火傷しないように気を付けて下さい。約15分程度温め、背部がうっすらと赤みを帯びるようになれば、その上をアイスノンで5秒程冷やして終わります。恥骨部分の痛みもこの方法で温めますが、両側の鼠径部(そけいぶ)はリンパ節があるため、温めないように気を付けて下さい。また、左腹側部にある脾臓も温めてはいけません。むしろこの2カ所は腎臓を温めた後に、細いアイスノンをタオルで巻いて1〜2分程冷やして下さい。鼠径部の痛みや手足のしびれ感、仙骨の痛みにはリンパマッサージが有効です。リンパの流れに沿って、上から下へ少し軽く擦るようにします。毎日、朝、昼、夜、寝る前などに5分程度マッサージを行います。

4.乳汁を出すための手当と食べ物
 初産の妊婦は乳房が張っていてもなかなか乳汁が出ないことがあります。このような時には熟練の助産師さんによる乳房マッサージが必要です。乳頭のくびれの部分をほぐすように柔らかくマッサージをすると、吹き上げるように乳汁が出るようになります。これ以外に民間療法でごぼうの種を5〜6粒服用すると乳の口が開くとされていますが、真偽の程は不明です。
 乳汁が出るようになっても、母体の栄養状態の低下や水分不足により乳汁分泌が低下します。そのため昔の人は先程の玄米餅入りの味噌汁や鯉こく(鯉のにが玉を取り、鯉一匹丸ごと鱗も付いたまま切り分け、鯉の臭みを取るため番茶の煮出しがらを袋に入れ、鯉の3倍程の大量のささがき牛蒡を加え5〜6時間煮る。骨が柔らかくなれば茶袋を捨て、味噌で味付けをする。)を食べさせて体力を付け、乳汁がよく出るようにしました。最近では鯉こくの缶詰もあるようです。これ以外にも根菜類(牛蒡、蓮根、人参)とネギ、薄揚げを油で炒めたものを具材にした味噌汁や、お煮しめなども乳汁分泌に役立つことが経験的に知られています。あわ餅、ハトムギのおかゆ、ごま豆腐、野草のはこべの味噌汁、海苔やわかめもお勧めです。
 それでも乳汁がなかなか出ない方には、決明子(中国産ハブ草)とゲンノショウコ、ハトムギ各10gに対して約800ccの水を入れてとろ火で煮て600ccとしたものを飲用します。
 この他、ストレスは乳汁分泌を低下させます。妊婦本人が心の安定を図る事は大切ですが、周囲の方も余計な心配をさせないように配慮することも必要です。。

5. 妊娠後期における薬の注意
 妊娠後期においては、妊娠初期と比べると数多くの薬品が使用できるようになりますが、やはり医師との相談が必要です。どうしても抗生物質を使用せざるを得ない場合には、セファロスポリン系がまだ安全とされています。その他、流産を惹起する生薬としては、麝香(じゃこう)がよく知られています。妊娠中には麝香を含む香料やお香の使用、麝香の内服を避けるのが無難です。
(滋賀県立大学名誉教授)

【参考文献】
鍼灸学〔経穴編〕日中共同編集 東洋学術出版社2006,
漢薬の臨床応用 神戸中医学研究会訳・編1999. 自然療法 東城百合子 あなたと健康社


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