MAN会報
栄養学講座―脂質
その2


当会 顧問理事 藤田きみゑ

 前回は脂質の種類やその摂取量などについてお話しいたしました。 今回は具体的な油の摂り方について私見を述べさせていただきます。 近頃はグルメブームに乗ってさまざまな食事法がテレビやラジオなどのメディアを媒体とし流布されるようになりました。 その中には成る程と感じ入るものや、 これはちよっとどうかなと考えさせるものなどがあったりします。 特に、 食品中のある一つの成分を取り上げて、 あたかもそれが健康を維持するために必須の成分であり、 それさえ摂取していれば元気百倍などと幻想を抱かせるような喧伝の方法で賑(にぎ)わすのはいかがなものかと感じたりいたします。 例えば、 ブドウの表皮や表皮下に多く含まれるポリフェノールを摂取するために、 糖尿病の患者さんに糖質の多い葡萄酒やブドウジュースを多く飲ませたりすることなどです。 健康な人でも葡萄酒を多飲すれば肝臓や膵臓に負担を掛けますし、 また、 殆どの葡萄酒の中に含まれている防腐剤はアレルギーの患者さんにはお勧めできません。 食事は常にバランスよく摂取することが大切であり、 どの食品がどのような働きをするのか、 また、 その働きを考えながら日常の中でちよっとした創意工夫を加える知恵が必要なのだと思います。
 油脂は前回にも述べましたように、 人には必須の食品目であり、 毎日大さじ2杯程度の油脂を摂る必要があります。 その油脂をどのような形で摂るのかが今回のポイントとなります。
 さて前回、 脂質の仲間の内では多価不飽和脂肪酸(必須脂肪酸)のn-3系であるα-リノレン酸を適切に摂取する必要性を述べました。 そして同時に、 食用油のα-リノレン酸とリノール酸の含有比率の表を示しました。 この表の大切な点は、 どの油を摂取すればよいのかが示されていたことです。
 一昔前では動物性油脂を敵視し、 バターはコレステロール値を上げ動脈硬化を促進させるため体に良くない、 マーガリンが動脈硬化予防のために最良の代替食品であるとの指導がなされていました。 しかし現在では、 マーガリンは人工的に合成された食品でありアレルギーを惹起し易く、 発ガンの危険性があると警告されています。 また、 以前はラードやフェツト、 バターなどの動物性油脂を軽減させるために植物性油脂が奨励され、 特にコレステロールを下げる働きのあるn-6系のリノール酸を多く含むサフラワー油、 コーン油、 サラダ油が多く推奨され使用されました。 その結果、 多くの指導者の意に反してアレルギーや癌を増加させたと考えられています。 アレルギー患者がまだ少なかった40〜50年前頃は食卓にはバターがありました。 そして、 上等な天ぷら屋さんではごま油が用いられていましたが、 一般家庭での天ぷらには菜種油が多く用いられていました。 この菜種油のα-リノレン酸含有率は11.3%、 リノール酸含有率は24.1%と、 各々の比率には差が少なく、 酸化されやすいリノール酸が多過ぎず含まれています。 しかし現在、 スーパーマーケットやデパートに行きますと、 この菜種油は隅の方に追いやられるか置いていないような有様となっています。
 もう一つ体に良いとされる オリーブ油は、 α-リノレン酸が0.9%、 リノール酸13.1%と、 オリーブ油の比率もリノール酸過多となってはいませんが、 α-リノレン酸の含有率は少し低くなっています。 また最近、 よく用いられるごま油はα-リノレン酸0.3%、 リノール酸 43.8%とその差は大きく、 ごま油は香り付けにはよいのですが、 揚げ物や炒め物など調理の主体となるにはリノール酸の比率が高すぎることが解ります。 当然のことながら、 リノール酸比率の高いサフラワー油、 コーン油、 サラダ油 はアレルギー症状のある人にはお勧めできない油脂であることが理解されます。
 一方、 α-リノレン酸比率の高い油にはしそ油、 えごま油、 あまに油 などがありますが、 いずれの油も一般には市販されていないことが多く、 手に入りにくい油脂類です。 私は長い間、 しそ油を探していましたが、 以前見つけたしそ油はとても高価で、 日常的に摂取できるような代物ではありませんでした。 しかし、 ついに京都三条の明治屋さんで何気なく陳列されていた安価なしそ油を見つけました。 スギヤマ薬品(薬品会社です)製造のその油の添付書には他の油と併用しないことという注意書きが書かれていました。 できるだけ加熱せずサラダなどに用いる様にという注意書きの指示通りポン酢と共に食してみましたが、 実にさらりとした、 油でないような新しい感覚の美味な油脂でした。 効果の程は未だ解りません。 食品は薬物のように今食べたからすぐ変化が起こるというものではないからです。
 韓国焼肉ではチシャとえごまの葉をお肉に巻いて頂きます。 えごま油は手に入りませんが、 最近では一般のスーパーマーケットでこのえごまの葉を売っているのを見かけるようになりました。 えごまの葉にどの程度のα-リノレン酸が含まれているのかは解りませんが、 動物性油脂である牛肉とえごまの葉の組み合わせは実に妙を得ていると感じます。
 油料理で気を付けないといけないことは、 加熱し過ぎたり油を繰り返し用いることにより過酸化脂質を作ってしまうことです。 過酸化脂質は動脈硬化や老化などの様々な弊害を人体組織や血管に与えてしまいます。 そのため、 油はもったいないと思っても一回限りの使用とし重ねて用いないこと、 煙が出るほど油を加熱しないことを常に指導してきました。 天ぷらを揚げた油を油入れに保存しその油で炒め物を作ったりすると、 知らない内に過酸化脂質が体内に入ってしまうということが起こってしまいます。 また、 油の缶や瓶を開封すれば酸化されない内にできるだけ早く使い切ることが大切です。 そのためにも1週間のおおまかな調理献立を立て、 油を無駄なく使い切る工夫と油の缶や瓶の密閉の習慣を身につけるようにしたいものです。 同じ理由により油を使った調理品はできるだけ早く食べることが肝要です。 天ぷらを多めに揚げて翌日まで置いておくと油が酸化され、 過酸化脂質が生じてしまいます。 ドーナッツやポテトフライは当日食べる分だけを揚げるという手間が子どもさんの食育に必要です。 このような観点からも、 長らく袋に入れられ天日に晒された揚げ菓子や市販のポテトチップス類は良いおやつとは言い難いのです。
   日常生活で油をどのように摂るのかは個人のライフスタイルに依存することが大きい訳ですが、 今風の朝食ではパンにバターかマーガリンというパターンが多いのではないでしょうか。 先述致しましたが、 もし、 パン食を継続されるのならバターの方がお勧めです。 もし、 和風ならば和え物やサラダにしそ油などを少しかけて頂くという方法もあります。 お昼や夜に炒め物などをされる時にはオリーブ油などが良いでしょう。 天ぷらには菜種油がお勧めです。 油の量は糖尿病の患者さんや成人の最低摂取量としては大さじ2杯程度、 あとは年齢と身長体重、 仕事量により変化します。
 α-リノレン酸と同じn-3系の油脂には背の青い魚に多く含まれるエイコサペタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA) があります。 (前回、 栄養学講座−油脂−その1. 参照)いずれも血液の流れをさらさらにする働きがあるということで注目を浴び、 EPAのカプセルも作られたりしましたが、 近年、 このEPAの摂りすぎは糖尿病などを悪化させるという研究データーなどが報告され、 最近では加熱ムードに水を差された状況です。 食品は自然に口から入るものが良いとの教えなのでしょう。
 余談ですが、 前回、 肉食が好きな人は肉類を魚に変える工夫が必要ですと書きましたが、 その選択も考えさせられる広報が11月2日に厚生労働省によりなされました。 その内容は、 妊婦がメチル水銀濃度の高い魚介類を食べ過ぎないように呼びかけた2003年6月公表の注意事項を見直して拡大し、 計15種の魚類について注意を喚起し再公表するといったものです。 その中ではキダイ、 マカジキなどは週2回まで、 日本人が大好きなクロマグロやミナミマグロ、 メバチマグロ、 キンメダイなど7種は週1回までの摂取に控えるようになどと細かく指示されています(厚生労働省ホームページ参照)。 水銀が胎児に多く蓄積され、 水俣病と同様の神経症状を発症することを警戒したものと考えられます。 マグロや鯨などの大型の魚類の脂肪には重金属、 特に水銀が蓄積し易く、 大型の油の多い魚類は要注意です。 従って、 魚を摂取する時には小型のものが無難です。 自然の恵みである魚類も健康維持のために選択しなければならないこの環境の変化は本当に悲しい状況と言わざるを得ません。 しかしながら、 元気がなくなると油が切れたという表現が用いられるように、 脂質は私達にとって大切な食品目です。 油脂の知識を応用し皆様の食卓がより良いものになればと思います。
(滋賀県立大学人間看護学部教授)
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