司会
神戸市立医療センター中央市民病院副院長 石原享介
出席者(発言順)
宮武内科院長 宮武明彦
広島アレルギー呼吸器クリニック院長 保澤総一郎


このHPは「Medical Tribune 2008年8月28日(株式会社メディカルトリビューン)」
に掲載されたものを再編集したものです。


■ICSの使用増加により,日本の喘息死は著しく減少

石原 わが国の喘息治療は,この十数年で飛躍的な進歩を遂げました。その大きな要因の1つはICSの普及だと思われます。ICSの使用増加に伴い喘息死者数は著しく減少し,AIRJ(全国喘息患者実態電話調査)によると,救急治療室の受診,予定外受診,欠勤・欠席は,2000年から2005年の5年間で有意に減少しました(図1)。



しかし,喘息が患者のQOLを低下させる疾患であることに変わりはなく,治療にはまだ多くの課題が残されています。ICSの使用率は,2000年の12%から2005年には18%まで増加しましたが(図2),治療の質の向上を図るには,これをさらに伸ばすことが必要です。



それには,軽症・中等症を中心に喘息患者を診療する実地医家の先生方にICSを積極的に導入していただくことが重要になります。

■喘息診断は丁寧な問診と聴診で

石原 喘息を診断する際,プライマリケアの先生方にとって重要となるのはどのような点でしょうか。最近では咳喘息が増加しており,咳を主訴とする,より軽症の気管支喘息患者も多く見受けられます。その点も含めてお聞かせください。

宮武 まず,問診および聴診を丁寧に行うことが大切です。夜間や早朝に起こる咳,痰,呼吸困難症状があれば喘息の可能性を考えます。しかし,問診のみで喘息と咳喘息を鑑別することは困難な場合もあります。なぜなら,両者とも夜中,早朝の咳で覚醒することがしばしば認められるからです。次に,鑑別に必要な聴診に際して,吸気および呼気とも患者さんにしっかりと呼吸してもらって,ラ音の有無を注意深く聴診します。もし,ラ音が聴取できれば気管支喘息の可能性を考えます。

保澤 問診では症状の誘発因子を聞き出すことも重要です。化学物質やタバコの煙,温度差などに敏感であるとわかれば,気管支喘息の可能性が高いと思います。

宮武 呼吸機能検査は有用な所見が得られますが,呼吸機能検査ができない場合には,胸部レントゲン検査で結核や腫瘍を除外診断した上で,ICSの投与を考えます。臨床では患者さんの自覚症状を取ってあげることが先決なので,ICSによる効果を見るというアプローチも有用だと考えます。

石原 プライマリケアの先生方がICSを使用する頻度は残念ながら十分でないのが実情ですが,いかがでしょうか。

保澤 患者さんの側にも副作用への懸念からICSに対する抵抗感がまだ残っているようです。ICSは効果と安全性のバランスが優れているので,これを患者さんにしっかり説明することが大切です。

宮武 確かに,まだICSの投与に関しては海外ほど十分ではありませんが,それでも確実にICSを使用されている先生が増えていると思います。また,ICSを怖がる患者さんに対しては,保澤先生がお話されたように,特に,十分な説明が必要です。また,ICSの効果を実感していただくために,吸入指導をしっかりすることも大切です。

石原 いずれにしても,患者医師両方が,ICSに対する理解をさらに深めることが今後も必要ですね。

■効果発現が早く有用性の高いSFC

石原 先生方はこれまでICSを十分に使ってこられ,SFCが登場してからはこれを積極的に導入されているということですが,SFCを使用した手応えはいかがですか。

宮武 SFCは,発売前から海外で評価の高い吸入薬であることを知っていましたので,日本でも早く使用出来ればと期待していました。この吸入薬は,FPとSLMを1剤で同時に吸入出来るため,患者さんのアドヒアランス向上という観点からも有用性の高い吸入薬です(図3)。



当院では,2007年6月発売以降約6か月間に,SFC500(SLM50μg/FP500μg)とSFC250(SLM50μg/FP250μg)の両剤型を新患65例,再診190例に処方しました。特に,ICSとSLM未使用の新患あるいはICSのみ使用の新患については,1か月後の1秒量が30%近く増加する症例もあり,効果がすぐに現れるので,患者さんのICS治療に対する信頼感がますます高まりました。

石原 保澤先生はSFCによる喘息症状改善効果を検討されたそうですね。

保澤 広島県内11施設の協力で,遷延性咳嗽を主訴とする47症例を対象に,症状に応じてSFC100(SLM50μg/FP100μg),250,500を処方し,咳の回数,咳による苦しさの程度,喘息コントロールテスト(ACT)のスコアなどの変化を調べたところ,いずれも約80%の患者が著明に改善しました。また,これまでSFCを使用してきた経験から,多くの場合,SFC投与開始から,2週間以内に患者さん自身も実感できるほどの改善効果が得られるという印象を持っています。

石原 SFCにはLABAとICSの薬理学的相乗効果も認められており,早期に効果が実感できて肺機能も改善されるという,実地臨床においては非常に有用な薬剤だと考えます。保澤先生,SFCによる症状改善が得られたあとの維持療法についてはどのようにお考えですか。

保澤 症状が安定し,呼吸機能にも問題がなければ減量を行います。SFC500から導入したのであれば,SFC250に減量し,これで安定が得られた場合,SFC100を使用します。ICS200μg/日の単剤療法への切り替えも考慮しますが,FP250μg1日2回でコントロール良好な患者を対象に,SFC100 1日2回投与へステップダウンした場合,FP250μgの継続投与群に比べ,より優れたコントロールが得られたとの報告もあり(図4),SFCではより低いICS量での管理が可能であると思います。



■投薬期間制限の解除でSFCの処方が容易に

石原 2008年7月1日にSFCの投薬期間制限が解除されました。これにより,今後どのような変化が起こるとお考えですか。

宮武 投薬期間制限が解除されたことで,2週間ごとの通院が困難な患者さんや,症状が安定していて頻回の通院の必要のない患者さんについては,受診回数を大幅に減らすことが出来ます。特に,医師のメリットとしては,SFCはFPの含有量が100μg,250μg,500μgの3用量そろっているので,さらに喘息治療の幅が広がり,個々の患者さんの状態に応じたきめの細かい治療管理が可能となりました。

保澤 この1年,多くの患者さんが頑張って2週間ごとに来院していました。そのくらい患者さん自身にも効果が実感できる薬剤なのです。ですから,投薬期間制限が解除されたことで対象患者は著しく増えると思います。

石原 冒頭でも述べたように,わが国の喘息死者数は減少していますが,喘息死者の9割は60歳以上です。高齢者や重症者の喘息コントロールの質を向上させ,良好なコントロールを維持するには,適切な受診頻度で患者さんを細かく観察していくことも重要だと考えています。そこでSFCはどのような役割を果たすでしょうか。

宮武 高齢者では,喘息以外の合併症,例えば,高血圧,糖尿病,骨粗鬆症などの薬剤の投与を受けている方が多いので,薬剤の相互作用を考えれば,できる限り薬剤数を減らしてシンプルな治療を心がけるべきです。SFCについて言えば,この吸入薬1剤で喘息がコントロールされている人も珍しくありません。また,重症喘息の患者さんについても,吸入薬の種類を減らすことが可能となり,喘息治療のアドヒアランスが改善すると考えます。

保澤 SFCにより朝晩各1回の吸入で,しかも1剤で炎症と狭窄を両方コントロールできる薬剤は,高齢者患者へのICSのさらなる普及にも大きなインパクトを与えると思います。

■患者指導では継続使用の必要性を強調

石原 SFCを処方する際に注意すべき点などがありましたら具体的にお教えください。

宮武 SFCは効果の立ち上がりが早く,喘息症状のコントロールが早くできるので(図5),患者さんは喘息が治ったと勘違いをして,勝手に吸入薬を減量したり,吸入を中止してしまうことがないように気を付けなければなりません。喘息は慢性疾患であるということも含め,患者指導を繰り返し実施することが重要です。



石原 減量についても喘息コントロールの状態により,主治医と相談しながらゆっくり行うことなども理解していただくことが必要ですね。

宮武 その通りです。SFCの減量については,他のICSと同様に,患者さんに吸入継続の必要性を十分説明し,減量をあせらずにすること,また,もし,嗄声や口腔内カンジダ症などが起こった場合には速やかに受診していただくことが必要です。

■今後,喘息治療はSFCを中心に展開

石原 最後に,プライマリケアの先生方に対するアドバイスをお願いします。

保澤 最近は喘息に対する治療の早期介入の重要性が言われており,症状,特に咳を指標に診断し,SFCを導入する方法が有用です。SFCはLABAにより早期に患者さんが効果を実感しながら同時にICSを吸入することができますので,治療の導入に非常に有用です。SFCを導入する際,プライマリケアの先生方の中にはどの程度の量を使えばいいか判断に悩むことがあると思いますが,症状が強い場合や,症状が頻回に現れる場合はSFC250〜500を使い,軽症であればSFC100を導入するのが適切ではないかと思います(図6)。SFCを使って喘息へのICS治療の導入を行って頂くのも,1つの方法ではないかと思います。



宮武 SFCは抗喘息効果が強いので,まず,喘息を疑ったらSFCを単独で使用してみて効果判定をしてみてはいかがでしょうか。今後の展望としては,SFCが導入されたことにより,プライマリケアの先生方のICS使用頻度が飛躍的に増加し,その結果,喘息の新患患者の半数以上は,喘息専門医の介入なしに症状がコントロールされるようになり,私達専門医が扱うのは限られた難治性の喘息患者さんが中心となる,そんな時代がすぐ近くまで来ているのではないかと考えています。

石原 私がSFCの導入で一番期待するのは,優れた臨床効果はもちろんですが,SFCの効果によってICSの有用性が広く理解され,結果的にICSの使用患者の増加が加速して,わが国の喘息治療の全体的な質が向上することです。いずれにしても,世界的に見てSFCは圧倒的に処方率が高く,日本においても,今後はSFCを中心として喘息治療が展開されていくことになりそうです。本日は先生方,貴重なお話をありがとうございました。


AIRJ(全国喘息患者実態電話調査)
日本における喘息治療・管理の現状をガイドライン(調査当時)の目標達成度の観点より把握することを目的に,電話調査を行った。
●調査期間:2000年9月21日〜12月11日,2005年9月25日〜12月4日
●調査手法:電話聴取法
●調査対象:16歳以上の喘息患者および15歳以下の喘息患児の保護者
●サンプル数:2000年803s(16歳以上の喘息患者401s,15歳以下の喘息患児の保護者402s),2005年800s(16歳以上の喘息患者400s,15歳以下の喘息患児の保護者400s)