MAN会報
スギ花粉を考える

理事 宮武 明彦

 日本では毎年、2月から4月頃まで鼻水、くしゃみ、目のかゆみを訴えて多くの患者さんが医療機関を訪れます。このスギ花粉の症状は5月の連休が始まるまでには終わりますが、スギ花粉症の患者さんの約60%にヒノキに対するアレルギー陽性反応が認められるため、3月末から飛散するヒノキ花粉によるアレルギー症状が5月の中旬位まで続きます。1998年における全国のスギ花粉症の平均有病率は16.2%でしたが、2008年には26.5%となり、東京ならびに関東圏は軒並み30%を超えるようになりました。このように全国規模で患者さんが非常な勢いで増え続け、全人口の4人に1人はスギ花粉症であると考えられています。
 アレルギー性鼻炎は、通年性アレルギー性鼻炎(perennial allergic rhinitis)と季節性アレルギー性鼻炎(seasonal allergic rhinitis;花粉症)に分けられます。スギやヒノキの花粉症は季節性アレルギー性鼻炎の仲間ですが、どちらも鼻粘膜のI型(即時型)アレルギー疾患で、水性鼻漏(鼻水)、鼻閉(鼻づまり)、反復性のくしゃみを3主徴とします。花粉症の人は、鼻汁、鼻閉、くしゃみ、目のかゆみ、集中力の低下、不注意、学習障害、寝不足のため、この時期にはQOL(Quality of Life:生活の質)が非常に低下します。
 アレルギー性鼻炎は、アレルギーを起こす物質(抗原)の種類によっても分けられます。通年性アレルギー性鼻炎は室内塵(house dust)、ダニ、ペットの毛、フケ、蛾(ガ)、ゴキブリ等が含まれます。一方、季節性アレルギー性鼻炎は、スギ、ヒノキ、ブタクサ、カモガヤ、シラカバ、サトウキビ等、花粉が代表的抗原です。例えば、空気中に飛散しているスギ花粉の量を調べるために、ビルの屋上に設置した花粉捕集器によって24時間の花粉量が測定されていますが、ダーラム型と呼ばれる花粉捕集器を使用している国が多く、バビラと呼ばれるスギ花粉の表面にある突起を手掛かりとして、顕微鏡下に他の花粉と区別判定が行われています。スギ花粉の大きさは30ミクロンで、特に、スギ生殖細胞の分化が活発になる飛散前年度の夏、特に7月の累積気温により次の年に飛ぶ花粉量が決まります。
 スギ花粉飛散量の観測は全国の都道府県で実施され、1府県3〜4箇所にて定点観測が行われ、大阪府の定点観測場所は東成区・大阪府環境農林水産総合研究所、豊中市役所および大阪府南河内・農と緑の総合事務所の3箇所で行われています。スギ花粉測定は、毎年1月1日から開始されますが、関東以西においては1カ月の累積気温が350〜400℃を越えた頃から飛散が始まり、ダーラム捕集器の測定板1.0cm2当たり30個を超えた日をその年の飛散開始日と定めています。大阪は全国でもスギ植林面積が少ない府県のひとつですが安心は出来ません。何故なら、スギ花粉の飛散距離は半径100kmとされ、北は若狭湾、西は姫路、東は彦根、南は和歌山県御坊までの圏内から想像を超える量の花粉が大阪に飛来するからです。
 わが国においては、歴史的に森林の付加価値を高めるためにスギやヒノキの人口植林が数百年にわたって行われてきました。ここ30年のスギ花粉増加の原因は、戦後復興のためにスギの植林が全国規模で実施され1950年代にピークに達しました。スギは樹齢が25年を超えると大量の雄花を着生し、翌年春に大量の花粉を放出します。
 スギ花粉症に関する学術的な報告は、1964年、斉藤洋三らにより日本アレルギー学会誌に発表された「栃木県日光地方におけるスギ花粉症Japanese Ceder Pollinosisの発見」が最初ですが、1970年代よりスギ花粉症の患者は急速に増加し、今では、スギ花粉症は国民病と言われるまでになってしまいました。
 本来、日本の国土面積(2512万ヘクタール)は世界主要国の中では小さいものの、森林面積の比率が68.2%もある森林国であります。しかし、天然林の比率は56%、人工林は44%と人工林の比率は約半数に迫ります。この内、樹種別森林面積は針葉樹林(スギ、ヒノキ、マツ)53%、広葉樹林(落葉広葉樹林、常緑広葉樹林)47%であり、所有形態としては、民有林56%、国有林30%、公有林14%と半数以上の森林は民間管理に委ねられているため、林業政策は市場価格によって影響を受け、抜本的な行動を打ち出せない状況が続いています。  一方、医療経済から見たスギ花粉症に対する国民医療費と林野予算を比較すると、花粉症関連のみの国民医療費は1993年度1171億円、2003年度1560億円と増加し、特に、2003年度1月から3月に支払われたスギ花粉関連国民医療費は3カ月間だけで約546億円と国民病と一言で片づけられない高額な医療費が投入され、現在も毎年増加の一歩を辿っています。一方、林野予算は3854億円、追加財源(21万ヘクタールの緊急間伐)546億円を加えても約4400億円でありました。
 今まで、国が行ってきた花粉症克服に向けた取り組みのひとつに、1997年科学技術庁の研究プロジェクトである「スギ花粉症克服のための総合研究」があります。その内容は 1)スギ花粉症の発症・増悪機構の解明、 2)スギ花粉症の予防・治療法および発症軽減化、 3)スギ花粉症の生産と飛散の予報法の高度化、 4)花粉発生源の抑制技術等の研究などでありました。また、花粉発生源対策として、 1)木づかい運動 ; 花粉発生源対策によって伐採された木材の有効利用、 2)国土緑化推進機構 ; 緑の募金、花粉の少ない森林づくり活動を支援等が代表的な運動でありますが、医療経済を包括したスギ花粉症対策を実施するための積極的な行政や民間の動き、例えば、スギ花粉症の被害が最も大きい東京のスギ花粉症の医療費を、5年間でここまで下げるといった具体的な目標設定や実施計画は、まだ緒も付かない状況です。
 私達が考えなければならない点は、スギ花粉発生源対策は林業関係者だけの問題ではなく、多くの国民の理解認識と協力が不可欠であること。また、地球温暖化現象によってスギ花粉症はさらなる増加が確実視されていることなどです。このような状況に対応するために、御堂筋アズマネットワークの会員はスギ花粉による健康被害「スギ花粉公害」という言葉を発信するのみならず、スギ花粉が減る環境をどのようにすれば構築出来るかを考え、スギ花粉症で苦しんでいる患者さんを少しでも減らすことに貢献するために「STOPスギ花粉in OSAKA」運動を展開してはいかがでしょうか。
【医療法人 宮武内科 院長】

●もどる●