MAN会報
気管支喘息の遺伝要因の研究最前線

理事 玉利 真由美

 アレルギー疾患は遺伝的な素因と環境要因とが複雑に関与して引き起こされる炎症性疾患と考えられています。我々の研究室ではこの遺伝素因を調べることにより、気管支喘息の病態を明らかにして治療や予防に役立てようとしています。ヒトはお母さんから半分、お父さんから半分の遺伝情報を受け取りこの世に生まれてきます。この遺伝情報は4文字の遺伝暗号=A,G,C,Tで書かれています。ヒトではこの遺伝暗号は99.9%同じです。しかし隣同士のヒトで遺伝暗号が違う部分が存在することがわかってきました。この違いは遺伝子多型とよばれ、それらが病気へのかかりやすさや、治療薬の効果や副作用の出やすさ等に関わると考えられています。喘息になりやすい遺伝暗号の違いを見つけるのが私達の仕事です。沢山の患者さん、そして沢山の喘息ではない方たちのサンプルを集めて、遺伝暗号の違いの頻度を調べます。大体55万カ所の遺伝暗号が違う部分を調べて、2011年に日本人の成人の気管支喘息の遺伝要因に関わるゲノムの場所を特定しました。その結果、風邪などの感染症に働く遺伝子が存在している場所や、免疫反応を押さえる働きのある遺伝子が存在する場所や、アレルギー炎症を発動する役割のある遺伝子が存在する場所などが同定されました。そのうちの1つにTSLPという遺伝子が含まれていました。TSLPは風邪をひくと気管支の上皮細胞(最も表面にある細胞)で作られ、アレルギーの炎症を起こす免疫を誘導します。このTSLPの誘導は実際の気管支喘息治療に使用されるグルココルチコイド(吸入ステロイドの成分)と長時間作用性β刺激薬により強く抑制される事もわかりました。今回同定された他の領域にも、このような喘息治療の標的遺伝子が含まれていないか、今後の研究が期待されます。この研究には宮武明彦先生、岐阜の宮川武彦先生、京都大学や筑波大学の呼吸器内科の先生をはじめ、非常に多くの患者さまにご協力をいただきました。この場でご協力をいただきました方々に心より感謝を申し上げます。これらの知見はNature geneticsという遺伝医学の雑誌に報告され、世界からの知見とも合わせ、気管支喘息の病態の理解に役立っています。これからも患者様の一言一言に耳を傾け、それらを研究に生かして行きたいと考えております。ひきつづきいろいろとご指導いただければ幸いです。
(理化学研究所 ゲノム医科学研究センター 呼吸器疾患チーム・リーダー)
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