MAN会報
自然に守られて生きる

当会 顧問理事
理化学研究所
遺伝子多型研究センター
アレルギー体質関連遺伝子研究チーム
玉利 真由美


人間は昔から自然の中で社会を作り、 生かされてきました。 社会とは支え合う仕組みのことであり、 人間は自然に守られて、 自然と支え合って暮らしてきたと言えます。 最近、 喘息の発症に関して衛生仮説という学説が注目されています。 これは近代的な衛生環境が喘息の発症を促進しているという仮説です。 人間は外敵から身を守るために免疫というシステムを持っています。 その第一線が上皮バリアーと呼ばれるものです。 喘息の場合、 この上皮バリアーは気管支上皮粘膜にあたります。 このバリアーが風邪のウイルス等で破壊されると、 ダニやカビなどの抗原が本来、 無菌環境である粘膜上皮下に侵入し、 炎症が発動します。 この上皮バリアーについて、 昨年興味深い研究報告が発表されました。 それは大腸粘膜上皮での仕事ですが、 大腸にいるバクテリア (この論文では共生菌という言葉を使っています。) からのシグナルを上皮が受け取り、 上皮を丈夫に保っているというものです。 抗生物質を大量に投与して、 この共生菌を無くしてしまうと大腸上皮は、 化学物質による障害で簡単に死に落ちてしまい、 バリアーが破壊されるというものです。 共生菌が大腸上皮を強くして外界からの障害から守っているのです。 バクテリアという言葉には悪いイメージがつきまといますが、 コレステロールのように善玉、 悪玉がいます。 善玉菌は上皮バリアーを突破する能力はなく、 静かにヒトと共生しています。 一方、 病原菌と言われるバクテリアは上皮バリアーを突破する能力があり、 これはしっかりと治療する必要があります。 我々は、 殺菌、 消毒、 抗生物質によりこの悪玉のバクテリアを制圧してきましたが、 それと同時に自分たちの周りから善玉菌も大分へらしてしまったように思います。 子供が泥だらけになって遊ぶ姿が少なくなり、 土がアスファルトで塗り固められ、 アレルギー、 アトピー疾患が激増しています。 近年までは、 ヒトはずっと土の上で生活をしてきました。 落ち葉が土の上に落ちるとその形はしばらくすると消えて無くなり、 土へと帰って行きます。 これは土の中に大量のバクテリアやカビが存在し、 落ち葉を分解しているのです。 土1gの中には一億個のバクテリアが含まれていると言われています。 衛生仮説は不衛生な環境での生活を推奨するものではありません。 自然と大いにふれあうことの重要性を示唆していると思います。 食事についても、 冷蔵庫のない時代、 人間は食料を発酵という技術を使い、 保存し生活してきました。 これらの発酵食品はアレルギーの治療に役立つのではないかと最近注目され、 研究が進んでいます。 この治療効果の仕組みは経口トレランスと呼ばれ、 粘膜を通して抗原を与えると、 その抗原に対するトレランス (反応性の低下) が誘導され、 免疫反応 (炎症) が起きなくなる現象であります。 クーラーや洗濯機のカビはアレルギーの大きな原因の一つですが、 カビは糸状菌と酵母に分類され、 酵母は発酵食品の原料となります。 この酵母を積極的に取ることにより、 経口トレランスが誘導され、 カビに対する反応性が低下する可能性はあると思います。 (この現象については、 これから科学的根拠を揃えることが必要ですが。) 最近はみそ汁やぬか漬けが食卓に並ぶ家庭が少なくなったとも言われています。 昔ながらの食事は発酵食品も多く、 無菌の食事よりも大腸上皮を丈夫にし、 さらにトレランスを誘導してくれる可能性があります。
いろいろと書きましたが、 自然とふれあう、 食事に発酵食品を取り入れるといったことは、 薬剤治療と異なり、 より安全で費用もあまりかかりません。 日頃の生活に役立てていただければ幸いです。 ただし、 喘息の調子の悪いとき、 お腹の調子の悪いとき (上皮バリアーのこわれているとき) にはこれらのことは控えましょう。 かえって菌体成分が病気の調子を悪くする可能性がありますので注意して下さい。
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