MAN会報
COPD
(chronic obstructive pulmonary disease)
について


理事 宮武 明彦

はじめに
 町中で、酸素ボンベをキャリーで引っ張っている人を見かける機会が、以前より多くなった。日本では長らく、癌、脳卒中、心臓病、糖尿病の4大疾病が注目されてきたが、現在では、これらに次ぐ疾患として、COPDを挙げるべきとの議論が高まっている。事実、WHOの報告によれば、1990年における世界のCOPD死亡順位は6位であったが、2020年には3位になると予測されている。  一方、わが国のCOPDの患者数は500万人を越すと考えられているが、以前の喫煙率が50%を越えていたこと、高齢者の増加が著しいことを考えると、今後の患者数はさらに増加すると推定されている。
 2000~2001年に実施されたNICE(Nippon COPD Epidemiology)研究により、COPDの有病率は8.6%、40歳以上は約530万人、70歳以上では約210万人が罹患しているという結果が得られている。このNICE研究がなされるまでは、日本の患者数は20数万人と報告されていた。このような誤差を生じた理由としては、COPDは高齢者に多発するため、多少、息切れや呼吸困難を自覚しても、加齢による症状と自己判断し、重症になるまで医療機関を受診する人が少なかったためと考えられている。事実、現在においても、COPDの定期治療を受けている患者は34万人程度とされている1-2)。

病 態
 日本呼吸器学会が2009年に発表した「COPD診断と治療のためのガイドライン 第3版」によれば1)、COPDは、非可逆的な気流閉塞を特徴とする疾患であり、ほとんどが中高年以上の長期喫煙者に発症する。肺胞の破壊を伴う肺気腫と、炎症およびリモデリングを伴う末梢気道の狭窄性病変が、様々な割合で組み合わさって起こる。Chung KF.3)らによるCOPD発症原因によれば(図1)、外因性因子と内因性因子が合わさり、数十年の時を経た病理学像として、末梢気道の閉塞、肺気腫、分泌腺の過形成が起こり、咳、痰、労作時の呼吸困難などの症状が、さまざまな程度で顕在化する。


 COPDの最大の危険因子は喫煙である。しかし、全ての喫煙者がCOPDを発症しないことから、喫煙感受性を有する遺伝素因の存在が考えられている。特に、α1−アンチトリプシン欠損症の患者では、喫煙による呼吸機能(FEV1)の経年的低下速度が非常に速く、死亡率も高いことが知られている。但し、日本人にはこの遺伝子欠損症の患者は少なく、日本人を対象とした候補遺伝子としてはcytochrome P-4501A1、βdefensine-1、IL-4、IL-13、chloride channel calcium activated 1などが報告されているが、確立されたものはない4)。

診断と検査
 慢性の咳、喀痰、体動時の呼吸困難などが認められ、気管支拡張薬吸入後のスパイロメトリー(呼吸機能検査)において、1秒率{FEV_(1秒量)/FVC(努力性肺活量)}が70%未満であればCOPDと診断できる。但し、 X線画像検査や呼吸機能検査、心電図などにより、気流閉塞をきたす他の疾患を除外することが必要である。
 COPDは呼吸機能検査を省略して診断をすることはできない。また、呼吸機能検査 (スパイログラム、フロ−・ボリュ−ム曲線) 以外に、パルスオキシメーター(酸素飽和度)、動脈血ガス分析、運動負荷試験(6分間歩行試験)、および画像検査として単純胸部レントゲン撮影が必要であるが、早期の気腫性病変を検出するためには胸部CT検査が有用である。

治 療
 COPDは長年、治療法のない疾患と考えられていたが、禁煙の実行と新たな吸入気管支拡張薬の導入により、2004年、米国胸部疾患学会(ATS)と欧州呼吸器病学会(ERS)は、「予防可能で治療可能な疾患」という共同声明を発表した。
 このように、COPDの最も重要な治療法は禁煙であり、禁煙は新たな呼吸機能の低下を抑制し、死亡率を減少させる効果的、かつ経済的な方法である。
 薬物療法として新たに導入された長時間作用性抗コリン薬(long-acting anti-muscarinic agent:LAMA,スピリーバィ)は、M3受容体と長時間結合することにより、気管支平滑筋を弛緩させ、その作用を24時間持続させることにより、肺の過膨張を改善し、運動耐容能の向上させることが明らかになっている。また、4年に亘る使用継続(UP-LIFT study)により、呼吸機能の経年低下の抑制と、死亡率の減少が認められている5)。
 一方、長時間作用性β_ 刺激薬/吸入ステロイド配合薬(long-acting__ agonist : LABA/inhaled corticoid : ICS,アドエアィ、シンビコートィ)の継続使用は、呼吸機能や運動耐容能を改善し、その結果、呼吸困難感を軽減することが報告されている。しかし、3年間のアドエアィ継続使用 (TORCH study) の研究によれば、呼吸機能の経年低下の抑制は認められたが、死亡率の減少効果は認められなかった6)。
 この他、在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy:HOT)は、1985年に健康保険適応が認められ、動脈血分析(PaO_) 60Torr以下を示す慢性呼吸不全COPD患者の標準的治療となっている。このHOTの導入によって、患者の生命予後の改善が期待できる。 
 これ以外の 非薬物療法としては呼吸理学療法(呼吸リハビリテーション)があり、中等症以上の患者を対象として、筋力低下と体重減少の抑制を目標に実施されている。また、重症COPD患者に対しては、外科療法として、肺容量減量手術(lung volume reduction surgery:LVRS)や、肺移植が行われている。
 さらに、COPD患者には、肺炎予防のための肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンの予防接種が必要である。感染防止の意味で、できれば家族や介護者もインフルエンザの予防接種をすべきと考えている。

全身併発症および合併症
 以下の合併症が報告されている。
1)骨粗鬆症:COPDは呼吸困難による行動範囲の制限さらに運動適応能の低下、その結果、食事摂取量の減少や体重減少によって骨粗鬆症の発生頻度が同年代の人達に比較して極めて高い。
2)心不全:長年の喫煙習慣によって、動脈硬化が進展し、高血圧、冠動脈疾患、不整脈を併発している。さらに中等症以上では右心不全を合併している患者が多い。
3)抑うつ症:COPDの患者は軽症の頃から抑うつ症状を併発している患者が多い。
4)消化性潰瘍・胃食道逆流症:テオフィリン製剤、β_刺激薬による胃酸分泌亢進作用による。また、経口ステロイドは潰瘍形成を起こしやすい。
5)肺高血圧症:動脈血のPaO_ 60Torr以下が持続すると、肺高血圧が増悪し、さらに右心不全へと進展する。
6)肺炎、気胸:非常に併発し易い合併症である。
7)肺がん:COPDは肺がんの危険因子の1つである。また、65歳以上の肺がん患者の30%はCOPDを合併している。
 このようにCOPDの病状が進行すれば、肺のみならず全身疾患として対応する必要が起こる。

結 語
 COPDの発症を予防するためには、喫煙を開始しないことに尽きる。そのために学校教育において喫煙防止教育を徹底し、校内の禁煙化のみならず、家庭や社会環境においても喫煙を禁止する教育と啓発、また、環境整備が急がれる。

【文献】
1) 日本呼吸器学会2009年:COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン 第3版 株式会社メディカルレビュー社
2) 日本医師会雑誌 COPDの診療 update 2010:138;2453-2528
3) Chung KF. et al.: Multifaced mechanisms in COPD. Eur. Respir J 2008:31:1334-1356
4) 日本内科学会雑誌 COPD:診断と治療の進歩 2012:101;1529-1652
5) Tashkin DP, et al: A 4-year trial of tiotropium in chronic obstructive pulmonary disease. N Engl J Med 2008:359;1543-1554
6) Calverley PM, et al: Salmeterol and fluticasone propionate and survival in chronic obstructive pulmonary disease. N Engl J Med 2007:356;775-789


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