MAN会報
アレルギーはなぜ増えているのか

国立成育医療研究センター研究所 免疫アレルギー研究部
 松本 健治

1 遺伝因子と環境因子
 アレルギー疾患の発症には遺伝的素因(いわゆる体質)と、環境因子が深く関わっていると考えられています。日本人の遺伝的素因がこの20〜30年で急激に変化することは考えにくいので、主として環境因子の変化が近年のアレルギー疾患の増加に関与していると考えられています。
 胎児は母体にとっては半分自分ですが半分は非自己(他人)です。妊娠の維持には、この半分自分ではない胎児や胎盤を約10ヶ月間拒絶しないようにするための特別な仕組みが必要です。一方、胎児にとっても母親は非自己であり、母親の組織(子宮粘膜)を拒絶しないようにするための特別な仕組みが必要です。その一つが、インターフェロンγと呼ばれる蛋白質を作らなくする事です。そして、この状態が実はアレルギーを引き起こす環境なのです。ですから、赤ちゃんは皆、アレルギーになりやすい体質で生まれて来ると言えます。そして赤ちゃんが生後半年ぐらいの間に何度も風邪をひいたり、あるいは不衛生な環境で育つと、はじめてインターフェロンγが作られやすい体質になり、アレルギーの発症から逃れられると考えられています。この事を衛生仮説と言います。今の日本は少子化とともに、行き過ぎているほどの清潔志向のために、赤ちゃんが生まれた時のアレルギー体質をそのまま引き継いで成長し、アレルギーになるのはある意味当然とも言えます。

2 自然免疫
 生物の一生は他の生物との戦いです。下等な生物(たとえばハエなどの昆虫)では、体の表面にトールとよばれる受容体があり、それを介してカビなどを感知して、抗菌物質を作って対抗する仕組みがあります。このような仕組みを自然免疫と呼びます。全く同じような仕組みはヒトなどの高等生物にもありますが、高等生物では、一度体に入ってきた微生物に対する記憶を残して、次回からの感染を防ぐ仕組み(獲得免疫と呼びます)もあります。近年の研究から、この微生物に対する記憶を残す仕組みが、実は同時にダニ抗原やスギ抗原に対するアレルギーを防ぐことが明らかになってきました。つまり、衛生仮説が本当に成り立っている事を示す仕組みの全体像がほぼすべて明らかにされてきたのです。しかし、この仕組みを喘息の治療に使うためにはまだまだ越えなくてはならないいくつもの壁がある事も事実です。今後はアレルギー疾患の発症予防や治療のために、この研究が進む事が期待されています。


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