MAN会報
Churg-Strauss症候群について
(Churg-Strauss Syndrome:CSS)


理事 宮武 明彦

はじめに
 Churg-Strauss症候群(CSS)はアレルギー性肉芽腫血管炎(allergic granulo matous angitis:AGA)とも呼ばれ、1951年にChurgとStraussにより初めて報告された病気であります。気管支喘息に続発する症候群であり、発熱と好酸球の著明な増加を伴います。私が大阪府立羽曳野病院(現:大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター)に勤務していた1980年代には、この病気を発症した喘息患者さんに遭遇することは稀でした。しかし後述するごとく、この疾患は間違いなく増加傾向を示しておりますので、この病気について少し解説を加えたいと思います。

概念と疫学
 CSSは全身の中・小動脈以下の細い小径血管に血管炎を発症し、病理組織的には壊死性血管炎と血管壁および血管周囲の好酸球浸潤を伴う肉芽腫性病変を特徴とします。発症頻度に男女差はなく、好発年齢は40〜50歳ですが、いずれの年齢層においても発症し、人口100万人当たり2.4〜6.8人と稀な病気であると考えられてきました。しかし、1993年の厚生省難治性血管炎調査研究班による全国疫学調査では、1年間のCSS患者数は450名と推定されたものの、2010年には1800名に達していると考えられ、喘息患者5000人に1人の割合で発症していると推定されています。さらに、神奈川県にある国立病院機構相模原病院・臨床研究センター・喘息研究室長 谷口正実先生によれば、欧米の報告とは異なり女性患者が増加してきていること、60〜70歳代の高齢患者が増えてきていること、また、重症喘息患者の経過中1〜3%がCSSを発症する可能性があることを指摘し、患者さんを丁寧に診ることが重要であると指摘しています。

臨床像
 主要な臨床所見は、@喘息あるいはアレルギー性鼻炎の存在 A好酸球数の著明な増加 B血管炎による症状;発熱(38℃以上が2週間)、体重減少(6kg以上/6ヵ月以内)、多発性単神経炎、消化管出血、皮疹、紫斑、多関節痛、筋肉痛、筋力低下などの症状の出現などであります。臨床経過としては、@とAが先行し、Bが続発します。従来からCSSは3つの段階に分かれ、最初の段階では喘息、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎と中耳炎などを発症します。第2段階になると喘息が徐々に悪化して好酸球数が増え、一部の症例では好酸球性肺炎が見られます。そして第3段階として第2段階から数年後に、はっきりとした上記の血管炎の症状が出現します。
 CSSの病態で重要なものを頻度順に挙げると、@気管支喘息100% A下肢・上肢の多発性単神経炎99% B鼻・耳・目の好酸球性炎症90% C消化管症状(潰瘍、虚血性腸炎、出血)83% D肺病変81% E心臓の病変(心筋炎、心膜炎、心不全、不整脈)73% F皮膚症状(紅斑、点状出血、蕁麻疹、潰瘍形成、腫瘤形成)68% G腎障害57% H関節痛43% I肝障害20% J中枢神経障害18%等すべて血管炎による傷害であります(相模原病院2011年1月集計による)。このように全身の臓器に好酸球が浸潤して、多彩な臨床症状を示すのが特徴です。
 宮武内科におけるCSSの患者さんを最も困らせている症状は、多発性単神経炎による1日中続く下肢のしびれと神経痛です。また、生命予後に関係した症例では、大腸・小腸からの消化管出血と心不全があります。しかし、残念ながら現在のところ、どのような喘息患者さんがCSSを発症するのかについては、遺伝的背景因子を含めて明確な答えはありません。学会報告では、重症の喘息患者さんに多いといわれていますが、私の印象では中等症以上の喘息で、予測もしていなかった患者さんの発症が多いように思われます。

診断
 CSSの診断基準には1990年の米国リウマチ学会の「Churg-Strauss症候群分類基準」と本邦の1998年厚生労働省難治性血管分科会の診断基準があります。本邦においては、生検による組織学的所見が得られた場合AGAと診断し、臨床症状のみで診断する場合はCSSと診断することになっています。臨床症状のみで診断する理由は、CSSは病気の時期が前駆症状期、好酸球増多期および全身性血管炎期の3期に分けられるため、生検を実施しても病期によって組織診断ができないことが多く、また、生検が比較的簡単な消化管、皮膚や肺を除けば、傷害を受けている臓器の生検そのものが困難であり、確定診断のために時間を浪費するよりも、後遺症障害を最小限にするために臨床所見で診断を行い、でき得る限り早く治療を開始することが望ましいからです。
 この病気が疑われた時に必ず行われる血液検査があります。血管炎に特徴的な自己抗体である抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic anti- body :ANCA)です。以前はこの検査の陽性率は70%といわれていましたが、最近の報告では、30%程度しか陽性反応を示さないことから、診断能が低い検査と認識する必要があります。ちなみに、当院に通院中のCSSの患者さんでMPO-ANCAが陽性反応を示した人は1名のみです。

治療
 CSSの診断がつけば、速やかに経口あるいは静注によるステロイド(副腎皮質ステロイド)療法を開始します。ステロイド治療に抵抗性が認められた場合には、シクロフォスファミド等の免疫抑制剤の併用を行いますが、この両者によっても効果が得られにくい症例に対しては、近年、相模原病院の谷口らによって確立された免疫グロブリン療法(IVIG:intravenous immunoglobulins)を追加することになります。

おわりに
 CSSの患者さんが増えてきた理由は不明ですが、考えられる理由としては、第1に診断基準が整備されたこと、第2にこの病気の認知度が高まったこと、第3に、以前は喘息発作を抑えるために経口や静注によるステロイド全身投与が入院時や外来にて頻繁に行われていたのですが、現在では、90%以上の喘息患者さんに対して吸入ステロイド薬のみで発作をコントロールすることが可能となり、ステロイドの全身投与を行う必要がなくなったことなどが挙げられます。
 現在ではCSS発症を予測することは出来ないので、血液検査で好酸球数がいつも10%を超えている患者さんには、定期的に好酸球数を観察することが重要であると考えています。特に、中等症以上の患者さんで、いつも血液検査で好酸球が高いですねと主治医から告げられている人は、この検査の重要性を認識していただく必要があります。また、喘息症状と一見、関係がなさそうな体の異常が出たときには、他科の先生に相談に行く前に、主治医に直接相談をすることが大切です。というのも、私の場合、好酸球数の高い喘息患者さんには、いつもこのCSSを念頭において診療を行っているのですが、残念ながら喘息とは関係ない症状と自己判断されて他科を受診され、後から入院されたとの報告を受けることも何回か経験しているからです。この病気の治療は非常に難渋することが多く、呼吸器科の先生でもCSSはあなたが初めての患者ですというドクターがほとんどですので、多数例を経験されている先生の下で、入院ならびに精査治療することが重要であると考えています。私も入院が必要なCSSの患者さんに対しては、日本で最も多くのCSSを診療されている相模原病院の谷口正実先生と相談しながら、その患者さんのベストの入院先を選択しています。
【参考文献】
谷口 正実 : アレルギー2010.59:923-931
釣木澤尚実: ア レルギー2011.60:145-155


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