MAN会報
PM (Particulate Matter) 2.5について

理事 宮武 明彦

はじめに
 2013年の正月明けから度々北京の大気汚染の状況がテレビで放映された。それは中国の大気汚染が例年以上に酷かったためであり、その理由として大陸に寒波が居座り、北京上空の大気の対流活動が低下したことが挙げられた。この大気汚染は偏西風に乗って日本に移動し、その結果、高濃度のPM2.5が九州から西日本にかけて観測された。
 2月に入って喘息患者さんに対するPM2.5の影響について読売新聞社から緊急の問い合わせがあり、意見を求められた。その内容は2013年2月5日の朝刊第1面のPM2.5に関する記事の中に掲載された。その後、続けて2月15日にNHK大阪「おはよう関西」、2月18日には読売TV「関西情報ネット10」からPM2.5と気管支喘息との関係について取材を受け放映された。

四日市喘息
 歴史を振り返ると、わが国は1960年代に入って高度成長の波が押し寄せ、四大公害といわれる公害が発生した。その中の一つに大気汚染が原因で発症した四日市喘息がある。
 この公害は三重県四日市に日本初の本格的な石油コンビナートが建設され、その石油精製の過程で発生したSOx(硫黄酸化物)等のガスによって引き起こされた。特に、風下の地域を中心に喘息患者が1000人以上発症したため、1972年に津地方裁判所が原告の請求を認め、それを受けて1973年に日本政府は公害健康被害補償法を制定した。それ以降、国民も大気汚染問題に真剣に取り組みを始め、大都市でも青空が見られるようになった。これにより公害による喘息患者の発症は減少し、1988年には公害健康被害者の新規認定が終了した。
 大気汚染物質が中国から日本に飛来するのは今年に始まったことではない。汚染物質は1990年代から中国の経済発展とともに増加し、SOx(硫黄酸化物)に由来する酸性雨による森林への被害について報道がなされてきた。2007年には越境大気汚染による光化学スモッグ(オキシダント)が発生し、北九州市では運動会が中止された経緯がある。ではPM2.5とはどのような物質なのか。

PM2.5(2.5μm以下の微小粒子状物質)
 粒子状物質(PM)は、石炭の燃焼で出るSOx、自動車の排気ガスに由来するNOx(窒素酸化物)、煤(炭素微粒子; black carbon)および有機物等の物質が混合するエアロゾル粒子であり、その大きさはμm(マイクロメートル:一千分の1ミリメートル)の単位で表される。また大気中の煤塵、粉塵、黄砂などもPMに含まれ大気汚染物質として扱われている。
 PMは国際的にその粒径によりPM2.5、PM10、SPM(浮遊粒子状物質;Suspended Particulate Matter)等に分類されている。1960年代は米国でも大気汚染が問題となり、1971年にはTSP(総浮遊粒子状物質; Total Suspended Particulate)の基準値が設定された。しかし、この基準ではヒトの気管支や肺胞まで到達しない大きな粒子も含んでいたため、PM10が設定され、さらに1997年に微小粒子PM 2.5の環境基準が追加された。
 一方、日本では、1972年にSPM(10μm以下)の環境基準が設定されたが、PM2.5の設定が追加されたのは2009年になってからである。それゆえ、日本人にとっては馴染みの薄い表記である。

大気汚染物質の測定と基準
 日本におけるPM2.5、PM10、SPMの測定は、大気を吸引してフィルター上に粒子を集め、電子天秤で重量を計るフィルター法で測定されている。環境省は大気汚染広域監視体制を展開しており、現在、測定局は全国で560局あるが、将来的には1300局まで増やす予定である。この測定結果は、Web上の「そらまめ君」で見ることが出来る。  1年間に日本国内で観察される大気汚染物質の発生場所の内訳は、日本国内30%、中国50%、残りは経済発展著しいアジア地域ならびに北米や欧州からと考えられている。
 2009年の環境省告示の日本のPM2.5の基準は、24時間平均35_g/m3以下、年平均15_g/m3以下であること。SPMの基準は24時間平均100_g/m3以下で、かつ1時間値が200_g/m3以下とされている。

宮武内科PM2.5緊急アンケート調査結果
 2013年2月8日から16日までの受診日6日間の間に、外来を受診された喘息患者さん213名(男性67名、女性146名)の協力を得て、PM2.5によると考えられるアレルギー症状の発現有無について以下の質問を行った。
(1)咳や痰などが増加する喘息症状の悪化の有無。
(2)くしゃみや鼻水などの鼻炎症状の有無。
(3) 目のかゆみ、目の周囲のかゆみ・痛み・目がごろごろする等の眼症状の有無。
(4) ヒフのかゆみ、発赤などの皮膚炎症状の有無。
アンケート調査の結果、症状を認めると回答した患者さんは88名(41.3%)であった。最も回答(複数回答)が多かったのが、(2)くしゃみ鼻水などの鼻炎症状であり61.3%、次いで(1) 喘息症状の悪化54.5%、(3) 眼症状の悪化42.0%、(4)ヒフ症状の悪化18.2%の順であった。
 今回の調査は6日間という短期間の調査であったためか、喘息発作を起こした人は認められなかったが、喘息症状の悪化を訴えた患者さんが、50%を越えていたことについては、重く受け止める必要があると考えた。
 本アンケートの整合性について、今年の1月の気温は、例年より低い日が続いていたため、例年のように2月に入ってもスギ花粉の飛散が始まっておらず、調査時期はスギ花粉の影響を排除できたと考えている。また、調査を1週間で終了した理由は、スギ花粉の本格飛散が始まると、花粉の影響かPM2.5の影響かの判断が困難になるためであった。

PMの健康被害
 最近、米国や英国からPM2.5による呼吸器・心・循環器系に対する健康被害ならびに死亡率との間に相関があることが疫学的研究によって示された。現在、日本の大都市部においては、PM2.5の主要成分であるディ−ゼル排気微粒子(DEP:diesel exhaust particulate)が健康被害と最も関係していると考えられているが、今後、その因果関係について明らかにするには、さらなる疫学調査と生化学的研究を実施する必要がある。
 毎年のように私達を悩ませるPMとしては、1) スギ花粉、2)インフルエンザウイルス、3)黄砂などがあるが、スギ花粉のサイズはPM30と大きいので、目、鼻と喉の症状が中心であり、喘息発作を引き起こす直接の原因とはならない。インフルエンザウイルスのサイズはPM0.1(100nm)と非常に小さいが、主たる感染経路は咳やくしゃみによる飛沫感染であり、水分と一緒に飛散するためPM3.0〜5.0程の大きさになり、冬場の喘息発作の原因のひとつとなる。黄砂のそれはPM0.1〜10と幅があるが、PM5.0位の大きさが最も多く飛来する。このサイズは喘息症状の悪化に関与すると考えられる。一方、飛散物質ではないが、喫煙によるタバコの煙(エアロゾル)のサイズはPM0.1〜1.0に分布している。この粒子の大きさは肺胞まで到達することと、気道粘膜の過敏性を亢進させることから喫煙は、喘息の悪化原因であることが証明されている。

PM対策
 環境省と気象庁が「注意喚起情報」を発令するPMの基準値は、24時間平均値70_g/m3以上が予測される日であり、午前8時に各自治体から出されことが決められている。
 PM対策の第一はPM2.5の発生源である車の排気ガスNOxと、工場、発電所等から排泄されるSOxをさらに削減し、国内由来のPM2.5の割合を現在の30%のレベル以下にすることにある。
 最初に行われたPM対策の試みは、2003年に石原慎太郎東京都知事が始めた独自の取り組み「ディ−ゼル車NO作戦」である。石原知事はその冊子の中で欧米より遅れた新車のPM規制、低硫黄軽油の早期供給の遅延、使用過程車対策の放置、旧式ディ−ゼル車の放置、軽油優遇税制の継続、不正軽油の放置などの国の怠慢を掲げている。この運動の結果、国も重い腰を上げ全国的にPMの排泄量は減少した。東京都に限れば規制開始前のPM濃度と比較し、20分の1に減少したといわれている。
 一方、私たち個人ができる簡単で安価な対策としは、マスク着用が挙げられる。PM捕捉能力は、1)従来型ガーゼマスク(紙マスクは除外):5.0μm以上、2)N95マスク:0.3μm(300nm)以上であり、このデータによると遊離状態で飛んでいるPM2.5は、N95型マスクで防御可能であるが、従来型マスクでは完全とは言い難い。しかし、通常マスクでも黄砂や花粉に付着しサイズが大きくなったPM2.5は捕捉可能である。その一方で、N95型マスクを着用した状態での長時間労働は、呼吸が苦しく継続着用は難しい。

まとめ
 大気汚染問題はグローバルな時代においては1国だけで対応できる問題ではなく、地球規模の課題となる。環境省が積極的に近隣諸国とのネットワークを充実させ、国民への情報伝達の精度を高めること、また、日本で活動する国際環境技術移転研究センター等の国際的貢献を進めること、さらに毎年開催されている日中韓環境大臣会合(TEMM: Tripartite Environment Ministers Meeting)においてもリーダーシップをとることが期待される。

【文献】
1) Scientific American日本語版(日経サイエンス)2013年5月号「越境汚染」
2) 日本学術会議、農学委員会 風送大気物質問題分科会2010年2月「黄砂・越境大気汚染物質の地球規模循環の解明とその影響対策」
3) Wikipedia 粒子状物質http://ja.wikipedia.org/wiki/
4) 国立環境研究所ニュース20(5)「SPM,PM2.5,PM10さまざまな粒子状物質」
5) 環境省環境保健部2006年7月「公害健康被害補償制度」
6) Wikipedia四日市喘息http://ja.wikipedia.org/wiki/
7) 環境省2013年2月「最近の微小粒子物質(PM2.5)による大気汚染への対応」
8) 東京都「ディ−ゼル車NO作戦」http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/vehichele/
9) インフルエンザ予防におけるマスク着用の意義に関する諸問題 http://homepage 3nifty.com/sank/jyouhou/BIRDFL


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