MAN会報
食物礼賛(その4)
―植物の薬効 A ―


理事 藤田 きみゑ

 前回、日常生活で用いられ、利用されている植物の薬効と使用例を少しご紹介致しました。今回もその続きとして豆類のお話をいたします。
1.赤小豆(せきしょうず):マメ科 Leguminosae赤小豆(ツルアズキ)、赤豆の成熟種子を乾燥したものです。味は甘、酸、性は平。3種類の結晶性サポニン、ステアリン酸、アラキドン酸、パルミチン酸などが主成分で利尿、解毒、消炎、緩下の作用を有します。
 一般的に用いられている小豆(アズキ)は、古くよりそのゆで汁ならびに煮豆に利尿作用のあることが知られており、腎炎の浮腫治療に用いられてきました。現在でも、あずき療法として小豆が用いられていますが、実際に、一握りの小豆を洗って多めの水と共に火に掛け、柔らかくなるまで煮た砂糖なしの小豆汁を、ごく少量の塩味(塩分を強くしてはいけません)で頂くと、気持ちの良いほど尿がよく出るようになります。
 また、腎炎の治療や今はほとんど見られなくなった脚気(かっけ)の治療には、この小豆と鯉を一緒に用いた赤小豆鯉魚湯を服用すると利尿作用が更に強まり、浮腫が劇的に改善する事が知られていました。その作り方は、小豆90gと約500g程度の大きさの鯉一匹に、酢と水を半々にしたものを適量加えて約1時間煮ます。煮上がった鯉をまず食べて、あとの煮汁を服用します。この療法は急性期でなく慢性期における腎炎の安定期に常時服用すると治療が徹底されると記載されています。
 別の方法としては、小豆150g、はぶ茶20g、ゲンノショウコ25gを小豆の4〜5倍の水で煮ます。はぶ草とゲンノショウコは煎じる前に前もって布袋に入れておいて、汁がなくなり小豆が柔らかくなるまで煮て小豆だけを食べます。この方法も腎臓病の浮腫や産後の腎炎などに用います。
 心臓から来るむくみ(心不全)の時には、小豆30g、山ごぼうの根(森あざみの根、通常のゴボウではありません)5gを、多めの水と共に煎じて100cc程度に煮詰め、1日3回で分服します。
 また、小豆の解毒作用や消炎作用も広く知られており、小豆の粉末を酢でねって湿布をすると、初期の化膿に効果があるとされています。現在では、さまざまな抗生物質が合成されて、細菌の種類に応じた抗生物質軟膏が数多く揃えられていますが、抗生物質がなかった時代では、ほんの小さな傷から細菌が侵入し、その結果、命取りになることもありました。そのような時代における抗炎症作用のあるさまざまな植物は、人々の生活になくてはならないものであったと考えられます。
 また他の効用として、ネズミに咬まれた時などに、生の小豆を石臼などで粉状にしたものを一日2〜3合服用させると、咬まれた後にでる熱(レプトスピラ症か?)などを抑えたり、狂犬病に罹っている犬や小動物に咬まれた時にも、狂犬病の発症を抑えるために、この生小豆を服用させるという記載がありました。
 狂犬病の原因は狂犬病ウイルスです。このウイルスに対する治療法は現代医学においても未だ確立されておらず、内科書などには狂犬病を発症した患者の治療法として、安定剤や睡眠薬などを用いて患者の精神安定を図り、静かなる死を待つと書いてあります。つまり、狂犬病には画期的な治療法がないということなのです。現在の日本では狂犬病の発症はありませんが、東南アジアやフイリピンなどにはまだ狂犬病がはびこり、毎年、多くの人たちが命を失っています。私は40歳の時に狂犬病に対する小豆の効果の記事を読み、いつかこの事を証明したいとずっと思い続けていました。そして、その機会が4年ほど前にやって来ました。京都大学を定年退官されたウイルス学がご専門の河合明彦先生を紹介されて、狂犬病ウイルスに対する小豆の効果を検証する機会を得たのです。その結果といえば、やはり小豆には抗ウイルス効果があり、弱毒性のタイプではありましたが狂犬病ウイルスを死滅させました。そしてこの結果は、小規模のウイルス専門誌に掲載されました。
 河合先生はこの結果を非常に面白がられて、色々な細かい実験をされ、赤豆より白小豆と呼ばれているものの効果が強いこと、小豆の抽出液で最初しばらく煮てから出てくる褐色の液には抗ウイルス作用のないこと、この煮汁を一旦捨てて、二度目に煮て抽出された煮汁に抗ウイルス作用の強いことを示されました。この結果を伺って、私がはっと思い出したのは、お赤飯を作る時、「私の作るお赤飯の色がきれいなのはね、小豆をいったん煮て、その煮汁を捨ててからまた小豆を炊き直してその煮汁を餅米にかけるからなのよ」という亡くなった母親の言葉でした。そうなのです、きれいな濃い色の付いたお赤飯は、抗ウイルス効果があるのです。私はこの技術は母親が考え出したのではなく、祖母や曾祖母など代々伝わったものではなかったのか、つまり、小豆の最も効果的な使用法を、昔の人は経験的に知っていたのではと直感的に感じたのです。  化学的治療が行われる病院でも、月の初めのおついたちの日には、入院患者さんに小豆ご飯が供される所が少なくありません。先人は宗教的行事になぞらえて、抗炎症作用や抗菌、抗ウイルス作用のある体によい食品を神仏のお供え物として捧げ、そのお下がりを戴くという習慣を日本に根付かせました。このような食習慣は何とか後世にも伝えたいものです。
2.黒豆(こくず):マメ科 Leguminosae黒豆(クロマメ)大豆の種子。黒くて光沢のある球状で大粒のものがよく、皮が黒くて豆が青いものが上質とされています。味は甘、性は平。主成分はタンパク質、脂肪、デンプン、カルシウム、リン、鉄、ビタミンA、ビタミンBなどで、栄養分は赤小豆よりも豊富とされています。薬理作用としては補虚養血、つまり病後や慢性病の衰弱による低たんぱく血症、眩暈(めまい)、盗汗(ねあせ)などに用います。補養のためには黒豆はそれ単独より黒豆30g、小麦(年月を経たもの)30gなどを加えた方が効果が高く、これらを水から弱火で煮たものを食べます。
 小豆と同様に、黒豆も黒豆療法という民間療法があり、薬物中毒や心臓病、胃潰瘍や感冒、面白いのは女性の不感症や産後で乳の出が悪い時にも用いられていたようです。薬物中毒には黒豆2に対して甘草1の割合で合わせ、3〜4倍の水で煎じて半量にしたものをどんどん飲ませます。
 心臓病には黒豆と黒ごまを同量とし、玄米をきつね色に炒った炒り玄米を黒豆と黒ごまの3分の1程度量を加えて、半量程度まで煎じ服用します。心不全の浮腫がある場合は水分を余り多く取ることができないので調整が必要です。
 胃潰瘍には黒豆10gとシソの葉5gを煎じて服用します。また、不感症には黒豆を蒸して柔らかくしたものを天日に干して乾燥したもの1に対して、炒った黒ごま1を合わせて粉末にし、茶さじ1杯を食前に1日3回服用します。母乳の出が悪い時には黒豆と玄米を同量炒って濃いきつね色としたものを粉状にして、黒砂糖を少々入れてそれを茶さじ2杯、1日3回服用します。
 黒豆もお供え物として用いられている豆類です。薬効作用が高いので、小豆と同様、月に2〜3回、体調のすぐれない方はできれば週1度、黒豆ご飯として食卓にのせていただければと思います。次回も植物の薬効についてお知らせ致します。
(滋賀県立大学人間看護学部教授)

【参考文献】
漢薬の臨床応用 中山医学院 医歯薬出版社、東城百合子 自然療法 あなたと健康社



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