MAN会報
気管支喘息治療の変遷

理事 宮武 明彦

 私たちが2009年に創元社より「ぜんそくがよくならない人が読む本」を出版して早4年が経ちましたが、予想を上回り多くの喘息症状で苦しんでこられた患者さんに読んでいただくことができました。  この間の大きな変化としては、喘息治療には吸入ステロイド薬を使用することが必須であるという概念が、医療側のみならず患者さん達にも周知徹底されてきたことがあります。以前のように患者さんと吸入ステロイドの使用を巡っての論議も全く認められなくなりました。そのような意味でもこの本は多少の貢献をしたかもしれません。
 厚生労働省は2006年に喘息死ゼロ作戦をスタートさせましたが、2000年以前は、年間5000人の患者さんが発作で亡くなっていました。しかし、吸入ステロイドの国内使用量が増加するとともに、それに反比例して毎年喘息で亡くなる人が減少し、2012年度は、厚生労働省の目標であった2000人を下回り年間の死亡者が1874人まで減少しました。
 ところで、私の外来に喘息症状で新しく来院される患者さんは毎月平均50名程おられますが、以前の患者さん達と大きく変わった点は、ほぼ100%の方が喘息治療の第一選択薬である吸入ステロイドの使用をすでに受けられておられることです。そのため私にとっては以前にも増して大変ハードルの高い治療を求められるようになりました。何故なら、すでに特効薬を使用しているにもかかわらず改善しない初診患者さんばかりになってしまったからです。
 このようにハードルの高い患者さんを診察するために、さらに丁寧な診療を進めています。まず、@喫煙状態の把握、A小児喘息の有無、次に、B喘息の診断が正しいか否か、もし診断が正しければ、次に治療が適切か否か、Cどうして来院患者さんに吸入ステロイドの効果が認められなかったのかなどの点について詳しくお話をしています。
当院の気管支喘息の診断手順としては
@単純胸部レントゲン撮影における
 異常陰影の有無
A肺聴診による喘息患者さん特有の病的雑音の聴取
B呼気中の一酸化窒素ガス濃度の測定(exhaled NO測定)
C呼吸機能検査(flow volume curve測定)における
 閉塞性障害の有無
D皮膚アレルギーテスト(skin prick test)による
 陽性項目の検討
E気管支拡張剤効果の有無
F血液検査(IgE値、一般血液検査と白血球分類、
 必要があれば特異的IgE)
 以上の順序で診断を進めています。結果がすべて揃ってから検査結果に基づいて、気管支喘息と診断出来るか否かの説明をします。その後、治療法としてどうしてこの薬の処方を決定したのかその理由を詳しく説明します。最後に喘息は急性の病気ではなく、高血圧、糖尿病と同じ慢性疾患であり長期間に亘り付き合って行かねばならないこと、どのようにしたら発作(急性増悪)を無くすることができるのかを一緒に考える必要があると説明しています。そのため定期受診の必要性についての理解を求めています。
 2回目の診察については、重症の方は1週間以内の受診をお願いし、軽症の方でも2週間以内には、診察と治療効果の判定を必ず行っています。正確な統計を取っているわけではありませんが、約90%の患者さんは初診時と比較して喘息症状が70~80%改善したと話しておられます。
 当院では、私が大阪府立羽曳野病院(現大阪府立呼吸器アレルギー医療センター)に勤務していた頃から、約30年近く定期的に私の外来に足を運んで下さっている患者さんが少なからずおられます。一方、初診で来院しそれ以降全く受診されない患者さんが1年ぶりで再診されることもあります。しかし問題なのは、非常に少ない例ですが最初の2〜3年程は完全に治療ができていた方が、肺炎やウイルス感染を契機として、発作のコントロールが不可能になり、外来で抗生物質や内服ステロイドの投与、さらに連日のステロイドの点滴等を実施しても発作の改善が認められない症例があることです。このような時には高容量ステロイドの24時間持続点滴等の処置を受けるために入院をしていただく場合があります。このように、なぜ突然に喘息発作状態に陥り通常の発作治療に反応しないのか、またなぜ安定していた患者さんの病態が、治療抵抗性の難治性喘息に移行するのかを明らかにしなければならないと常々考えていました。
 このような症例発症の原因を明らかにすることを目的として、和歌山県立医科大学第三内科の一ノ瀬正和教授(現東北大学医学部呼吸器内科教授)と共同研究を実施しました。当院には、20年以上に亘り毎月定期的に通院されている喘息患者さんが100名以上おられます。そのため約20年間の個人の呼吸機能検査、アレルギー検査および治療歴のデータが蓄積されています。この20年分の個々のカルテデータ使用について倫理委員会の承認を得た上で、それらをエクセルにて統計処理(個人情報保護のため名前および住所は削除)し、臨床データに漏れの無い選択された54症例の解析を一ノ瀬教授に依頼しました。
 その結果、気管支喘息患者さんは大きく2つのグループに分かれることが明らかになりました。それは、1) 症状が安定していて、呼吸機能の経年低下も正常人(肺活量年間20ml減少)と比較してさほど変わらない患者群。2) 症状が不安定で外来において経口ステロイド内服およびステロイド点滴が頻回に必要で、呼吸機能の経年低下も大きく、結果として低肺機能に陥って行く患者群の2群であります。この解析を受けた54名は、いずれも定期的に受診を行い、吸入指導や治療管理が確実に行われていたアドヒアランス(adherence)良好のグループであったため、悪化要因は患者の治療態度の問題ではなく、病気そのものによる可能性が示唆されました。特に、ステロイド薬の内服や点滴が必要で呼吸機能低下の著しいグル−プは、細気管支(small airway)領域の障害が強いことが判明しました。しかし、同じようにアドヒアランス良好の喘息患者でありながらどのような機序で病態に差異が生じるかについては、さらなる多数例の検討が必要であると考えています。
 気管支喘息は多因子が原因で起こる病気であり、また、環境因子にも左右され易いので、すべての患者さんを一括りに喘息と診断し同一の治療を行うことに問題があるのではと推測されます。将来は喘息が幾つかの型に分類され、あなたは何々型の喘息ですから、この治療法が最も適していますと言えるような時代が一刻も早く来ることを期待するばかりです。

【参考文献】
K.Mtunaga, K.Akamatsu, A.Miyatake, M.Ichinose: Natural history and factors of obstructive changes over 10-year period in severe asthma.
Respiratory Medicine,2013;107:355-360.


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