MAN会報
ステロイドホルモンの話

理事 笠山宗正

  喘息の治療薬としてよく使われる‘吸入ステロイド薬’についてはご存知の方も多いと思います。‘ステロイド薬’は、吸入薬だけでなく経口薬(飲み薬)や注射薬として、さまざまな病気の治療に用いられています。
ステロイド薬にもいろいろな種類があります。喘息の治療に使われるステロイド薬は‘糖質コルチコイド(グルココルチコイド)’と呼ばれ、副腎(左右の腎臓の上に位置する小さな臓器)から分泌されるホルモンと同じはたらきをします。副腎からはグルココルチコイドのほかに‘鉱質コルチコイド(ミネラルコルチコイド)’というホルモンも分泌されます。‘エストロゲン’‘プロゲスチン’‘アンドロゲン’などの卵巣(らんそう)や精巣(せいそう)から分泌されるホルモンも更年期障害や月経異常などの治療薬として使用されています。最近では、乳がんや前立腺がん・糖尿病・高脂血症の治療薬としてステロイドホルモンの仲間も使用されるようになっています。
1948年、米国メイヨ・クリニックのヘンチ博士とケンドール博士らは、副腎由来の‘グルココルチコイド’の1種であるコルチゾンを関節リウマチの患者さんに投与しその劇的な効果を発表しました。ステロイド療法(グルココルチコイド療法)の時代の幕開けです。この功績により、両博士は、わずか2年後の1950年に、コルチゾンの発見者であるライヒシュタイン博士と共にノーベル医学生理学賞を受賞することになります。
しかし、グルココルチコイド療法には問題点もあります。グルココルチコイド薬を長期間大量に投与しつづけると、高血圧・低カリウム血症・糖尿病・満月顔貌・骨粗しょう症・白内障・免疫力低下・筋力低下などの副作用が起こる場合が多いことがわかってきました。
現在治療薬として使われているグルココルチコイド薬には、プレドニゾロン(商品名:プレドニン)、デキサメサゾン(デカドロン)、ベタメサゾン(リンデロン)などがあります。これらはいずれも、天然のコルチゾンの化学構造を真似て人工的に合成したものですが、コルチゾンに比べて効果が長時間持続し1日に1回か2回の内服で治療ができるようになっただけでなく、高血圧や低カリウム血症の副作用も少なくなりました。いずれの合成グルココルチコイド薬も1960年以前に開発された古い薬であり、それ以後には新しい経口グルココルチコイド薬は登場していないのです。
喘息の治療に使われる吸入グルココルチコイド薬は、肺局所での作用を高めることを期待され開発されたものです。少ない量で効果を発揮し、全身性の副作用が少ないという利点があります。しかし、副作用が全くないというわけではなく、骨粗しょう症や下垂体−副腎機能の抑制などが見られる場合もありますので、注意は必要です。
最近では、選択的グルココルチコイド受容体モデュレーター(SGRM)と呼ばれる、副作用の全くないグルココルチコイド薬の開発も進んでいます。2008年は‘ステロイド療法’60周年の節目の年です。めでたく10周年を迎え次の10年への新たなスタートとなる「御堂筋アズマネットワーク」の会員の皆様の生命と健康を守るためにも、‘夢のグルココルチコイド薬’が陽の目を見る日が一日も早く訪れることを願っています。
(日本生命済生会附属日生病院副院長)

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