MAN会報
鈍 感 力

理事 小塚雄民

横浜で開催された日本リウマチ学会に参加し、渡辺淳一氏の特別講演を聴いてきました。講演内容は鈍感力に関することでした。『鈍感力』はベストセラーになっているエッセイで、現在、書店に多数積み上げられています。
渡辺淳一氏は札幌医科大学を卒業し、同大学整形外科講師を35歳で退官後、作家として活躍されています。1968年、同大学で行われた和田心臓移植に批判的な見解を文春に掲載したことがきっかけで、手術室に入りがたくなって退官したと言われていました。
講演では、鈍感なのは生きていくうえで、強い力になることがあるとして、教授から叱られ続けたにもかかわらず、それに打ち勝って立派な医師となった先輩の話、母親の子供への愛、男と女の愛について説明されました。敏感過ぎて、批判に曝されると落ち込んでしまい、脱落していった有能な同僚作家の話もされていました。
2月には小泉純一郎前首相、安倍晋三首相が鈍感力を引用したことでも有名となりました。小泉さんは与党幹部から安倍晋三内閣の閣僚への苦言や安倍首相の指導力不足を指摘する声が相次いでいる問題について、「目先のことに鈍感になれ。鈍感力が大事だ。支持率が上がったり下がったりするのをいちいち気にするな」と述べ、結束を促したと報道されています。小泉氏の助言について、安倍首相は記者団に「鈍感力は必要だ」と述べたと報道されています。
鈍感というと、マイナスイメージのものと思われがちですが、傷つき易い、鋭く敏感なものより、たいていのことではへこたれない、鈍く逞しいものこそ、現代を生き抜く力であり、知恵でもあると講演で述べられていました。
渡辺淳一作品は性的描写の場面が多いと思いこんでいたため読んだことがなかったのですが、この講演を契機として読んでみました。作品は、『花埋み』『女優』『遠き落日』などの伝記、『白い宴』などの医療、『化身』『失楽園』『愛の流刑地』など性的描写の濃い男女関係の三つに大別されています。
吉川英治賞受賞の『遠き落日』は人間野口英世の激しい生涯を赤裸々に描いた作品です。野口英世は1915年帝国学士院より恩賜賞を授与され、最近では1000円札に登場するなど国際的偉人として伝えられてきました。しかし、その研究成果は現在ではほとんど否定されており、明治時代を猛烈に走り抜けた虚飾に彩られた偶像として描かれています。この伝記は1992年に映画化されていますので、見られた方も多いと思います。
渡辺淳一氏の鈍感力の講演は、過去にとらわれないで、前向きに生きていく力となりました。
日野クリニック皮膚科・アレルギー科

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