MAN会報
只今禁煙中

谷鳥 真一

僕が禁煙したのは、決して先生に、「そのうち酸素ボンベを持ち歩かなあかんでぇ」と脅されからじゃない。
喫煙者に対する世間の苛めに耐えれなくなったからでもない。
当時、喫煙はやっと病気と認定され保険で治療できるようになった。喫煙者はめでたく病人の仲間入りをした。
普通、病人はいたわってもらえる。が、喫煙者だけは全く反対で、苛めて苛めて苛めぬかれる。喫煙しない人にとって、煙草は迷惑至極であり、病気なんてとんでもない話で、保険を使うだけで許せないようだ。
依存症は精神病だ。精神病が根性で克服できれば精神科医は全員失業だ。煙草を止めるというのは、そう簡単ではないし、病人はもっと温かい目で見て欲しい。
ちょうどその頃、煙の全く出ない「嗅ぎ煙草」というのがJTから発売された。煙草の葉をカートリッジに詰めてあって、直接吸う。燃やさないのでタールも一酸化炭素も出ないので、気管支に優しい煙草だ。それなりに喫煙感覚もある。
何しろ煙が出ないので、どこでも遠慮なく吸える。 世間様の苛めに苦しんでいた僕はそれに飛びついた。これぞ嫌煙ファシズムに対抗する唯一の手段だ、と、かなり喜んだ。
ところが、僕の考えることなんぞ皆が考える。瞬く間に品不足になってしまった。そうなると買い占める奴が出てきて、ますます入手できない。手持ちが残り少なくなるに従って怒りフツフツと沸いてきた。喫煙者の最大の味方であるはずのJTが、あろうことに喫煙者を苛めてるのだ。大きな怒りは喫煙要求をも抑え込む。
そんなことするんなら吸ってやるものか、と決意して2年が経った。残念ながら、まだ、煙草がところどころで頭に浮かぶ。
煙草を吸ったときのニコチンとタールが肺胞に浸み込む快感は、忘れることなどできないのだ。夢にも出現する。
ただ、ただ、JTに対する怒りが、やせ我慢の原動力になっているのだ。これからも吸ってやるものか。決意は固いぞぉ。
それでも、死ぬ前には1本だけでも吸いたい、などと言う邪な考えがある限り、一生禁煙中だ。


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