MAN会報
食物礼賛 その6
―胃腸への対応 ―


理事 藤田 きみゑ

 あの未曾有の災害、東日本大震災が起こったのは昨日のように思われるのに、はや10ヵ月が過ぎようとしています。寒い冬を迎えられた震災被害の皆様に心よりお見舞いを申し上げます。今年は壬辰の年、皆様にとって大過なき良きお年であることを願います。
   さて、お正月には暴飲暴食が付き物で、ついついご馳走を食べ過ぎます。お酒を飲み過ぎたり、はたまたお餅やミカン、甘い物は別腹とばかりにスィーツなどを摂り過ぎたりと胃腸に負担をかける季節です。また特に、糖尿病の患者さんは食べ過ぎによる血糖値の変動が顕著になる時期でもあります。
 ひと昔前には胃ケイレンや急性胃腸カタルという病気がありました。今ならさしずめ胆石発作や急性胃粘膜病変(AGML)、胃十二指腸潰瘍、ウイルス性胃腸炎と言ったところでしょうか。この胃ケイレンや胃腸カタル、胃十二指腸潰瘍の症状改善には、昔から梅肉エキスが経験的に用いられていました。胆石発作を除いて、AGMLや胃十二指腸潰瘍の原因はヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori:H.p.)という原虫であることが判っていますので、この原虫やウイルスの退治に梅肉エキスが効くことを知っていた古人の知恵は素晴らしいと思うのです。というのも、私は梅肉エキスの抗H.p.ならびに抗ウイルス効果を調べるために、2002年、東京の三菱BCLという検査会社に依頼して、H.p.に対する梅肉エキスの効果を証明し、その結果が日本消化器病学会誌に掲載されたからです。その効果といえば、小さじ3分の1程度の梅肉エキスを約200ccの微温湯に溶いた液は、H.p.の99.7〜99.9%を死滅させるというものでした。しかし、これは試験管内の結果なので、実際に人体においても同様の効果が得られるのかという証明が必要でした。そこで当時、H.p.の研究をされておられた中島重美先生に依頼し、人体でも一定の効果が得られることを証明したのです。(Helicobacter , 2006年)
 現在、胃潰瘍やAGML、ならびにH.p.保菌者には抗生物質を大量に投与する除菌療法が医療保険適応で行われています。この療法はH.p.を100%退治する完治療法として有名ですが、H.p.は広く自然界に存在し、完全に火が通っていない食事や清潔でない水、また、H.p.保菌者とのディープキスなどで容易に再感染を起こすため、除菌療法後の再感染予防のためにも梅肉エキスは有効と考えられたのです。

1.食事の注意点

 胃腸の調子の悪い時は、お腹が空いた時に食事を摂るようにして、一定の時間毎に無理に食事を摂る必要はありません。特に、夜眠りにつく前には夜食などを摂らずにお腹を軽くすることが大切です。同時に、肉食・卵の過食、フライ物、揚げ物、炒め物、また、甘い物、ジュース類、清涼飲料水、コーラ、果物の摂りすぎは控えましょう。アルコールも飲んで美味しいと思わない時には避けるべきです。また、タバコは消化管の血流を阻害するため、喫煙も控えましょう。

2.各症状の対処法

胸やけ:昔の塩辛い梅干に番茶を200cc注ぎ、梅干を潰して飲みます。大根おろしに醤油を少々かけて食べてもよく、また、焼き昆布をよく咬んで飲み下したりします。炒ったすり胡麻に少し塩味を加えたものをよく咬んで飲み下してもいいようです。何時も胸やけをする人は胃酸分泌が多いか逆流性食道炎のある方なので、胃酸を分泌させ易くする油分の多い食事を避けて、胃酸分泌抑制剤を処方して頂く必要があります。
吐き気:梅干し番茶、醤油番茶または薄い玄米スープ(玄米を洗ってきつね色にゆっくりと弱火で炒ったもの1合に対して水7合を加え、ゆっくりとおかゆ状にして裏ごしにしたものに水を加え、スープ状にして自然塩を加えたもの)を飲ませます。
胃部の痛み:胃部の鈍痛などには梅干し番茶、または梅肉エキスを番茶で溶いて飲ませ、生姜湯をタオルで絞って胃部を温めます。しかし、高齢の方で胃部に急な痛みのある時は、胃腸の病気以外に心筋梗塞を考えておかねばなりません。対症療法で良くならない時には医療機関の受診が必要です。この他、若い方でも虫垂炎の初期は胃部の痛みを訴えることが多いので、食べ過ぎなど身に覚えのない時の急な痛みはこのような病気も考えておく必要があります。
食欲不振:濃い玄米スープを飲ませます。病気が長引き、食欲が無く、のどが渇く時には薄い玄米スープに薄い塩味を付けてよく咬みながら飲ませます。また、玄米餅(白餅では効果がない)を焼いて柔らかく煮込んだお雑煮を食べさせます。玄米スープ以外にそばスープ、粟(あわ)がゆなどでも同様の効果があります。飲み物としては、ハブ草(決明子)とゲンノショウコを濃く煎じて飲ませたり、梅肉エキスを飲ませます。しかし、弱った病人に食欲が出てきたからといきなり色々な食事を与えると、またぶり返すことがあるので、病人の体調を考えながら少しずつ量を増やして下さい。
下痢:梅肉エキスを1日数回に分けて飲みます。小児にはハチミツや黒砂糖で甘みを付けて薄めてジュースのようにして飲ませます。また、白花ゲンノショウコを濃いめに煎じて飲ませます。軽い下痢の場合には、剥いたりんごと人参をそれぞれ下ろし金で下ろし、りんごと人参を1対1の割合で合わせたものを客用茶碗1杯程度食べさせると効果があります。下痢がひどい場合には脱水を起こすので、特に小さい子供や老人には脱水を起こさないように薄い塩味の湯冷ましや薄い醤油番茶を頻回に飲ませる必要があります。また、善玉腸内細菌を養うために、わかもとやビオフエルミンなどの常服もよいでしょう。
便秘:小豆と板昆布を塩味で煮合わせたものを毎日、お椀1杯程度よく咬んで食べます。また、薄い塩味のゆで小豆もよく咬んで食べます。常習便秘には玄米ご飯にすり胡麻をたっぷりかけて、ゴボウのきんぴらを副食にこれもよく咬んで食べます。通常の副食には油あげ、豆腐、高野豆腐、豆乳などの大豆製品を多く摂るようにします。また、大根、蓮根等の根菜類、ひじきなどの海草類、こんにゃく類を常食するようにします。飲み物としては、ハブ草(決明子)を濃く煎じたものを1日2、3回、あるいは梅肉エキスを1日1回程度服用します。
腹満感:ガスのためお腹が張って苦しい時は、からし生姜湿布をします。この湿布液はひね生姜を皮ごと下ろしたもの盃2杯と日本からしを同量、布袋に入れ、約1リットルの水とともに煮ます。ゴム手袋をはめてその煮汁にタオルを浸し、軽く絞ってお腹に当てて温め、5分毎に取り替えながら約30分温めます。同時に、ハブ草とゲンノショウコの濃い煎汁を飲ませます。腹満感はガスだけでなく腹水の貯留でも起こりますので、間違わないようにして下さい。ちなみに、腹水による腹満感はメントール湿布で楽になります。洗面器1杯の熱い湯にメントール5cc程度を加え、タオルを浸して絞ったものをヤケドをしない程度の温度に冷まし、何枚もお腹に重ねてその上から乾いたバスタオルで覆い、さらに薄いビニールで覆って約20分程度お腹を温めます。一時的ですが、患者さんは楽になるようです。
シャックリ:たかがシャックリですが、年寄りの長時間のシャックリは心不全を来すこともあり油断はできません。このシャックリには柿のヘタの干したもの10個に200ccの水を加えて、3分の2になるまで煎じて飲ませます。柿のヘタはシャックリ止めの妙薬で、安定剤を筋注し、舌を引っ張るなどの刺激で止まらない頑固なシャックリでも、この方法で止まった経験があります。柿のヘタが無い時には生姜3gを下ろして、熱湯を加えて飲みます。柿のヘタは漢方薬屋さんで求められますので、よくシャックリの出る方は常備されればよいでしょう。頑固なシャックリを止めるとされる漢方薬の柿帯湯(シテイトウ)は、この両方の材料を用いたものです。このような材料のない時には、青菜の汁か蓮根の絞り汁のようなアルカリ性のジュースを盃2〜3杯飲み、同時に大きくお腹で呼吸をするか、少しの間、呼吸を止めると止まることがあります。シャックリでお困りの方、是非ともお試し下さい。

滋賀県立大学名誉教授
【参考文献】赤本.東城百合子 自然療法 あなたと健康社


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