MAN会報
食物礼賛 その10
― 産前の食養と手当 ―


理事 藤田 きみゑ

 10月も中頃を過ぎてやっと涼しくなり、慌てて薄布団を押し入れから引っ張り出したのは私ではなく主人でした。外を歩くには半袖は寒く、かといって間物のジャケットとシャツでは少々暑いような如何ともし難い気候です。けれども私はこの連休中にえいやっと4ヵ月半もの長きに亘り働いてくれた夏物を洗濯しアイロンをかけて片付け、間服を引っ張り出しました。とはいうもののまた暑くなるんじゃないかと夏物を完全にしまい込む勇気もなくて、Tシャツ2枚と夏用ジャケットをそっとハンガー掛けに掛けました。このまま涼しさか続いてくれることを祈りながら。
 寒暖の差が10℃を超えると喘息発作が誘発されやすくなります。健康管理には十分ご注意下さい。さて前回に引き続き今回は産前の注意と手当をお伝えします。

1.妊婦に良い食べ物
 妊娠は病気ではないといいますが、妊娠・出産は女性にとって一大事業です。軽く考えていると流産や早産、また思いがけない合併症などが発症したりします。普段通りの生活をとマニュアル本にも書いてあるのですが、普段とは少し違った注意が必要です。あなたのお腹にはもう一人の人格が宿っているのですから。
 妊娠中に栄養を2人分摂らなくてはいけないと肉や卵、牛乳など動物性の脂質やタンパク質を過剰に摂取することは母体管理の面から逆効果です。以前は母親の肉や卵の摂取は赤ちゃんのアレルギーなどを助長するといわれ制限されていましたが、最近では胎児に影響がないことが報告されています。しかしながら母胎の体重が標準より増加し、ひいては胎児が過剰に発育することは好ましくありません。そのような意味で急激に血糖値を上昇させず、ミネラルやV.B群、イノシトールなどを含む七分搗きや五分搗きなどの精白米でない米飯や押し麦、粟、ひえなどの雑穀を混ぜた米飯などをよく噛んで主食とします。これに小魚、海藻類、野菜、大豆製品、ごま、小豆、黒豆、干し椎茸、こんにゃくなどを通常の魚肉類に加えて副食とします。塩分の多い小魚の干物は避けて、以前お知らせしたかえりちりめんの酢漬けやちりめんじゃこを湯通ししたものなどを常備菜として毎日、大匙山盛り一杯ずつ頂きます。これは天然のカルシウム補給源となります。同じくカルシウムや鉄などのミネラル補給を目的として、すり胡麻を朝夕大匙2杯お浸しに加えたり、少し塩を加えてごま塩としてご飯にかけたりして頂きます。妊娠中のカルシウムの補給は大切で、不足する場合にはワダカルシウムなどのカルシウム剤などで補いますが、母胎がカルシウム不足に陥ると母体の歯や骨を溶かしてまで子供に移行するため、妊娠中や産後の虫歯、頭髪の脱毛や禿げの原因となります。気をつけて下さい。
 海藻類ではひじきが安価で鉄やヨードなどのミネラルを多く含むため、人参や牛蒡のささがき、油揚げを細く刻んだものと一緒に炊いたひじきの煮付けも常備菜とします。ワカメの味噌汁に野菜を多く刻んで入れたものは毎日の朝食にうってつけです。韓国ではお産の後でこれでもかとばかり大量にわかめが入ったわかめスープを飲ませます。
 野菜は調理前の状態で1日最低300g、できれば500〜600g摂取するようにします。このうち人参、大根、蓮根、牛蒡などの根菜類、小松菜、大根葉、キャベツ、もやし、せり、白菜、ほうれん草、チンゲン菜、ネギなどの葉菜類との割合は根菜類2に対して葉菜類1の割合とします。この他、南京、小芋、さつま芋なども煮付けやけんちん汁、豚汁に加えましょう。調理法としては煮る、茹でる、蒸すなどの温野菜を主体とします。生野菜はV.C.源となりますが体を冷やす作用があるので、暑い夏場以外は回数を減らしましょう。夏野菜の代表格であるトマトはスライスして少量の油で軽く焼くか、トマトスープにしたり煮詰めてピューレとしてパスタソースにします。レタスは玉ねぎと並ぶ自然の睡眠導入食材なので、ニンニクや生姜とさっと炒めて夕食時に頂きます。干し椎茸や切り干し大根など天日で干した野菜はV.D源となります。いわゆるおばんざいは栄養学的にも根拠のある副菜なのです。
 大豆製品として日常的に最も多く用いられるのは豆腐と納豆でしょうか。あと湯葉や高野豆腐、油揚げ、豆乳、大豆の煮豆などがありますが、納豆が嫌いな方はともかく、発酵食品を1日に1度摂取するという観点から、朝食に卵とからしを抜いた納豆を加えるのもお勧めです。また、少量のハチミツを加えて温めた豆乳も3時やお夜食にほっとする飲み物です。  妊娠中期・後期になると足のむくみなどが目立つようになりますが、このような時に小豆の利尿作用を用いて小豆ごはんや小豆と南京の煮物、小豆だけを薄い塩味で煮たものなどを頂くようにします。また、体力がないと感じたときには黒豆ご飯や栗ご飯を炊いたり、玄米餅(白餅ではない)を焼いて薄く生醤油を付けて頂きます。
 牛乳はカルシウム源として飲用されますが、一般的に飲用されているホモゲナイズド牛乳からノンホモゲナイズド牛乳(ノンホモ牛乳)あるいはローフアット牛乳に変えることが望まれます。また牛乳は陰性食品であることから過剰に摂取することを止めて、上記のようなカルシウム源を多く加えます。この他、なるべく飲食しない方がよいものは、甘い菓子、菓子パン、生クリーム、ケーキ、清涼飲料水、アイスクリーム、かき氷、唐辛子、辛子、濃い緑茶、カフエインを含む飲料などです。これらの品目は血糖値を急激に上昇させたり、体を冷やし過ぎたり胎児の神経に影響を及ぼす恐れがあるためです。この反対に胎児が元気に育つとカボチャのへたを煎じて飲用することがあるようです。

2.つわりの対処法
 古くからつわりには玄米のおにぎりにごま塩を付けてゆっくりとよく噛んで食べると収まるといいます。特にむかつきや嘔吐がひどいときには玄米スープに塩味を付けてゆっくりと噛んで食べると収まるようです。この他、大根おろしに醤油をかけて食べたり、梅干しに醤油をかけて少しずつ食べると楽になるとされています。むかつきの強いときには蓮根を下ろしてそれに熱湯を加えとろみがでたものに黒砂糖を小さじ1杯と小さじ半杯の塩を加えた蓮根湯をゆっくりと飲みます。また、のどが渇くときには少し塩味のする醤油番茶か玄米スープを薄めて少し塩味を付けたものをゆっくりと飲みます。つわりには個人差があり、入院を必要とするほど重症のものから全くつわりを経験しない方まで様々です。私の場合は軽い方でしたが、何時も何かを口にしていないとむかむかするので、プレーンの塩味クラッカーを枕元に置いて目が覚めると直ちにクラッカーを1枚食べるようにしていました。つわりには特効薬がないようですが、無理をしない程度に動けるときには働いた方がつわりを忘れることもあります。つわりの期間は長短がありますが、何時かは必ず良くなるのであきらめないで頑張りましょう。

3.妊娠中の全般的な注意
 妊娠中は特に冷えに対する手当が必要です。冷えが強いと難産に繋がるからです。よく冷房の効いた電車内で、お腹の大きい妊婦さんがソックスも履かず薄く短いワンピースを着ているのを見たりしますがこれでは足や腹部、腰部が冷えて血液循環が悪くなり、リンパ流の流れも滞ります。膝下までのロングソックスを履いたり緩やかなニットのパンツや厚手の綿のロングパンツなどを履いて保温に努めます。また、保温のために大根干し葉の腰湯をします。大根の葉を八百屋さんで分けてもらいよく洗って直射日光で干します。十分に干した葉を晒し木綿の袋に入れてお鍋で軽く煮ます。お風呂に腰までお湯を入れて煮汁を入れ腰湯をします。また同じ要領でバケツにお湯を入れて煮汁を入れ足浴をします。妊婦は不眠があるからといって睡眠薬を内服することができません。不眠の折には前述のレタス炒めやオニオンスライス、カボチャの種を炒ったものを食べたり、眠前に100cc程のホットミルクやカモミールティーなどを飲用しますが、それでも眠れないときには足浴をして足を温めてから寝床に入るようにします。また、前述の大根干し葉の足浴や腰湯もよく温まるため睡眠導入に効果があります。
 もう一つ大切な事は腹帯の着用です。最近では腹帯は単に保温のためだけと考えて、腹巻きのような柔らかな形状のものが出回っていますが、これでは腹帯の役割を為し得ません。腹帯は保温のみならず胎児が母親のお腹の中でできるだけ固定されるために巻くものです。従って正しい腹帯の巻き方は下から上に向かって包帯を巻くように交差しながら巻き付けます。この巻き方が緩いと妊娠が進むにつれてお腹が下の方に出っ張ってしまいます。これでは胎児は十分に固定されず、母親の動きにつれてお腹の中で胎児も揺れるようになります。余分な揺れを防止し胎児が下腹部に押しやられず、ひいては早産や難産を予防するためにも長い晒し木綿でしっかりと下腹から上腹部に向かって支えるように腹帯を巻くことに意味があるのです。昔は家のお姑さんと一緒に戌の日に神社にお参りし腹帯を授かりました。そしてお産婆さんに腹帯の巻き方を指導してもらったのです。この行事は無事に子供が生まれるようにと神仏に祈ると共に、正しい腹帯の巻き方を教授してもらうという意味がありました。科学の世界に生きる私達だからこそ、安産のためにも正しい腹帯の巻き方を是非、習得して頂ければと思います。
 また、妊娠が進むにつれ尿失禁をすることがあるので、普段から肛門と陰部を絞めては緩める肛門括約筋運動を妊娠前から折に触れて練習するようにします。失禁が起きるようになれば、お腹を静かに下から抱くようにして、時間毎に排尿するようにします。また眠る前には足浴や腰湯で十分に温めましょう。次回は産後の手当と養生についてお知らせします。
(滋賀県立大学名誉教授)

【参考文献】
・斉藤博久:アレルギーはなぜ起こるのか 講談社 2008.
・Gary Tanbes: Which one will make you fat ? SCIENTIFIC AMERICAN Sep.2013.
・Rob Dunm: Everything you know about Calories is wrong.
 SCIENTIFIC AMERICAN Sep.2013.


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