MAN会報
飲めない族のお話

理事 吉富 康二

ビール会社に在職中、上司からビールを飲んで直ぐに酔っ払うのは努力と訓練が足りないと何度も叱られておりました。技術者としてミュンヘンへ留学派遣され、ビールのマイスター育成の専門学校に入学し、ドイツ人のクラスメイトの仲間たちと共に学び、よく飲みました。体も大きくビール好きで夜遅くまで長時間飲み続ける彼等について行けず、よく居眠りをして叱られました。ドイツでは気楽で楽しいパーティーでも「居眠り」はマナーとして許されず、参加している可愛らしい娘さんからも膝をぴしりと叩いて親切にも起こしてくれました。これには全く、会社の上司以上に堪えました。1980年ごろの話です。ちょうど同じ頃西ドイツに法医学の勉強で留学していた筑波大学の原田勝二先生は、小生とまさに同じ辛さに悩んでいました。「何故ドイツ人は老若男女すべてお酒に強く、何故自分が弱いのか?」と先生は疑問を持ち、これを新しいテーマとして研究を進めました。そして画期的論文「アルコール耐性と民族」の中で、世の中の飲めない族の人々のメカニズムを解明して行きました。摂取されたアルコールは体内で炭酸ガスと水にまで分解されますが、その途中で有害物質のアセトアルデヒドを経由します。お酒に強い人はこれを2種類の酵素で素早く分解出来ますが、1種類しか無い人はお酒に弱く、全く無い人はアルコール摂取は危険です。ドイツ人は100%2種類持っており、日本人は56%が2種類、44%は1種類ないしはゼロ。原田先生よりこの知見を頂き、小生も先生ご自身も1種類しかない、飲めるけれどもお酒に弱い人間であることを知りました。論文の研究は更に発展し、世界の主な人種のアルコール耐性の割合や遺伝によりお酒の強弱が決まってくることも明らかにされました。現在ではアルコールパッチテストで簡易測定法も開発され、7mm角の脱脂綿に70%アルコールしみ込ませ上腕部の柔らかい箇所にバンソコで貼り付け、7分後に剥いだ箇所が無変化の人は、強く、赤くなった人は弱いと判定出来ます。宮武内科にお世話になり喘息日記を付けるようになり、小生はアルコールを沢山飲んだ日は咳が良く出る傾向に気付き、宮武先生に申し上げると患者の50%の人が日本ではアルコール摂取で咳が出易くなるとおっしゃいました。これはまさに原田先生のお酒に弱い人の%と良く符合する訳で、わが意を得たりと一人喜んでいます。ミュンヘンの留学後本社に帰り、原田論文は社内に少しずつ浸透し、今ではビール会社が若者の「一気飲み」は危険ですとキャンペーンをするまでになりました。西ドイツで共に学んだマイスターとなったクラスメイトには真っ先に「原田理論」を伝えましたが、彼等は即座に「お前は間違っている」。「ドイツのビールのマイスターは3種類の酵素を持っている」と!

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