MAN会報
食物礼賛(その1)
−メタボリックシンドロームと食べ物−


理事 藤田 きみゑ

大関栃東が突然引退するというニュースが入りました。その理由は何と脳梗塞の発症だというのです。半身麻痺を起こすような範囲の広い脳梗塞ではなく、恐らくラクナ梗塞と思われる小さな規模の梗塞と考えられるのですが、頭痛があり、また高血圧症も合併しており、頭突きを得意とする相撲が取れなくなったというのが引退の主な理由です。
相撲取りは体を大きくし、体重を増やすために無理をして過食をするために、運動量が多くても糖尿病や高血圧症という生活習慣病を抱え込むことがよく知られています。このような極端な肥満でなくとも、実は日本人の死亡原因の内、二人に一人が肥満に由来する動脈硬化という血管の病気で亡くなっていることを皆様はご存じですか。また、この血管の病変を起こし易くする糖尿病を発症している患者さんで、血糖のコントロール状態を示す指数として用いられているHbA1cの値が非常に悪い6.1%以上という患者さんが、現在、約740万人存在すること、さらに、40歳以上の10人に1人、50歳以上の7人に1人が糖尿病であることもご存じでしょうか。
平成17年度の日本人の平均寿命は男性が78.53歳、女性が85.49歳と、女性の長寿は世界一を誇っていますが、糖尿病患者の平均寿命は68歳と、何と10年以上も短命であることが報告されています。
このような事象を踏まえて、近年、メタボリックシンドローム(複合生活習慣病予備軍)という概念がメディアを賑わすようになりました。宮武内科勉強会でも順天堂大学の河盛隆造先生や九州大学の清原 裕先生のお話が耳新しいところですが、要約すると、肥満や糖尿病傾向、高コレステロール血症、高血圧症など、ひとつひとつの症状は重篤ではないものの、これらの症候を複合的に保持していると、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患、ならびに、脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患を起こし易くなる状態のことであり、確実に動脈硬化症を増加させることが多くの研究結果から解ってきました。
特に、肥満についてはメタボリックシンドロームの最も基本的な病態として知られ、この肥満解消が病態改善の近道であるとされています。肥満は脂肪の蓄積状態の違いから2種のタイプに分類されています。ひとつは皮下脂肪型肥満と呼ばれるもので、若い女性に多く見られるような、主に腰回りや太ももなど下半身に脂肪が付く体型であり、別名、洋ナシ型肥満(下半身肥満)と呼ばれています。もう一つは内臓脂肪型肥満と呼ばれ、主として上半身、とりわけお腹の周りに脂肪が付くタイプで、男性に多く見られる形です。この形は別名リンゴ型肥満(上半身肥満)とも呼ばれ、生活習慣病を起こしやすい形と考えられています。  自分が肥満状態にあるのか無いのかという肥満の度合いを簡便に知る方法として、次の4種の方法が提唱されています。ひとつ目は「ウエスト周囲径」で文字通りお腹周りをメジャーで測定します。男性の場合85cm以上、女性は90cm以上あれば肥満と測定されますが、ウエスト径はお臍のあたりで測定し、決して一番細い場所で測らないことが指示されています。ふたつ目は「ウエスト/ヒップ比」で、これはウエスト周囲径を一番大きな腰回り(ヒップ)で割った値であり、ウエスト周囲径(cm)÷ヒップ周囲径(cm)で表されます。この値は男性で1.0以上、女性で0.9以上になると肥満と診断されます。3つ目は「ウエスト/身長比」で、ウエスト周囲径(cm)を身長(cm)で割ったもので、男女共に0.5以上あれば肥満と診断されるものです。最後の4つ目は、「BMI(Body Mass Index)指数」と呼ばれるもので、体重(Kg)を測定し、その数字を身長(m)掛ける身長(m)で割ったものです。すなわち、BMIは以下の式で表されます。
(1) BMI=体重(Kg)÷[身長(m)×身長(m)]
BMIは男女共に25以上が肥満とされていますが、ここで注意しなければならないことは、体重はkg換算、身長はメートル(m)換算であることです。このメートル(m)換算が重要で、これを間違えないように気を付けて下さい。例えば、体重72.0 Kg、身長160.0cmの会社員AさんのBMIを測定する場合、身長はメートル(m)換算だと1.6mとなります。そうすると、BMI=72÷(1.6×1.6)となり、答えは小数点一位を四捨五入をして28.1となります。BMIの正常範囲は男女共に25以下ですので、Aさんは肥満状態にあるということが導き出されます。
では、肥満であることが分かった場合、どのように対処すればよいのでしょうか。数多くの研究の結果、治療効果のはっきりした薬剤がある今日にあっても、肥満や高脂血症、そして、糖尿病にはライフスタイルの改善が何よりも重要であり、治療の基本は食事療法であると考えられています。皆様の中には、食事を制限することはとても我慢できないから、あるいは手間がかかって面倒だからと、食事ではなく、何とか運動で体重を減らしたいと考えている方もおられると思うのですが、これは大きな間違いです。運動のみで適正体重に減量しようと思うのなら、運動を専門的に行うアスリートのように運動量を増やさなければ減量は困難です。まず食事を是正する、これが全ての基本となります。
食事の内容を検討する前に、あなたが1日どの程度の食事(必要なカロリー数)を摂ればよいのかを計算する必要があります。BMIの正常値は25以下(理想的には21〜24)ですので、Aさんの理想的なBMIを仮に24としますと、理想体重の求め方は、先程の(1)のBMIの計算式を用いた次の式で表されます。
24(BMI)=X(体重Kg)÷(1.6×1.6) → X=24×(1.6×1.6)
この結果、理想体重X=61.4 Kgとなり、現在の体重が72.0 kgのAさんは、72.0 Kg−61.4 Kg=10.6 Kgと、理想的な体重になるためには10.6 Kg減量しなくてはならないということになります。
次に、1日に必要なカロリー計算をします。通常、動き回ることが少なく、会社員のようにデスクワークを主体としている方は体重1Kg当たり25 Kcalが必要と計算します。また、殆どが外回りの仕事で、靴がすり減る程、歩き回るような方は、体重1Kg当たり30 Kcalとして計算いたします。そうしますと、デスクワークが主体の会社員Aさんの理想体重に対する1日必要カロリー数は 61.4(理想体重)×25 Kcal=1535 Kcalとなり、体重を減らすためにはこのカロリー数で食事の制限を行うことになります。
但し、一般の方は1日必要量を決められても、どの食品がどれ程カロリーがあるのか皆目、見当がつきません。このため、一般的な食品のカロリーの目安を決める単位として1単位という値が定められています。この1単位は80 Kcalに等しい、つまり、1単位=80 Kcalです。会社員Aさんの1日必要カロリーは1535 Kcalですから、1535÷80=19.2単位となります。この方法を参考にして、ぜひともあなたの理想体重や1日必要カロリー数ならびに単位数を計算してみて下さい。
ここから、あなたの具体的なメニューを決めることになるのですが、ここで、ちよっとした小冊子が必要となります。それは、「糖尿病食事療法のための食品交換表」(日本糖尿病協会・文光堂発行)という小さなハンドブックです。この冊子は必ず大きな本屋さんに置いてありますし、取り寄せも可能です。値段も900円と良心的なカラー刷りの小本ですので、あなたが糖尿病でなくても減量が必要な方は是非とも購入をお勧めします。この本の内容としては、全ての食品は表1類から表6類までとその他の調味料に分類されているのですが、各食品の分類形式や、食品の1単位の目安が図入りで説明されています。例えば、交換表の表1類は炭水化物(でんぷん)であり、穀物・いも類・大豆を除いた豆類・炭水化物の多い野菜と果物など、体内でカロリー源となるものです。表2類は果物類です。表3類はタンパク質でこれには動物性と植物性があり、魚介類・肉類・卵・チーズ・大豆とその製品が含まれ、人の筋肉や血液の原料となるものです。表4類は乳製品、表5類は脂質で、多くの油脂類・脂肪を多量に含む食品で、これにも動物性のものと植物性のものがあります。表6類は炭水化物の多い一部の野菜を除いた野菜類で、これには緑黄野菜と淡黄野菜が含まれます。さらに表6には海草類・キノコ類・こんにゃくなどのミネラルを含有するがカロリー源とならない品目が含まれます。番外の調味料には砂糖や蜂蜜などの糖質のもの、味噌や醤油など大豆で作られたもの、マヨネーズやドレッシングのように脂質の多いもの、ケチャップやカレールウのような複合調味料のカロリー数が示されています。さらに、アルコール飲料ならびにジュースやサイダーなどの嗜好飲料、外食の目安についても丁寧な表示が示されています。
例えば、白飯は50gが1単位です。この量は客用茶碗1/2杯に当たるため、客用茶碗の軽い1杯は約2単位となります。さらに、ごはんを少し小盛りにすると150g程度となり3単位ということになります。パンの場合、6枚切りの食パン1/2(30g)枚が1単位です。ですから6枚切りトーストを1枚食べると、2単位ということになります。しかし、トーストの場合は、バター10gを付けるためさらに1単位増え、あるいはジャム30gを付けても1単位増え各々3単位となります。これがフランスパンになると30gが1単位となり、目安量でかなり目減りがします。また、うどんでは1玉が3単位、そば1玉も約3単位となります。タンパク質では赤身の魚の1単位は切り身約60g、白身の魚の1単位は約100g、納豆は40gです。また卵は1個で約1単位、牛乳1本で1.7単位となります。全ての野菜は(といっても葉菜とある種の根菜類のみで、じゃがいもなどの芋類やカボチャなどは含まれませんが)調理前の計量で合計して300gが1単位といった具合です。このような単位数を参考にして1日の平均的な食事バランスを考えますが、ここで注意しなくてはならないことは、表1類から6類まで、まんべんなくバランス良く摂らねばならないということです。まず、Aさんの1日単位数は19.2単位ですが、少し増やして20単位とします。これを3食分に振り分けます。日本人の朝食・昼食はどちらかと言えば軽く、夕食が主体となりますので、例えば、朝食5単位、昼食7単位、夕食8単位に配分します。次に、表1から表6までのバランスを考えて3食のメニューを考えます。メニュー例としては、朝食はご飯150g、わかめと野菜の具だくさんみそ汁1杯、納豆1パック。りんご1/2個、昼食は焼きそば(中華そば1玉、豚肉40g、キャベツ、人参、タマネギ、ピーマン各30g、しいたけ2枚、油10g)とみそ汁、豆乳1パック。夕食はご飯150g、カレイの煮付け(カレイ80g)、高野豆腐と卵の炒りつけ(卵1/2個、高野豆腐1丁)、白菜とひじきと揚げの煮物、人参スープ、みかん1個のような具合です。次回は具体的メニュー作成についてお伝えします。
参考文献:糖尿病食事療法のための食品交換表 日本糖尿病学会編 日本糖尿病協会・文光堂発行2006
(滋賀県立大学人間看護学部教授)


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