MAN会報
食物礼賛(その4)
植物の薬効[1]


理事 藤田 きみゑ

 前回は第7の栄養素と呼ばれる植物由来の化合物である植物栄養素、別名ファイトケミカル(phytochemical)について述べました。今回は前号に引き続き植物の効用についてお知らせします。
 植物のファイトケミカルの効果に着目し、病気の治療に用いたのが生薬(漢方薬)です。古来より、人々は様々な経験や試行錯誤から植物の薬効を臨床に応用してきました。例えば、心臓治療の基本的処方として現在も用いられるジギタリス剤は、植物ジギタリスの根を材料として発見された強力な強心薬です。
 現在においても、中国や韓国では東洋医学と西洋医学を融合した治療が行われ、患者が服用する薬剤(腸液)が処方室で煎じられていますが、漢方薬を煎じる大釜が並び、湯気の立つ様は圧巻です。わが国では漢方が薬価収載され保険診療が一部可能となっているものの、その使用方法や治療の考え方には未だ大きな差異が認められます。特に、西洋医学で難治とされる病気に対する鍼灸や漢方、保存的療法などを包括的に行う隣国の治療法は、わが国でも学ぶべき点が多いと考えます。
 漢方薬は単独で用いられることは少なく、少なくとも2種以上の漢薬を配合して用いられます。それは漢薬を重ね合わすことにより働きを強めるという相乗作用を期待すると共に、薬効を発揮しながら各漢薬の副作用を抑制するという理由によるものです。
 しかし、漢薬の種類の中には民間薬として単独に用いられるものも数多くあります。日常生活で用いられ、利用されている漢薬の薬効と使用例を以下に紹介します。

1.生姜(しょうきょう):ショウガ科 Zingiberaceae 姜(しょうが)の新鮮な根茎。味は辛、性は微温。辛み成分zingerol(ジンゲロール)、芳香成分zingiberol を含み、発汗、解毒、健胃作用があります。生姜は末梢血液循環を促進させ、胃腸の蠕動を強め、ガスを排出し、胃腸機能を調整して吐き気を止めるとされています。感冒時の使用方法としては、生姜をすり下ろし、蜂蜜か黒砂糖を加えて熱湯を注ぎ温服します。感冒や消化不良による吐き気には生姜をすり下ろし、その絞り汁10滴程を50ml 程度の白湯に入れて服用します。これは咳が出る時、痰が多い時などにも応用できます。また、感冒時の足浴は効果的ですが、足浴の湯に生姜の絞り汁を入れると体全体が暖まりその効果が倍増され、寝つきも良くなります。さらに、神経痛などには約200〜300ml の水を煮沸し、その中に生姜約10g をすり下ろし、絞りかすをガーゼなどでこした汁におしぼりなどの小さめのタオルを浸し、火傷しない程度に冷ましてから痛みのある部分を被い、ラップなどでくるみます。冷たくなればまた浸し直し、同様の温湿布を3〜4回繰り返します。痛みのある方はぜひ、一度お試し下さい。
2.桂枝(けいし):クスノキ科 Lauracceae 桂樹の若木を乾燥したもの。味は辛・甘で、解熱・発汗作用、鎮痛、健胃、抗菌、抗ウイルス、抗真菌の各作用を有します。一般的にはニッキ、あるいはニッケ、西洋ではシナモンと呼ばれ、アップルパイやシナモンロール、また、肉料理に用いられ、さらに、紅茶に添えて出されたりします。どちらかといえば体力が中等症から弱い方に使用する方剤で、血管痙攣による頭痛の改善や風邪の引き始め、関節リウマチなどの痛みに効果があるようです。しかし、非常に体力が落ちて口や舌の乾燥が認められる時、出血や喀血などのある時、あるいは伝染性の高熱のある時には桂枝の使用は禁じられています。また、若い女性では、桂枝を含む漢方薬の服用にてニキビが出やすくなることもあります。
3.紫蘇葉(しそよう):シソ科 Labiatae 蘇葉の葉を乾燥したもの。味は辛・性は温。発汗・解熱、利尿、健胃、去痰の各作用があります。古来より妊娠悪阻(つわり)のむかつきや、魚介類による中毒の治療に用いられてきました。現在でも、上等なお刺身にシソの葉が添えられているのはその名残りです。また、紫蘇は胃腸症状を伴う感冒に効果があるとされています。梅干しにこの紫蘇葉を一緒に漬け込み絞って細かく刻み紫蘇飯として用いたり、紫蘇ジュースなどにして飲用されます。また、紫蘇の葉を細かく刻んでサラダやキュウリの酢の物などに入れ食します。
4.葱白(そうはく):ユリ科Liliaceae 青葱の根部に近い白い茎。味は辛、性は温。主として発汗解熱の作用があり、一般に発汗の補助剤として用いられます。熱があるのに発汗しない感冒、鼻づまりなどの時に、2〜3本分のネギの白い部分を細かく刻み、200ml 程度の熱湯を注ぎ、生醤油で少し薄目の味付けをして温服します。また、排尿困難や寒さによる腹痛などの場合には、ネギの白い部分を軽く油を用いずから炒めし、白いハンカチなどに包み、臍(へそ)の部分に置き、その上にラップとタオルを置いて温めます。
5.薄荷(はっか):シソ科 Labiatae 薄荷の全草。味は辛、性は涼。主成分はmenthol。消炎、鎮痛、健胃・整腸、止痒、抗菌作用を有します。頭痛や目の充血、咽頭痛などのある感冒に、また、夏の熱射病の頭のふらつき口渇、尿が濃い等の時に用います。最近ではミントのティーバッグが市販されていますので、それを少し濃いめに出して温服します。  また、ミントには痒みを抑える効果がありますので、薬局に頼んでメントール(薄 荷油)を購入し、温湯1リットルに対して10〜20ml 程度の割合でメントールを少し熱い目の湯に溶かし、痒いところを温湿布し、その上を防水のビニールなどで被い、さらにその上をバスタオルなどで覆って冷めるまでそのままにします。冷たくなる前に湿布をもう一度取り替えます。メントールは知覚神経の末梢に作用し、麻痺させるという効果があるため、以前は、病院でも肝不全や肝硬変患者さんの腹水による腹部の張り感や体の痒みにこのメントール湿布をしていました。
6.菊花(きくか):キク科 Compositae 菊の頭状花(花弁)を乾燥したもの。味は甘、性は微寒。消炎、利尿、降圧作用などがあります。頭がふらつく、目がかすむなどの症状の時、高血圧初期の頭痛などに用います。秋口になると黄色や薄いえんじ色の菊花がマーケットの片隅に出てきますが、花のがくを取った花びらをごく軽くさっと茹で、そのままでポン酢で食しますが、葉物やきゅうりなどの和え物に入れ込んでも美味しく戴けます。
7.葛根(かっこん):マメ科 Leguminosae 葛の塊根を乾燥したもの。味は甘・辛、性は平。葛根は感冒薬である葛根湯の原料として有名ですが、解熱作用の他に、心臓に血液を送り込む冠状動脈を拡張させる作用や脳血流量を増加させる働きなどがあります。また、筋肉の痙攣を緩める作用があるため、通常の肩こりや感冒時の肩や背中の張り感になどに効果があります。使用方法としては、蜂蜜などを少し混ぜてとろみのあるくず湯として温服しますが、感冒時には生姜の絞り汁をこの中に加えても良い効果が得られます。また、片栗粉の代わりに葛粉を用いて調理することにより効率的に摂取できます。難点は、良い葛粉は高価であること です。
8.山薬(さんやく):ヤマイモ科Dioscoreaceae 薯蕷(しょよ:ナガイモ)の塊状根を乾燥したもの。味は甘、性は微温。主成分はサポニン、粘液質、アルギニン、アラントインなど。一般的な滋養補益の薬物として用いられます。脾をおぎない下痢を止め、消化を助けるとされています。ただし、炎症性の下痢や大便が硬い時、また、お腹が脹って苦しい時などには用いないとされ、全体的に体力や気力の衰えた時に効果を発揮します。漢方では山芋を乾燥したものが用いられますが、一般的には生の芋が食材として用いられ、特に、野山に自生する自然薯(じねんじょ)をすり下ろしたものが男性の活力を高める効果が高く、珍重されています。この他、山芋は上用饅頭の皮に用いられたり、お好み焼きのつなぎなどにも使用されますが、薬効を期待するためにはやはり、生ですり下ろしたものが一番で、山かけそばやうどんなどがお薦めです。

次回も植物の働きについてお知らせ致します。

(滋賀県立大学人間看護学部教授)
参考文献:漢薬の臨床応用 中山医学院

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