MAN会報
眠りへの誘(いざな)い
眠りを誘う食べ物と手技・その1

顧問理事 藤田 きみゑ

人はその人生の三分の一の時間をベッドで過ごすとされています. では, 人はなぜ眠るのでしょうか. 人間の脳は人が起きている間の各器官への指令や制御などの膨大な仕事を担当しています. この脳が休息するために, また, 体温を低下させて脳の加熱を防ぐために, 睡眠という脳の休息時間があるのだとされています. 同時に, 睡眠は人の成長や皮膚の入れ替わりなどに必要な同化作用を行う成長ホルモンや, 乳汁分泌を行うプロラクチンなどの分泌を促します. 成長ホルモンの働きにより, 眠っている間に疲労が回復され, 子どもを成長させます. また, 昼の間に活発に働いていた交感神経は, 眠ることにより副交感神経と交代し, 次の活動のために脳や神経を休ませるのです.
 一般的な人の睡眠時間は7時間前後が最も多いとされていますが, 最近の研究では10時間弱の睡眠をとった時に, 最も活発に活動できるという報告があります. 事実, 1879年に白熱灯が発明されるまで多くの人は, 10時間弱の睡眠時間をとっていたとされています. 暗い夜を明るくする照明は, 人の睡眠パターンを変化させ, 深夜まで明るいネオンやテレビの深夜放送は, 多くの若者の睡眠リズムを壊しました. そして, 様々に専門化され細分化された仕事に従事する現代人は, 夜遅くまで数多くのストレスに晒され, 寝床の中で色々なことを思いめぐらし, 眠れない夜を過ごす羽目となっているのです.
 爽やかな眠りは本当に気持ちの良いものです. 睡眠が十分に取れた後の目覚めは何にも代え難い爽快感があります. しかしながら, 年齢を重ねるにつけ, 熟睡感が得られにくくなり, ベッドで転々としたり, 睡眠薬の助けを借りなければ眠れないような状態に陥ったり, また, ひどい時にはその睡眠薬すら効果のないことが起こったりします. どうしてこのようなことが起こるのでしょうか.
 私たちは呼吸することにより酸素を体内に取り入れ, 炭酸ガスを排出します. この働きは無意識に呼吸として行われているのですが, 睡眠中はこの呼吸が上手くできなくなることがあります. 睡眠時無呼吸と呼ばれるこの症状は, 高齢者のみならず標準体重をはるかに超えた若年者や中年の男女に起こるとされていますが, この無呼吸の回数が多くなると熟睡感が減り, 昼間に眠気がさしたり, 仕事がはかどらなくなったりします. また, 年をとると睡眠中に足などが軽く痙攣 (ミオクローヌス) し, この刺激で夜中に目を覚ましてしまうということが起こったりします.
 人は長時間眠らないでいると自然に眠気がさしてきますが, これは目覚めている間に睡眠物質という人を眠らせる物質が体内に蓄積されてくるからです. この睡眠物質は眠ることにより分解されてなくなるため, たとえ1時間でも睡眠を取ると眠気が治まるのはそのためです. 年を取ると加齢により脳が萎縮し, この眠りを生み出す能力が低下するために, 眠りが浅くなったり, 夜間や早朝に目覚めてしまったりすると考えられています.
 不眠の現象による分類としては導入障害 中途覚醒 早朝覚醒の大きく3つに分けられています. はなかなか寝付けず, 眠りに入るまでに時間がかかってしまうもの, は眠っている途中に目が覚めてしまうもの, はどんなに遅く眠りについても決まった時間 (早朝) に目が覚めてしまうものを指します. これらの睡眠障害は単独で, あるいはとが重なるような複合型で起こることがあります. また, 睡眠の持続時間による分類としては, 受験や旅行などで環境が変化することにより起こる一過性不眠, ストレスなどで1〜3週間ほどの間で不眠が起こる短期不眠, 1ヵ月以上に渡り不眠が継続する長期不眠などがあり, 長期不眠は専門家への受診が必要です.
体内温度が下降すると眠くなる現象は良く知られており, 睡眠中には体内温度が下がり, 体表面温度が上がってきます. 小さな子どもさんなどの手が温かくなったとおもうと, 眠っていたりすることがよく見受けられますが, 眠りを得るためには睡眠前に体内温度を下げる必要があります. しかし, 体を全体的に冷やせばよいというものではなく, 体内温度のみを下げる工夫が必要です. そのためには体を部分的に効率的に冷やすことが重要です. この冷やす方法としては23×7cmの大きさのソフトアイスノンを3つ用い, 各々を小さなタオルに巻きます, それを左右の腋下部に近い胸部の端のリンパ節の上と左の肋骨弓から側腹部にかけての脾臓部分に約十分間当てます. この方法は手足を冷やさないことが大切で, 特に, 寒い冬季には手足を暖めながら冷やす工夫が必要です. 暑い夏期などにはタオルに巻いたソフトアイスノンを後頭部に当てて冷やすことも可能です. また, 別の方法としては, 眠る2時間前に洗髪し, 髪の毛をドライヤーで乾かさず自然乾燥する方法があります. この方法は髪の毛が乾く間に頭部の熱を奪い, 頭皮を冷やすことにより体内温度を下げるものです. ただし, この方法は寒い時には部屋をよく暖めておかないと風邪を引く原因にもなりますので十分に気をつけて下さい.
 古来より不眠に悩んだ人々は, 睡眠を得ることができる食べ物を, 経験的に生活の中で用いてきました. それら眠りを導く食べ物は, 医学的に根拠のあることが解明されているものもありますが, その内のいくつかを紹介します.
 まず体力のない方にはタマネギ, 紫蘇葉 (しそ), ねぎ, レタス, 枸杞 (くこ), くるみ, アキノノゲシ, 蓮根 (れんこん), ゆり根, タンポポなどがお薦めです. 体力のある方にはセロリやキヤベツなどの生常食があります.
 タマネギは半分に切ったものを枕元に置くだけで, 硫化アリルの鎮静作用で眠りにつくことができるといわれるほど鎮静効果の高い野菜ですが, 効率的な調理法としてはオニオンスライス (タマネギを薄くスライスし, 流水に晒す. 削り花鰹とシソオイル, だし醤油を加え, さっと和える. しその葉を細かく刻み加えてもよい.), オニオンスープ (スライスタマネギを少量のバターできつね色になるまで炒め, シジミ汁を加え自然塩で味付けする.), 酢タマネギ (人肌に暖めた酢大さじ10杯に蜂蜜大さじ3杯を加え溶かす. タマネギ1個はスライスし少し流水に晒し, 水分を切ったものに塩少々を振りかけ酢の中に漬ける.) などがあります. また, 紫蘇葉は魚の毒消しとしても有名ですが, 重金属などの有害物質を排泄する作用もあります. 紫蘇は細かく刻んでサラダに入れたり, 紫蘇飯 (葉と実を塩漬けにしておく. 細かく刻み, ご飯に加える. あるいは葉でごはんを巻く.), しそ酒 (しそを水洗いし, 3〜4時間軽く乾燥させる. しそ100枚に対してホワイトリカー1.8リットルを加える. 甘みは飲むときに加える.) のように保存できるものもあります.
 不眠症には生ネギに生味噌を付けて食べたりしますが, ネギ味噌 (ねぎを細かく刻み, 味噌を小さじ二杯程度加える. 熱湯を注ぎ, 熱いところをいただく. 風邪にもよい.) やネギの蒸し焼き (白ネギの茎の太いものを5cmの長さに切り少量のバターに少量の酒を加え, 蓋をして弱火で蒸し焼きにする. 塩もしくは, だし醤油, レモンをかけていただく.) が美味しく頂けます. また, サニーレタスやチシャの類にはラクッシンやラクットピコリンと呼ばれる睡眠物質が含まれており, 食べる睡眠薬として有名です. 調理法として生のレタスサラダ以外にサニーレタスの炒め物 (手で葉を千切る. 油に刻み生姜, おろしニンニクを入れて炒める. 味醂, だし醤油で味付けする. 一株で一人分.) があります.
 クコの実は強壮剤としても有名ですが, クコ茶 (葉を乾燥させて, 弱火で軽く焙じる. 根も使用する. 茶葉として飲用する.) やクコ酒 (生のクコの実500gに対してリカー1.8リットルを加え3週間以上ねかせる.), クコ飯 (クコの葉を刻みさっと炒めて塩味を付け, ご飯に混ぜる.) としても調理できます.
 くるみなどのナッツ類は睡眠をコントロールするといわれるメラトニンを体内で生産する原料となるトリプトファンを多く含んでいます. くるみだれ (くるみを水に半日浸し皮を取る. 少量の水を加えミキサーで攪拌する. クルミがゆ, 和え物に使用する.) やクルミ餅 (搗きあがった餅にくるみと好みにより黒砂糖もしくは自然塩を加える.) はほっとするとても美味しい食べ物です.
 野に生えるたんぽぽは健胃作用で有名ですが, 春にはたんぽぽのお浸し (葉と茎をさっと茹でごま和えにする.) や, 普段からのタンポポコーヒー (たんぽぽの根, 葉, 茎を乾燥し, から煎りする. これをミキサーにかけ粉にする. 小さじ一杯程度を熱湯100mlに混ぜて飲む. 好みで蜂蜜などを加える.) などの飲用が元気の源となります. また, アキノノゲシはタンポポと同様, 野草ですので葉と茎をお浸し, ごま和え, 煮浸し, 炒め物に用います. アキノノゲシは不眠や視力向上に用いられますが, この乾燥葉・茎10g,にオオバコ10g,甘草2g, 水3合を加え, とろ火で半量とし温服すると効果があるとされます.
 喘息などの咳のひどい時に咳止めとして用いられてきたれんこんの絞り汁 (れんこんをおろし, 杯一杯の絞り汁をそのまま飲むか, 絞り汁に約100mlの熱湯と塩もしくは茶さじ一杯の蜂蜜を加え飲む.) は有名ですが, 通常は一般的な煮物や蓮餅 (れんこんをおろし金でおろし, 耳たぶ程度に少し汁気を切り, 葛を加えて形を整え, 低温の油で軽く揚げる. 油を切り, お椀に入れて汁をはる.) などに用います.
 ゆり根の煎じ汁 (ゆり根を水洗いし, 乾燥して保存する. ゆり根に水を加え, 煎じて飲む. 甘みを加えてもよい.) は古くより体力を付けるために用いられてきました. また, ゆり根の煮物 (ゆり根の土や籾殻をよく落とし洗う. だし汁に味醂, だし醤油にてそのままの形で煮る. 黒砂糖か蜂蜜を加えてもよい.) も, 体力のない方にお勧めです.
   体力のない方のセロリの調理法としてはセロリの炒め物 (セロリを7cm程度の長さに切る. それを線維に添って縦に5mm程度の厚さに切る. 紫蘇の葉は細かく刻む. 少量の油におろしにんにく, おろし生姜を入れ, セロリを入れてさっと炒める. 味醂, だし醤油で味付けし, 最後に紫蘇の葉をからめる. セロリ1本一人前程度.) があります. 同様に, 体力のある方はキヤベツ千切り (キヤベツを千切りし, 軽く自然塩を振り, 約20分程置きます. シソオイル, 晒しタマネギのみじん切り, 紫蘇の葉のみじん切りを加え, ポン酢で味を整えます.) があります. キヤベツに含まれるビタミンUは加熱すると失われるので生食が良いのですが, 非常に体力の落ちている方はキヤベツスープなどにして温食します.
野菜以外の効果的な睡眠誘導食品目としては, 古く欧州の修道院における尼僧の精神安定剤として用いられてきたホットミルクがあります. ミルクにはモルヒネ様ペプチドが含まれており, これが脳に働き鎮静効果が得られことが解っています. またミルクに多く含まれるトリプトフアンやビタミンB群, カルシウムなどは睡眠を誘導する栄養素です. しかし, ミルクは強い陰性食品なので, 体力のない人が多飲するのはお薦めできません. 病人などには通常のミルクより赤ちゃん用の粉ミルクが良く, 必ず暖めての飲用がお薦めです. 次回は東洋医学的な睡眠誘導法をお知らせ致します.
参考文献:薬草の自然療法 池田書店 1991, 天然食材による自然療法薬 産調出版 1997, 体に良く効く100の自然療法 廣済堂出版 1998 , 快眠力 三笠書房 1999 , どんな不眠もこれで治せる 図書印刷株式会社 2002
(滋賀県立大学人間看護学部教授)

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