MAN会報
新型インフルエンザH1N1
(メキシコ・ブタ・インフルエンザ)


理事 宮武 明彦

 2009年春にメキシコで新型インフルエンザH1N1(SwineInfluenza :ブタ・インフルエンザ)による死亡者のニュースが世界中を駆け巡りました。このニュースにより、トリ・インフルエンザの脅威に対応して新感染症法を制定し、抗ウイルス薬の備蓄などを行っていた日本政府や、海外に事業展開していた日本企業は、いよいよ新型インフルエンザが登場したと身構えたものです。 ブタ・インフルエンザ・ウイルスは、2009年2月にメキシコで誕生した全く新しい型のインフルエンザであり、日本においても5月の連休前後から相次いで患者の報告がなされました。また、メキシコ、アメリカでの感染後の死亡例が次々と発表されたため、日本中が半ばパニック状態となりました。うがい薬やマスクが品切れの状態となり、大阪御堂筋線の地下鉄でも、70%以上の乗客がマスクに顔を包んでいた姿は記憶に新しいところです。
 このブタ・インフルエンザ・ウイルスは、もともとメキシコで毎年流行していたメキシコ・ブタ・インフルエンザ・ウイルスがトリとヒトのインフルエンザ・ウイルスと遺伝子再集合(交じり合った)した後、さらにユーラシア・ブタ・インフルエンザ・ウイルス(H1N1)の感染を受けるという合計4個のウイルスが再集合した全く新種のインフルエンザ・ウイルスであり、21世紀最初にパンデミック(世界的流行)を起こしたインフルエンザ・ウイルスとして歴史に名前を残すことになりました。
 しかし、1918年〜1920年に全世界で流行したスペインかぜによる死者は4000万人に上りましたが、抗生物質が使用可能な時代になってからのパンデミックである1957年のアジアかぜ、1968年の香港かぜによる死者はその20〜40分の1に減少し、また今回、初めて抗インフルエンザ薬であるタミフルィ(オセルタミビル)およびリレンザィ(ザナミビル)が多数の患者に使用されたブタ・インフルエンザによる全世界の死亡者数は約18000人、日本においては約150名と激減しています。
 この全世界における死亡者数が少なかった理由としては、ウイルスの毒性が低かったことが幸いした訳ですが、圧倒的に日本における死亡者数が少なかった理由としては、診療体制の充実により各医療機関にて新型インフルエンザの診断が早期になされ、それに伴い、直ちに抗インフルエンザ薬の投与がなされたことなどの、わが国における医療水準の高さが挙げられます。
 このインフルエンザの診断には、数年前からインフルエンザ簡易診断キットが用いられるようになっています。このキットは外来に高熱を発して来られた患者さんから鼻汁を採取した後、15分程度でインフルエンザA型とインフルエンザB型の診断をすることが可能です。しかし、確定診断の精度は70%程度ですので、本物のインフルエンザであっても約30%の患者さんに陰性の結果が出てしまいます。特に、ブタ・インフルエンザA型の場合には、このキットによる簡易テストの診断能力は50%を少し超えた程度であったため、米国や欧州では、簡易テストの結果よりも、患者さんの臨床症状に重点を置くようにとの通達がなされました。当院でも、発熱のため別の医療機関を受診し、簡易テストの結果が陰性であったため普通の風邪と診断され、抗生物質と解熱剤を渡されたものの、熱が下がらないと訴えて来院された患者さんが少なからずおられました。この人達に再度、簡易テストを実施してみても結果はやはり陰性でした。しかし、臨床症状によりインフルエンザを疑い、抗インフルエンザ薬であるタミフルやリレンザを処方すると、たちまち解熱し症状も良くなりました。
 このように簡易テストは診断に困難を生じる場合がありますが、一方で、このテストが臨床現場で使用可能になってから、インフルエンザは冬期のみならず、一年中、感染機会のあるウイルスであることを身を以て経験することが出来ました。例えば、38度以上の発熱で来院された患者さんに対しては、インフエンザ感染をいつも念頭に置いて対応する必要のあることも学びました。
 インフルエンザの予防は手洗いとうがい、そして免疫力を低下させないための十分な睡眠と、栄養バランスの取れた食事の摂取などが挙げられますが、流行期に備えたインフルエンザ・ワクチンの接種も重要な予防策となります。
 毎年、インフルエンザ・ワクチン株の種類を決める仕組みは、WHOがアトランタ、メルボルン、東京、ロンドンの4カ所に置いたWHOインフルエンザ協力センターに集積された各地域の感染者数ならびにインフルエンザ流行株を解析、同定することにより次年度の流行株を予測します。そして、その情報を各国が持ち帰り、それぞれの国がその年のワクチン株を決定し、ワクチンを製造する製薬メーカーに発注することになっています。
 2010〜2011年のインフルエンザ・ワクチンは、今まで流行していたソ連A型(H1N1)株が外され、カリフォルニア・ブタ・インフルエンザA型(H1N1)と香港インフルエンザA型(H3N2)およびB型インフルエンザの3種混合ワクチンです。そのため、今年度は2種類のワクチン接種の必要がなくなりました。気管支喘息をはじめ呼吸器系の病気のある人は、症状悪化リスクを回避するために、是非インフルエンザ・ワクチンを接種されることをお勧めします


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