MAN会報
咳喘息(Cough Variant Asthma:CVA)
について


理事 宮武 明彦

1.はじめに
 咳喘息については、何度か日本アレルギー学会にて報告をしておりますので、そのデータを中心に述べてみたいと思います。
 慢性咳嗽を来す代表的な原因疾患としては、@ 気管支喘息、A 咳喘息、Bアトピー咳嗽(海外では咳喘息に含まれる)、 C 副鼻腔気管支症候群(後鼻漏症候群)、D 逆流性食道炎、E ウイルス感染後慢性咳嗽、などがありますが、当院に咳(cough)を主訴として来院される患者さんの病名を十数年前と比較すると、典型的な気管支喘息(Bronchial Asthma:BA)が減少し、咳喘息の患者さんが増えています。
 この咳喘息との鑑別が必要な疾患としては、肺結核、肺がん、慢性気管支炎、心臓喘息などがありますが、特に、大阪は全国一、新患結核患者の多い都市のため、若い世代の咳嗽患者に対しても、問診のみならず必ず胸部レントゲン撮影をすることを勧奨しています。
2.咳喘息は増加している
 咳喘息は1979年にアメリカの著明な医学雑誌New England Journal of Medicine にW.M.Corraoらが初めて報告した新しい疾患概念です。
 私が大阪府立羽曳野病院に勤務していた頃、この疾患の発生頻度を検討するために、1985年4月から1986年3月までの1年間、羽曳野病院のアレルギー内科を受診し、気管支喘息の診断を受けた404名の患者さんのうち、Corraoらが提唱した診断基準、すなわち、@ 喘鳴、呼吸困難を伴わない4週間以上の咳嗽 A 呼吸機能検査(フローボリュウム・カーブ)正常、B 胸部理学的所見および胸部X線所見正常、C 小児喘息および気管支喘息の既往歴がない、D 心疾患の合併あるいは既往歴がない、など以上5項目を満足する症例を検討したところ、38名存在しました。Corraoらは咳喘息の確定診断に気道過敏性検査が必要であることを報告していましたので、さらに、アストグラフ法を用いて気道過敏性の検討を行ったところ、その頻度は喘息症状を有する患者さんの約9.4%を占め、性別では女性に多い傾向が認められました。
 当院開業後も咳喘息の患者さんが増加しているように感じていましたので、20年後の2005年9月から2006年8月の1年間に、宮武内科を受診された新患患者さんを対象として、同じ診断基準にて検討を行いました。その結果、気管支喘息が疑われた269例のうち、76例が咳喘息と診断され、発生頻度は28.3%と、20年間で約3倍に増加していることが判明しました。
3.臨床的特徴
 さらに、新患患者で咳喘息と診断された76名の患者さんのうち、日本呼吸病学会が発表した「2005年版 咳嗽に関するガイドライン」の、8週間以上続く咳嗽という厳しい判定基準を満足した患者さんは49名でした。
 このような厳しい基準を用いた理由は、咳喘息の診断精度を高めて、その臨床的特徴を明らかにするためでありました。この49名の検討の結果としては、@ 咳嗽発症の多発年齢層:40歳代24.5%、30歳代と50歳代各々20.4%、A 性別:女性が75.5%と多発、各年代層とも女性患者が多数を占める、B 来院までの咳嗽期間:8~16週が約50%を占め、一年以上の症例も30%以上認められる、C 以前に慢性咳嗽の既往を認めた患者:98%、D 咳の多発時間帯:就寝時から夜中51.0%、昼間14.3%、一日中8.2%、E アレルギー疾患の合併:57%に合併あり、内訳は、アレルギー性鼻炎32.7%、花粉症24.5%、F アレルギー疾患の家族歴を認める者:40.8%、Gアルコール飲用で咳が誘発される患者:6.1%、H 喫煙患者:2%、I ペット飼育者:30.6%、でした。
 検査では、@ 血清IgE:133±253IU/ml(正常170以下)、A末梢血好酸球数:3.8±3.4%(正常6.0%以下)、B皮膚アレルギーテスト(skin prick test)陽性:86%であり、アレルゲン陽性頻度が10%以上の項目は、家ダニ61.2%、ハウスダスト42.9%、スギ42.9%、カモガヤ34.7%、ブタクサ20.4%、カンジダ18.4%の順序でした。
4.診断
 咳喘息の診断に際しては、先のCorraoらの論文の診断基準に従って診断を進めています。特に、注意を払うのは、聴診を充分に行っても呼吸音に異常が認められないこと、呼吸機能検査(フローボリューブ・カーブ)の数値が正常であることなどですが、新しい検査として、呼気中一酸化窒素(eNO)値が高値を示さないことなども指標となります。
 また、独立行政法人国立病院機構福岡病院アレルギー科の下田照文部長との最近の共同研究結果より、高感度CRPの値が気管支喘息患者よりも低いことも気管支喘息との鑑別の指標になると考えています。  当院を受診される咳喘息の患者さんの殆どは、内科あるいは耳鼻科に受診したものの、咳症状が改善しないために来院される場合が多いので、前医でどのような治療を、どの程度の期間、実施していたかについて注意深く問診をした上で、治療の参考にしています。
5.治療
 咳喘息は、基本的に気管支喘息と同じ治療を行わないと治療効果は期待出来ません。反対に、一般の鎮咳剤、去痰剤、抗生物質などが全く効果を示さないことが、咳喘息を疑わせる重要な要因ともなります。当院では、充分な吸入ステロイド薬を投与しますが、咳症状が頑固な場合には、抗ヒスタミン剤、抗ロイコトルエン拮抗薬なども処方いたします。また、咳嗽の程度が非常に強く、吸入ステロイド薬にも反応が悪い場合などには、経口ステロイド剤を数日間処方することもあります。しかし、殆どの症例は吸入ステロイド剤でコントロールが可能です。
6.おわりに
 日本においては、咳喘息の患者さんの30%は5年以内に気管支喘息に移行すると報告されています。確かに禁煙が出来ない症例は、気管支喘息に移行する比率が高いと思いますが、適切な治療を医師の指導通りに実行した患者さんの多くは、著明な改善を認めています。一方、咳が再発したり、風邪に罹った時などには、咳症状が軽くても吸入ステロイド薬を直ちに使用することにより、再発を予防出来ると考えています。
 咳喘息、気管支喘息の原因である気道過敏性亢進に関しては、その原因として様々な候補遺伝子が報告されていますが、現時点では、研究道半ばで根本治療が確立していない状況です。今後の研究成果が期待される所です。

【参考文献】 W.M. Corrao et al., Chronic Cough as the sole Presenting Manifestation of Bronchial Asthma N Engl J Med 1979; 300:633-637


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