MAN会報
「生」へのこだわり

理事 吉富 康二

 2月上旬から2週間かけて真夏のオーストラリア大陸をほぼ周遊するツアー旅行に参加した。最後の訪問地、西オーストラリアのパースで面白いビールと出会った。小瓶のラベルには「Smokey Bishop」とあり、ビックリしたのはその下に漢字で「生」と表示されていた。昔ビールのマイスターだった事が何時の間にか、一緒に飲んでいるツアーの仲間にも知れてしまい、ビールを各地で楽しむ度に質問される事が度々あり、ビールの薀蓄を語る中で「生ビールとは何ぞや」にも熱弁を揮っていた。欧州のビール国、英国やドイツへ何度も訪問されている方も多いので、「欧州には瓶生、缶生ビールは存在しないので、注文したら、馬鹿にされるから絶対にしないように!日本に缶生、瓶生ビールがあるのは、生ビールの定義が欧州と異なり、どちらかと言えば、日本の定義は世界ではあまり通用しませんよ!」と述べていた。パースの瓶生ビール出現に、小生も旅の仲間たちも何だこれは?と大いに湧いた。
 日本では公正競争規約で「生ビール及びドラフトビールとは、熱処理(パストリゼーション)をしないビールにのみ表示できる」と決められている。要するにビールを造る工場で60℃15分の熱殺菌をしたら生ではないと言う事。
 どんな国であろうが熱処理するかしないかは工場の品質管理上の問題でビールの味にはほとんど影響しない。消費者でこの違いに判る人はほとんどいない。
 これに対し欧州ではビール樽(20-50L)からグラスに直に注ぎ出したものを生ビールと言う。英語ではDraughtbeer,ドイツ語ではFassbier、何れも「大きな容器とか樽」から注ぐビールを意味する。即ち、容器が何に入っていたかが問題である。

 英国やドイツでは生ビールは瓶や缶のビールより美味しいというのが常識となっている。理由は簡単で工場で出荷されてから人の口に入るまで、なるべく低温で時間が少ない方がビールの鮮度が良いからである。これは日本でも全く同じで鮮度の良いビールは美味しい。樽ビールは欧州でも日本でも、通常レストランや料飲店等で飲まれ、工場からお店まで保冷保管で輸送される事が多く、2週間ぐらいで樽が空になることが多い。欧州では生ビールは“美味しい”が日本では生ビールは“美味しいとは限らない”。何故なら、瓶生ビール、缶生ビールを奥様が夏場に買って、例えば、台所で2ヶ月保管し、飲む前の日に冷蔵庫に入れるのは極当たり前に行われている。台所は夏場40度になる所もありビールの鮮度は確実に落ち、美味しくない。日本の生ビールの定義は日本国民が食品への「生」志向があるため、ビール会社のマーケティング上の問題であり、欧州のように生ビールだから美味しいという、ビールの味の本質からは無関係な定義である。日本人はそれだけイメージに弱いのかもしれない。オーストラリアの生ビールの定義は知らないが恐らく英国と同じであろう。
 町には健康志向の日本以外のアジア系のお寿司屋のオンパレード、寿司がグローバルになり“生”のイメージがこんなビールの世界まで押し寄せていると実感した。


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